国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

立川武蔵教授・熊倉功夫教授・田邉繁治教授 退職記念講演会

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2004年2月18日開催

田辺繁治 退職記念講演会

経歴ご紹介 杉本良男

講演風景 民族学研究開発センターの杉本でございます。田邊繁治教授のご紹介をいたします。先ほども館長から簡単なご紹介がありましたけれども、田邊教授は、京都大学文学部、大学院を経て、1974年の民博創設時に助手として赴任され、それ以降一貫して今日まで、民博一筋30年努めてこられました。私などの世代は一つ下の世代でして、田邊先生はずっと人類学の本道をリードされてきた方で、常に仰ぎ見てきた立場であります。私などがこういう席でご紹介するのも非常におこがましいのでありますが、立場上ご紹介する次第です。

田邊教授は民博に赴任された前後から、タイの農村調査を本格的にずっとやってこられました。最初は、稲作農耕技術の研究をやってこられ、ロンドン大学で1981年にPhdをとられておりますけれども、これは農業技術、稲作農耕技術の研究集大成といえるものです。

80年代ぐらいからは、私などがよく存じ上げている、田邊先生のもう一つの側面であります、実践宗教の研究、あるいは、実践知、実践という概念を一つキーワードにされて、ずっと現在まで幅広い関心のもとに研究を続けてこられております。

とくに北タイ、ラオスなどの仏教、精霊祭祀、霊媒カルト、それから最近ではHIVエイズの自助グループであるとか、そうした方面の研究をされております。この間、民博で主宰しておられた共同研究の成果などでも、東南アジアの実践宗教でありますとか、そうした方面の編著なども何冊か出しておられて、私などは一生懸命勉強した口でありますけれども、そうした方面に非常に、実践宗教、東南アジアの実践宗教という面に限らず、恐らく世界的な思想的な立場で議論を展開してこられたように思います。

それから最近、ご承知かと思いますけれども、講談社新書の『生き方の人類学』という、非常に魅力的なタイトルの著書を公刊されました。副題に「実践とは何か」というタイトルがついていますが、これはご著書の中でもお書きになっていらっしゃいますように、ほぼ20年来続けてこられた実践あるいは実践知という概念を駆使されて、また新しい境地を開いておられます。新書版という小さな本に、これまでずっとやってこられたご研究のエッセンスを盛り込まれておられまして、そのあたりの手腕も、やはり後に続く世代としては見習うべきところが非常に大きいように思いました。

そのほか、イギリス、それからタイを含めて、国外の機関であるとか研究者との交流もずっと続けておられます。国内でも、人類学という枠をはるかに超え出て、哲学者、経済学者など、そうした方面の方々とも共同研究などを続けてこられて、人類学というものを一つの核にしながら、それを大きく外に広げる役割を果たしてこられたように思います。

それから、民博にとりましては、民博が国際的なプレゼンスを上げるということに関して大きな役割を果たしてこられました。特に英文のニュースレターの初代編集長をやっておられて、民博が海外、また世に知られるということに関してもご尽力をされました。それから、大学院でも後継者をたくさん育てておられますし、その意味で非常に民博にとって、むしろ人類学全般にとって、大きな役割を果たしてこられました。その意味で、先生のご退職は、民博にとっては非常に痛手になろうかと思います。

今後は大谷大学の方で、教育と研究を続けられるということでありますけれども、これまで以上に我々をご指導いただけるものと念じております。

簡単でございますけれども、ご紹介は以上にしまして、早速、きょうは「夢と憑依の人類学」という、またこれも非常に魅力的なタイトルでお話しいただけるということです。ではよろしくお願いいたします。