国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

ルーマニア社会主義

(2)ブカレストでの夏季講座  2019年8月10日刊行

新免光比呂(国立民族学博物館准教授)


ニクソンがチャウシェスクにプレゼントしたインターコンチネンタルホテル=ルーマニア・ブカレストで2007年、筆者撮影

社会主義体制下のルーマニアで宗教は困難な立場にあった。国民的宗教であるルーマニア正教会は民族主義と関わりが深く、政府に協力する姿勢を示す限り、ある程度の自由が認められていた。だが、他の宗派は厳しく管理あるいは弾圧されていた。

こうした状況下で、宗教研究などできるはずもない。そこで、フォークロア(民俗)研究へと方向を変えた。そのためにはルーマニア語が必須である。宿舎と食事つきの大学での1カ月の語学研修は願ってもない機会だった。

ブカレストの夏は暑かった。朝食をとる食堂は強烈な光が早朝から差し込む。授業の教室には風もなく、午後に向かって温度はうなぎのぼり。朦朧とした意識のなかでルーマニア語による講義が続く。

幸い、昼食の後はシエスタ(昼寝)の時間である。夕方までゆっくりと過ごせる。日差しが暑いが街へ出る。都市改造の工事で埃にまみれたブカレストは散歩には適さない。だが、街の中心には美しいチシミジウ公園が広がっていた。そして少し足を伸ばすと野外民族博物館のある広大なヘラストラウ公園で市民がくつろいでいた。

講座参加者に対する監視に不安を覚えながらも、やがて友人もできた。そこで、ようやく貧困と抑圧のなかでも文化的な市民生活が保たれていることを知るようになる。

シリーズの他のコラムを読む
(1)1983年 絶望と諦観と
(2)ブカレストでの夏季講座
(3)クルージュでの夏期講座
(4)1989年、民主革命
(5)桃源郷を取り巻く現実