国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

石毛直道館長・栗田靖之教授・杉田繁治教授 退官記念講演会

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2002年3月19日開催

石毛直道館長 退官記念講演会

ごあいさつ 長野泰彦

講演風景研究部の長野と申します。一言ごあいさつを申しあげます。

本日は大変お忙しいところをここまでお運びいただきまして、まことにありがとうございます。石毛直道館長の退官記念行事を始めるにあたりまして、ごあいさつ申しあげます。石毛さんの出会いの思い出などを交えて申しあげたいと思います。

私はもともと東京の出身なものですから、そもそも大阪の地理もわかりませんでしたし、西も東もわからないで、研究室でボーッとしておったわけですが、私が石毛直道という名前を初めて認識いたしましたのは、実は民博の中ではなくて、新聞紙上でございました。ある日、私の家内が新聞を持ってまいりまして、その新聞紙のだいたい上半分ぐらいが、石毛さんがヘルメットというにはおかしい、鉄かぶとみたいなのをかぶりまして、オートバイに乗ってるという大きな写真が出ておりまして、その下にこういう変わった人がいるという記事が出ていた。それが私が石毛さんを認識した最初であります。

半年ぐらいたちましてから、なにかのときにお話をする機会がありまして、そのときに私が第1に気がつきましたのは、この人はヒとシの発音がひっくり返るということを発見した。私は東京ですので、これは東人だなと思った。それが2番目の印象でございました。

私は言語学を専攻しておりますので、それほど直接石毛さんと関係はなかったんでありますが、着任いたしましてから2年目か3年目だったと思いますけれども、民博がかなり力を入れて行ったハルマヘラ島のモノグラフが、ここの「SES」という英文紀要に出ました。かなり大部なものでありますが、さらにその大部なもののうちの半分ぐらいを石毛さんが1人で書いておりました。今でこそ、石毛と言えば今は食文化ですけれども、その論集はそうではなくて、民間信仰であるとか、狩猟であるとか、宇宙観とかいうトピックで、彼は非常に長い論文を書いておりました。

言語学をやっておりますと、言語学ではモノグラフ、つまり文法を書けるというのが一つの研究を測る尺度になっておりますので、そこでこういう非常に幅の広いことをやれる人が、つまりモノグラフを書ける人がいるんだなということを、そのとき、実感いたしました。

大きく見まして、石毛さんがやってきたことというのは、考古学から出発いたしまして、物質文化とか住居を中心とする生活様式、これがかなりの厚みのある基礎としてまずあって、その後に食文化の研究というのが続くというのが私の見方であります。

ただ、そうは言いましても、私のような言語をやってる者からしますと、よくもまあこういうふうにトピックをポッポッと変えていろんなことをやれるものだと。もちろん尊敬はしてるんですけれども、言語をやってる立場からすると、若干ばかにした部分がございまして、(笑)あるときに、確か「月刊みんぱく」かなにかの編集会議のときだったと思うんですけれども、当時、私は助手でありますが、生意気にも「よくこんなにいっぱいいろんなことができますね」ということを皮肉で言ったのであります。どうも皮肉だということが通じたらしくて、このときは石毛さんはかなり色をなして、いや、そんなことはないということを言ったんであります。そのときに私が一番感銘したのは、ようするに彼の研究の基盤を成しているのは、あくまでも物質文化であるということであります。

言われてみればそうでして、考古学は物質文化、特に石器を扱うのが一番多いわけですが、それと住居、それから食。この流れがよくわからなかったんですが、石毛さんの定義によると、食というのは形には残らないけれども、消費される物質文化なんだという考え方なんだと力説されたのであります。

その説明に私は大変感激いたしました。なるほどそののちのいろんな業績をずっと見ておりますと、その後ここの研究報告別冊で、「篠田統博士資料目録」というのが3冊続いて出ております。これは非常に貴重な資料集成といいますか、資料目録になってるわけですけれども、そういう物質文化という視点をベースにした、一種のアーキビストとしての石毛の面目を示すものだなと思います。

ホームページによりますと、現在、自分としては異色の仕事であるところの東アジアの歴史の比較を試みる文明論というのにいま力を入れていて、3分の2ぐらいは書き上がったという記述がございましたけれども、これはまさに物質文化とは異なる異色の業績になることと思います。

さきほどお入りになるときにお渡ししたと思いますけれども、彼の業績目録というのをパラパラと見ていただきますと、数も多いですけれども、さきほどの食文化も含めて、ようするに自分が興味を持ったことはきっちり仕事にしていく方でして、おそらくこれから先も、さきほどの比較文明論にしても、立派な業績が出てくると思っております。

ただし、業績目録の中できっちり仕事になっていない部分が一つだけございます。私は、彼が好きなもののうちで本としてものになってないのはパチンコだと思ってます。(笑)これに関しましても、それが文明論かどうかは知りませんけれども、いずれなんらかの形になって出てくるであろうと思っております。

今度のご健闘を祈って、ごあいさつといたします。(拍手)