国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

「国際民俗音楽映画祭-ネパール2011」における民博制作映像番組Samir Kurtov: A Zurna Player from Bulgariaの上映と討論

寺田吉孝

2011年11月25日~2011年11月27日 (ネパール)

映画祭の主催者であるネパール音楽博物館は、ネパール民俗音楽の衰退を憂慮したラム・プラサード・カデル氏が1996年に設立した私設博物館である。映画祭で上映された12本の招待作品は、主にネパール音楽の記録に大きく貢献した3人のヨーロッパ人研究者(アーノルド・バケ、ムリエル・ヘルファー、キャロル・ティンギー)による映像であった。特に、バケが1930年代に撮影した映像は、ネパール音楽の最古の映像記録であるといわれる貴重な歴史的資料である。バケの弟子で、インド出身の民族音楽学者ナジル・ジャイラズボイ(前カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授)はエミー・キャトリン(同大学准教授)と共に、バケの取材地を46 年後に訪れ、当時の映像音響資料を伝承者や地域住民に還元することで、音楽の変化を調査した。映画祭では、このプロジェクトの記録映像番組(Bake Restudy 1984)が上映され、歴史的映像資料の活用の可能性を具体的に示した点で深い感銘を与えた。

応募作品の制作者は、民族音楽学者、映像作家、社会活動家、テレビ局、映画祭の主催者であるネパール音楽博物館など多様であり、テーマ設定や取材・編集の方法などにおける違いが鮮明に浮かび上がった。また、演奏者自身が制作した番組も出品されており、南アジアにおいても映像が手軽なメディアになり、伝承者が自ら番組を制作する時代が到来していることを痛感した。

申請者が上映したSamir Kurtov: A Zurna Player from Bulgaria(2008年制作、約38分)は、ブルガリア南東部にすむロマのズルナ奏者サミール・クルトフの音楽活動と、それを支える村の生活、演奏家の仲間たちを紹介する作品である。ズルナは、ネパールで最も重要な楽器の一つであるサハナイと同種類の管楽器(ダブルリード楽器)であり、両者の共通点や歴史的な関係について数多くの質問・コメントが寄せられた。また、映像を用いる音楽研究のあり方について、映画祭に参加した南アジア、ヨーロッパの研究者、映像作家らと意見を交換することができたことは極めて有意義であった。