国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

「私たちは皆アムル・ハーリドなのか?エジプトのイスラームとフェイスブック世代」『新世界秩序における若いムスリムたち』、第110回アメリカ人類学会年次総会―痕跡、潮跡そして遺産。

相島葉月

2011年11月16日~2011年11月20日 (カナダ)

申請者が参加したパネルは、9.11以降、アメリカを中心に広がる政治経済的な「新世界秩序」において、若いムスリム(イスラーム教徒)たちが宗教的アイデンティティと「若者らしさ」を交渉しながら生きる様子についてマリ、ニジェール、カナダ及びエジプトの事例より考察した。

発表者:
Adeline Masquelier (Tulane University, USA), Contradictory Subjects: Youth, Fun and Ethics in Niger.
ヒップホップ・ミュージシャンを目指すニジェールの若者が抱くイスラームに対する相反する感情を描いたエスノグラフィーより、経済的な貧困によって遷延された青年期が、成人ムスリムとしての人生を始める契機を阻んでいる実態を報告した。

Benjamin Soares (Leiden University, Netherlands), Muslim Youth and the Religious Economy in Neoliberal Mali.
マリの土着宗教とスーフィズム(イスラーム神秘主義)をクリエイティヴに融合させた若き宗教的実業家の事例より、有料の宗教的サービスこそが、グローバル経済の周縁に置かれた若者が直面する問題を解決策となりうる可能性を指摘した。

Jennifer Selby (Memorial University of New Foundland, Canada), Transforming Religious Authority?: Young Muslim Women in Toronto Negotiating Matrimony on the Web.
トロントに住む高学歴のムスリム女性が、ムスリム男性と結婚するに際し、インターネットを利用して収集したイスラーム法に関する知識を援用しながら、マフル(新郎の持参金)を交渉する事例を比較、検討した。

Hatsuki Aishima (National Museum of Ethnology, Japan), Are We All Amr Khaled?: Islam and the Facebook Generation of Egypt.
近年エジプトでは、新自由主義経済の広がりにより、学歴や所得で中流層と下流層を差異化することがより困難になる中、「教養」の有無を指標とする新たな「階層観」が構築されつつある。本報告は、9.11以降増え続ける外国からの訪問者に対し、エジプトの若者が「ムスリム」としての自己を演ずる必要に迫られている現状を、アメリカ帰りの説教師Fadel Solimanが開催するダアワ(布教)講習会の事例より分析した。これまでのダアワ実践に関する人類学的な研究は「敬虔な主体 (pious subject)」についての議論が中心であったのに対し、本研究は中流層としての倫理観がダアワを実践する原動力となっている点を明らかにした。