国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

小山修三教授・森田恒之教授 退官記念講演会


2002年3月27日開催

森田恒之教授 退官記念講演会

お二人の紹介とあいさつ 石毛直道

講演風景 皆さん、本日はお足元の悪い中、お集まりいただきましてありがとうございます。
 小山修三教授と森田恒之教授は、定年の63歳を迎えられて、この3月31日をもって退官されます。
 小山教授は1976年に民博に助教授として着任されました。森田教授はその3年後、1979年に助教授として着任され、お二人とも現在に至っているわけです。民博が組織として創設されたのが1974年です。建物ができて、展示を一般公開して開館したのは1977年でございます。ですからお二人とも、民博の歴史をしょってこられた方々であるといってよいとおもいます。このお二人が去られますと、開館当時を知る館員というのは、研究部と情報管理施設をあわせても、もう数人しか残っておりません。
お二人のご経歴や業績の一端を、ここでごく簡単にご紹介させていただきます。

 小山さんは1984年に『縄文時代』という中公新書を刊行されました。それまでも、新進気鋭の研究者として、その分野の研究者たちの間では高い評価を受けておりましたが、この本を出されたことによって、一般の人々にも、「民博に小山あり」と知られるようになるわけです。この『縄文時代』という本には「コンピューター民族学による復元」というサブタイトルがつけられています。つまり縄文時代の食料資源や、人口などをコンピューターを駆使して、計量的に解明しようとした、大変画期的なお仕事として、日本の考古学者たちに大きな刺激を与えた本でございます。
 小山さんは一方、オーストラリアの先住民であるアボリジニの現地調査を長年なさってこられました。狩猟採集民であるアボリジニの社会のほかに、また同じく狩猟採集民である北アメリカ大陸の先住民のフィールドワークをなさっておられます。
 そういった狩猟採集民の社会と縄文社会を重ねあわせることによって、文化人類学から見た縄文時代の研究という分野を開かれたわけです。それまでの日本の考古学というのは、歴史学としての考古学がずっと主流でありました。そこへ文化人類学的な見方から考古学に新しい光をあてるという、言ってみましたら民族考古学、エスノアーケオロジーとでもよぶべき学問の開拓に努めてこられました。また青森県に三内丸山遺跡が発見されますと、その調査研究応援団長を買って出て、さまざまな活動をなさっていることは皆さんもご存じのことと思います。
 皆さんご承知のように、小山さんはその独特のキャラクターで、人々に愛される、民博の名物教授でございます。

 今度は森田教授について簡単にご紹介いたします。われわれの博物館にとっても、収蔵品を良好な状態で保存して後世に伝えるということは、きわめて重要な仕事でございます。その縁の下の力持ちのような仕事をしてきたのが森田教授でございます。
 私どもの博物館には、民族資料の標本が約24万点近くございます。従来の美術品だとか考古資料を対象としてきた保存科学の手法をそのまま、この膨大なコレクションの保存に機械的に適応するわけにはいきません。民族資料を総合的に、また体系的に保存するという、わが国における民族資料の保存科学という分野を開拓したのが森田さんでございます。
 また森田さんは、標本の保存の研究だけにとどまらずに、非破壊分析の手法を用いて、民族標本の制作技術などに関する研究も熱心におこなってこられ、その成果は展覧会「なかはどうなってるの? ─ 民族資料をX線でみたら」として1998年に開催されております。
 また森田さんをリーダーとして、国際協力事業団と共催で、7年前から「博物館国際協力セミナー」が民博で開催されております。これは発展途上国の指導的な立場にある人々を招いて、民博で実習だとか、博物館のマネージメントに関するトレーニングを大体毎年20日近くおこなう事業です。いままでに、受講者はすでに 100人を越えております。その受講者たちを通じて、海外の多くの博物館と民博との友好関係が築かれてきました。
また森田さんは、さまざまな国の民族学の博物館の創設や、資料の保存に関する助言や援助を現地に行っておこなっておられます。そのことが海外における民博の国際的地位を非常に高めることにつながっております。

民博にとってこのように重要な役割を果たしてこられたお二人が去られることは、我々にとっては大変な痛手でございます。しかし、お二人とも極めてお元気で、まだまだお仕事をされるエネルギーに満ち満ちておられます。これからもしょっちゅう民博へやってきて、後進の指導にあたっていただきたく存じます。

 なお4月1日付けでお二人に、国立民族学博物館名誉教授の称号を差し上げることが決定しております。 終わりに、お二人に心からご苦労様でしたと申しあげまして、わたしのごあいさつといたします。どうもありがとうございました。(拍手)