国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

ドイツの保育園

(4)家賃高騰の影  2019年1月26日刊行

森明子(国立民族学博物館教授)


キンダーラーデン「小さくても強い」。立退き後も抗議文は残る=ベルリンで2013年10月、筆者撮影

ベルリンの壁崩壊後、再統一を遂げた首都は、いくつもの記念碑的建築物を生み出したが、同時に物価は上昇をつづけ、人々のくらしをじわじわと圧迫している。とくに家賃の上昇はすさまじく、その波は保育園にも及ぶ。

「小さくても強い」という名前のキンダーラーデン(保育園)は、1970年代に保育活動をはじめたパイオニアであるが、013年夏、家賃を払えなくて立ち退きになった。

冷戦時代、ベルリンの壁に接するこのあたりは西側世界のどん詰まりだった。がれきの山も残るうす暗いストリートの空き店舗を利用して、「小さくても強い」はつくられた。幼児と高齢者が参加するプログラムを推進して、街区の人々が集う場としての役割も担っていた。

壁が崩壊し、21世紀にはいると、ストリートは人気のスポットとなり、「小さくても強い」の家賃も値上がりした。保護者と保育士が運営する保育園の経営は厳しい。救済を行政に訴えたが通らなかった。立ち退いた後の空き店舗のショーウインドーに、コピー用紙に走り書きした文が残されていた。そこにはあいさつとともに「35年間ここで活動し、家賃のために出ていく、これが正しいのだろうか」ということばもあった。

それから5年たったいま、立ち退きは増えて事態は深刻化している。

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(1)「キンダーラーデン」
(2)「多文化教育」
(3)「学童保育」
(4)「家賃高騰の影」