国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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工芸継承

(2)玉虫塗  2018年9月15日刊行

日高真吾(国立民族学博物館准教授)


玉虫塗パフ入れ。光の当たり方の加減で微妙に変化する色味が美しい=東北歴史博物館所蔵

商工省工芸指導所の試作品のなかに玉虫塗のパフ入れが残されている。漆塗りなのだが、一般的な漆器とは異なり、光の当たり具合で微妙に色味が変化してみえる。この色調の変化が、タマムシの羽に似ていることから、玉虫塗と名づけられた。

この玉虫塗は、工芸指導所で輸出用に開発された技法で1933(昭和8)年に特許を取得している。海外で好まれる漆器を目指して、色味やデザイン、質感の観点から、徹底的に試行錯誤がおこなわれて開発された技法である。基底材のうえに銀粉をまき、染料を加えた透明な漆を塗り上げることで、従来の漆器にはなかった仕上がりとなる。玉虫塗は、39(昭和14)年に特許実施権を得た東北工芸製作所(仙台市)に伝えられ、85(昭和60)年に宮城県の伝統的工芸品の指定を受けた。

工芸指導所は、玉虫塗をはじめ、輸出用の産業工芸品の開発に積極的に取り組み、その情報を「工芸ニュース」という機関誌で次々に紹介している。また、輸出向けの工芸品展を毎年開催し、民間企業と連携しながら、新しく開発した技術の普及を図った。

世界に通用する工芸品を目指して、技術開発とデザイン研究を推進した工芸指導所の活動が、この小さな玉虫塗パフ入れからも見て取れるのである。

シリーズの他のコラムを読む
(1)「商工省工芸指導所」
(2)「玉虫塗」
(3)「非円形ろくろ」
(4)「成形合板」