国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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2009年2月28日(土) ~3月1日(日)
《機関研究成果公開》国際研究フォーラム「ライフデザインと福祉(Well-being)の人類学―開かれたケア・交流空間の創出」

  • 日時:2009年2月28日(土)~3月1日(日)
  • 場所:立命館大学衣笠キャンパス創思館カンファレンスルーム
  • 主催:国立民族学博物館
             立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点 立命館大学生存学研究センター
  • 後援:広島大学
             日本文化人類学会
             日本カナダ学会
             特定非営利活動法人関西交流団体協議会
             毎日新聞社
  • 定員:130名(参加費無料 要事前登録)
  • 使用言語:日本語・英語(通訳・要約筆記あり)
  • 申し込み・問い合わせ先:国際研究フォーラム事務局 国立民族学博物館
    研究協力課国際協力係

[チラシダウンロード:649KB(PDF)]
[毎日新聞掲載:2009年2月6日付]

 

社会の少子高齢化という現状認識のもとで、援助を必要とする人々への支援の基盤となる財源や人材の確保をはじめとして、 ケアや介護への関心が益々高まっている。とはいえ、普遍的現実としての老化や、ライフステージにおいて様々な不調を経験する人々の日常を考えるならば、 配慮や気遣いという意味でのケアは誰もが必要とする要素であろう。すべての人々に関わることがらとしてのケアを考えるにあたっては、 「ウェルビーイングwell-being」(良き生活・心地よさ)や生活の質(QOL)を検討する視点が不可欠である。ここでは「ウェルフェアwelfare」とともに「福祉」と訳されてきた「ウェルビーイング」という語に注目し、一方的な支援に留まらない双方向活動としての「福祉」のありかたについて考えたい。 それは、人々の願いや希望の多様性を探りその実現に必要な要素を見出すことでもある。年代や状況によって固定化された暮らし方を問い直すことは、その手がかりを与えると思われる。
本フォーラムでは、ケアの場として設定されてきた学校や高齢者の生活の場など、国内外の具体的な空間に焦点をあてる。 近代化過程において、人々の活動やその場は限定され専門的に整備される傾向がみられたが、ここでは、オルタナティヴとして行われてきた実践に注目し、 人々のウェルビーイングを構成する要素を問い直しそれを実現する活動の工夫が、一方向的な支援活動に留まらずより重層的な場の形成に展開する様相を検討する。

セッションⅠ 「人にやさしい社会の創生に向けて―大学からの情報発信と人材育成」
「大学アクセシビリティセンターにおける活動の展開」
「被災から復興におけるボランティア活動の変化-震災資料収集と情報発信を中心に」
本セッションでは、多機能空間としての大学について検討する。大学における支援活動の拠点で、弱者や被災者のみならず、すべての人々のニーズやアクセシビリティに関する情報が次第に蓄積され、 重層的継続的に活用されてゆく経緯を報告する。人々のニーズとして模索されてきた双方向的ケアが、 拠点における企画立案に展開し、大学をコミュニティに開き繋げてゆく過程について議論する。

セッションⅡ 「多文化社会における高齢者のクォリティ・オブ・ライフ」
「多文化主義カナダの高齢者集合住居とアウトリーチ」
「中国系老人総合施設イーホンセンターにおける継続的ケアと文化的背景への配慮」
本セッションでは、多機能空間としての高齢者対象施設について検討する。多文化社会カナダで、閉鎖的になりがちなエスニック高齢者集合住居において、外部との交流や異なる文化的背景の人々の入居が可能となるよう行われてきた、日系および中国系の施設を拠点とした協働の試みを報告する。とくにカナダにおいて施設間協働の際に重視される「アウトリーチ」の役割について議論する。

セッションⅢ 「高齢者のウェルビーイングから地域コミュニティのデザインへ」
「産業型福祉-高齢者を担い手とする産業の創出と町のデザイン」
「多文化都市モントリオールにおけるマギル大学の高齢者学習グループの展開」
本セッションでは、高齢者が求める多様なウェルビーイングとその展開について検討する。高齢者が望む多様な活動を充足するために工夫された支援が、高齢者やコミュニティの他の年代の人々の交流状況や生活を変化させてゆく様相を報告する。高齢者が求めるウェルビーイングを実現するための空間開発や産業振興に関わる工夫・調整の積み重ねが、人々の交流のありかたを含め地域コミュニティを変化させてゆく可能性について議論を深める。

セッションⅣ 「技術と障害者から始まるコミュニティ・デザイン」
「スペースALS-D-介護×ダンス×建築」
「難病患者の遠隔地間対面コミュニケーションと技術ピアサポート」
「重度重複障害者の日中活動と工学部学生の福祉ものづくり」
本セッションでは、双方向的ケアを可能とするシステム開発の現場に集う人々の活動について検討する。支援を必要とする人々の声を生かし、適合的な技術を構想する作業を、障害をもつ人々、学生、研究者が協同で行ってきた経緯を報告する。暮らしの場のウェルビーイングに関わる具体的なモノや方法の開発に関わる学生たちの学外活動が、街づくりに繋がる交流を生み出してゆく状況について議論する。

セッションⅤ 「オルタナティブ教育とライフデザイン」
「『試験のない学校』-デンマークのフォルケホイスコーレに集う人々」
「オルタナティブ教育と時のデザイン-現代アメリカにおけるアーミッシュという生き方」
本セッションでは、ウェルビーイングの把握と「教育」の意味を検討する。誰もが、立ち止まって考え学ぶことができる場として設定されたデンマークの特徴的な民衆学校や、公的高等教育ではなくアーミッシュの親たちが手作りするワンルームスクールを重視するオルタナティブ教育の実践について報告する。ライフサイクルにおける多様な時の過ごし方を可能とする空間の可能性について議論する。

発表と議論を通して、とくに以下の点を皆で検討したい。

  1. いかなる状態で何処にいても人々が囲いこまれることなく交流できる方法を開発することが、一方向的ではない「ケア=配慮・気づかい」の空間を確保することに繋がるのではないか、
  2. こうしたケア空間ひいてはコミュニティ構想にあたっては、専門職者とは限らない、すべての「ふつうの人々」が自らの「ウェルビーイング」に思いを馳せ、声を発し、議論・調整に参加することが出発点となろうが、これを可能とする人材やシステムはどのように構想できるか、
  3. 様々な活動に開かれるケア空間は、人々に交流の機会を提供するだけではなく、変化に対応しながら新しい企画を練る基点となって、より広いコミュニティにおける持続的共生を可能とする一要素を構成するのではないか。

このシンポジウムで得られた知見によって、ケア空間の創出とその柔軟な持続的活用に関する基盤的研究と応用的研究を深化させ、実践・研究の場に関わる人々のさらなる協働に繋げてゆきたいと考えています。

プログラム

2009年2月28日(土)
10:00 開会の辞
松原洋子(立命館大学大学院先端総合学術研究科教授・機関研究プロジェクト館外協力者)
≪挨拶≫
田村克己(国立民族学博物館 副館長)
立岩真也(立命館大学グローバルCOE「生存学」創成拠点リーダー/立命館大学大学院先端総合学術研究科 教授)
≪趣旨説明≫
鈴木七美(国立民族学博物館先端人類科学研究部教授・機関研究プロジェクト代表)
「ライフデザインと福祉(Well-being)の人類学」
セッションI 「人にやさしい社会の創生に向けて―大学からの情報発信と人材育成」
司会:松尾瑞穂(学術振興会特別研究員・機関研究プロジェクト館内協力者)
11:00 「大学アクセシビリティセンターにおける活動の展開」
佐野(藤田)眞理子(広島大学大学院総合科学研究科教授・広島大学アクセシビリティセンター長・国立民族学博物館特別客員教員・機関研究プロジェクト副代表)
11:30 「被災から復興におけるボランティア活動の変化―震災資料収集と情報発信を中心に―」
稲葉洋子(大阪大学附属図書館利用支援課課長・機関研究プロジェクト館外協力者)
12:00 コメントと質疑応答
海野るみ(お茶の水女子大学グローバル教育センター講師・機関研究プロジェクト館外協力者)
谷口陽子(お茶の水女子大学大学院研究員・機関研究プロジェクト館外協力者)
12:45 昼食
セッションII 「多文化社会における高齢者のクォリティ・オブ・ライフ」
司会:海野るみ(お茶の水女子大学グローバル教育センター講師・機関研究プロジェクト館外協力者)
13:35 「多文化主義カナダの高齢者住宅とアウトリーチ」
傳法清(モミジヘルスケア協会 アウトリーチコーディネーター・機関研究プロジェクト館外協力者)
14:05 「中国系老人総合施設イーホンセンターにおける継続的ケアと文化的背景への配慮」
Tilda Hui(Yee Hong Center for Geriatric Care Executive Director)
14:35 コメントと質疑応答
金本伊津子(桃山学院大学経営学部教授・共同研究館外研究員)
山田千香子(長崎県立大学経済学部教授・機関研究プロジェクト館外協力者)
15:20 コーヒーブレイク
セッションIII 「高齢者のウェルビーイングから地域コミュニティのデザインへ」
司会:福井栄二郎(島根大学法文学部准教授・機関研究プロジェクト館外協力者)
15:40 「産業型福祉-高齢者を担い手とする産業の創出と町のデザイン」
横石知二(株式会社いろどり 代表取締役副社長・機関研究プロジェクト館外協力者)
16:10 「多文化都市モントリオールにおけるマギル大学の高齢者学習グループの展開」
井川スミス史子(マギル大学人類学科教授・機関研究プロジェクト館外協力者)
16:40 コメントと質疑応答
遠藤英樹(奈良県立大学地域創造学部教授・機関研究プロジェクト館外協力者)
白水浩信(神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授・機関研究プロジェクト館外協力者)
2009年3月1日(日)
セッションIV 「技術と障害者から始まるコミュニティ・デザイン」
司会:松原洋子(立命館大学大学院先端総合学術研究科教授・機関研究プロジェクト館外協力者)
10:00 趣旨説明
松原洋子(立命館大学大学院先端総合学術研究科教授・機関研究プロジェクト館外協力者)
10:10 「スペースALS-D――介護×ダンス×建築」
阪田弘一(京都工芸繊維大学)
山本晋輔(立命館大学)
10:40 「難病患者の遠隔地間対面コミュニケーションと技術ピアサポート」
日高友郎(立命館大学)
水月昭道(立命館大学)
11:10 「重度重複障害者の日中活動と工学部学生の福祉ものづくり」
生田目昭彦(社会福祉法人・訪問の家「朋」施設長)
田坂さつき(立正大学)
大野英隆(湘南工科大学)
11:40 コメントと質疑応答
廣瀬浩二郎(国立民族学博物館民族文化研究部准教授)
中村征樹(大阪大学大学教育実践センター准教授)
12:25 昼食
セッションV 「オルタナティブ教育とライフデザイン」
司会:村田吉弘(広島市立阿戸中学校校長・機関研究プロジェクト館外協力者)
13:15 「『試験のない学校』-デンマークのフォルケホイスコーレに集う人々」
千葉忠夫(バンクミケルセン財団理事長・日欧文化学院院長・機関研究プロジェクト館外協力者)
13:45 「オルタナティブ教育と時のデザイン-現代アメリカにおけるアーミッシュという生き方」
鈴木七美(国立民族学博物館先端人類科学研究部教授・機関研究プロジェクト代表)
14:15 コメントと質疑応答
野村武夫(京都ノートルダム女子大学生活福祉文化学部教授)
大藪千穂(岐阜大学教育学部准教授)
15:00 コーヒーブレイク
セッションVI 全体討論
司会:鈴木七美(国立民族学博物館先端人類科学研究部教授・機関研究プロジェクト代表)
15:20 コメント
藤原久仁子(大阪大学グローバルCOEプログラム「コンフリクトの人文学」国際研究教育拠点特任研究員)
寺崎弘昭(山梨大学教育人間科学部教授・機関研究プロジェクト館外協力者)
15:40 全体ディスカッション
16:30 総括・閉会の辞
佐野(藤田)眞理子(広島大学大学院総合科学研究科 教授・広島大学アクセシビリティセンター長・国立民族学博物館特別客員教員・機関研究プロジェクト副代表)