国立民族学博物館は,インド及びその周辺地域の思想・宗教・文化に関する文化人類学的な研究や教育についても厚い蓄積を持ち,様々な共同研究の開催と成果公開はもとより,博物館の展示や映像音響資料の収集と公開などを通じて研究成果を広く社会に発信してきました。
本拠点は,この蓄積を踏まえ,研究の国際化と機関間連携化に特に力点を置きながら,現代インドの宗教と文化に関する先端的な研究ネットワークのハブとしての機能を果たすことを通じ,現代インド地域研究の推進に貢献することを目的として,人間文化研究機構現代インド地域研究推進事業に2009年度の事業準備年度から参加しています。
本拠点の研究目標は,1990年代以降の急速なグローバル化の進展のもとでのインドの文化と宗教の変容のダイナミズムの解明にあります。
世界市場への直接的な連結や情報テクノロジーの広範な浸透などを背景に,1990年代以降のインドの文化や宗教は地域外の動向と共振しつつ基層的な部分から大きな変容を遂げつつあります。ヒンドゥー教を例にとれば,欧米を中心とした在外インド人を巻き込んだ宗教運動が多数存在し,インターネットなどの新しい媒体も積極的に活用しながら活発な展開を見せています。この運動には,90年代以降急速に勢力を拡大したヒンドゥー・ナショナリズムとの密接な関連が見られます。
一方,染織に代表される物質文化や音楽・映画などのポップ・カルチャーは,インド地域外に向けて「インド的なるもの」を発信する媒体となって,インドのソフト・パワー流通の一翼を担い,経済生産の上でも無視できない分野を形成するに至っています。ここで流布するインド・イメージは,近代以降のオリエンタリズムを逆手に取って構築される戦略性の高いものです。その世界的な流布と地域内への還流もまたナショナリズムの興隆との連関が指摘されています。
このように,宗教や文化の動向は90年代以降のインドの政治や経済,社会の動きと密接に絡み合っています。つまり,その動態の解明はインドの現状を理解し,今後を考える上で最も重要な課題の1つと言えるでしょう。宗教や文化と政治・経済とのもつれ合いは,生活世界のハイパー・ローカル化やアイデンティティー・ポリティクスの深刻化など,インドのみならず地球規模で広がる問題と深くつながっています。
本拠点はこのような現状認識に立ち,「現代インドの宗教:運動と変容」「環流する現代インド文化」という2つの研究グループを立ち上げ,調査・研究・成果の発信を推進してゆきます。 |