国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。
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巻頭コラム

70年万博収集資料  2018年3月1日刊行

野林厚志

1968年から69年にかけて、日本の人類学ではあるできごとがあった。70年大阪万博のテーマ展示に用いる民族資料の収集が世界の諸地域を対象に実施されたのである。テーマ展示は、太陽の塔を中心に設けられることになっていた。展示の総合プロデューサーであった岡本太郎は、サブプロデューサーの小松左京らとともに、展示の一部を、人間の「根源」というテーマに設定した。

 

「人間文化の、切実であり誇らかな証拠を置きたい。人間が「人間」になって以来、どのような手ごたえで生をたしかめてきたか、そのなまなましい実感をつきつけたいと思った。」

岡本が『世界の仮面と神像』(1970年)の中で述べたテーマ展示への思いである。このために、岡本は、当時の日本の人類学者たちに世界の民族資料、特に仮面と神像を集めて欲しいと依頼した。そこで結成されたのが、「日本万国博覧会世界民族資料調査収集団」(Expo '70 Ethnological Mission 以下EEM) である。EEMの団員に選ばれたのは、若手の教員、大学院生、海外渡行を経験したことのあるジャーナリストや技術者で、47の国や地域から2500点あまりの民族資料を収集した。

不思議なのは、なぜ人間文化の切実であり誇らかな証拠が、仮面であり、神像であると考えられたのかということである。半世紀前とはいえ、当時作られているもので人間の「根源」をあらわすことに無理があることは、人類学や考古学の素養が少しでもあれば容易に理解できる。20世紀の半ばに原始の残影を探すための収集を行うというのも無茶な話であろう。

3月8日から開幕する特別展「太陽の塔からみんぱくへ― 70年万博収集資料」では、EEMの収集資料を地域の脈絡に沿ってまずは紹介する。個々の地域の文化を丁寧に見ることが人類学の根幹をなすことは今も昔も変わらないからである。一方で、地域の多様な文化を集成していくことは、人間とは何かという根源的な問いを考えていくうえで必要なことである。文化の多様性とその変化、そして人間とは何かという課題を考える機会になることを願っている。

野林厚志(国立民族学博物館教授)

 

◆関連ウェブサイト
開館40周年記念特別展「太陽の塔からみんぱくへ― 70年万博収集資料」