国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

多文化の中の子育て

(2)国籍を選ぶ  2019年2月9日刊行

松尾瑞穂(国立民族学博物館准教授)


「海外インド市民権」の証書。なかに終身と記されている=2016年、筆者撮影

国際結婚や移民家族のようなミックスドカルチャーな環境で育つ子どもは、両親とは違う国籍やパスポートを持つことも多い。

大まかに、国籍の取得には生まれた国の国籍が与えられる出生地主義と、親の国籍を継承する血統主義がある。日本は血統主義を採用しており、日本人の親から生まれた子どもは日本国籍を取得する権利を持つ。かつては、国際結婚をした日本人女性は日本国籍を喪失し、生まれた子も日本国籍を取得することはできなかったが、いまは撤廃されている。

どちらも二重国籍を認めていないインドと日本の国際結婚家族である我が家の場合、子どもの国籍は当然、どちらか一方を選ぶしかない。とりあえず日本で暮らす可能性が高いこと、日本のパスポートのほうが移動の利便度が高いこと、といった実用的な理由から子どもは日本国籍を取得した。それ以外に、インドの政策も大きい。インド政府は、たとえインドに住んでいなくとも、インド国籍を持つ人の配偶者や子どもに「海外インド市民権」という法的ステータスを与えており、選挙権などを除く多くの権利を認めている。したがって、国籍がなくとも何年だろうとインドに暮らすことが可能だし、出入国も自由である。太っ腹な政策のおかげで、二重国籍ならぬ二重市民権を法的に享受できるのだ。

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