国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

「第6回 極北社会科学国際会議(2008年)」への出席と報告

岸上伸啓

2008年8月22日~2008年8月26日 (グリーンランド)

スカンジナビアからグリーンランドに至るまでの環極北地域を研究対象とする第6回極北社会科学国際会議(ICASSVI)に参加し、研究報告を行なうことによって次のような成果を得た。

(1)極北先住民の経済開発について、経済学者や政治学者、行政学者は市場経済に基づくフォーマルな経済に関してのみ検討を進めてきたが、極北地域の経済を混交(社会)経済とみなすようになり、狩猟・漁撈などの生業(統計に出てこないインフォーマルな経済)に注目をし始めたことが分かった。しかしながら、経済学者や政治学者、行政学者は、極北先住民の経済についてマクロで、統計的な観点から理解しようとする傾向がある一方、文化人類学者はミクロで、質的な観点から理解する傾向があり、両者には大きな差異が存在していることを再認識することができた。したがって、ミクロとマクロをいかに関連させて文化人類学的に研究し、先住民経済の実態を描き出すべきか、が次の重要な課題となると考えるに至った。

(2)人類学者をはじめとする社会科学者は、極北地域における都市化や人口移動に注目する一方、極北地域からより南の都市地域へ移住した先住民に関する研究をほとんど行っていないことを再確認することができた。言い換えれば、モントリール在住イヌイットの研究は、現時点では唯一の都市在住イヌイットの研究であることが判明した。極北地域からそれ以外の地域へ移住する人口が急増しており、今後、極北地域以外の都市に移住した極北先住民の研究は、学問的にも実践的にも重要な課題となると考えられる。

(3)今回の学会には約15カ国から320人あまりの北方研究者が集まったため、研究に関する情報交換や交流を行うことができた。とくに、極北地域における人口移動、都市化、気候変動の諸影響、持続可能な経済開発、宗教(キリスト教)などに関する研究が、2007-2008年の世界極地年(International Polar Year)との関連で実施され、多大の成果をあげられつつことが分かった。