国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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2004年3月18日(木) ~3月20日(土)
国際シンポジウム 「トランスボーダーの人類学―その可能性をさぐって」

  • 日時:2004年3月18日(木)~3月20日(土)
  • 場所:国立民族学博物館 第6セミナー室
  • 主催:国立民族学博物館
  • 参加方法:事前申し込み必要
    (問い合わせ先:南真木人 電話:06-6878-8298)
  • *通訳あり*
 

問題提起

現代のグローバリゼーションとそこで起こっているさまざまなトランスボーダー現象は、国家、民族、ローカリティ、文化、家族などのボーダーをあらしめてきた制度、装置、イデオロギーを揺るがしている。他方でそれは、逆に既存のボーダーを強化する、あるいは新たなボーダーを創生する位相を同時に進行させている。このシンポジウムではこうしたトランスボーダー現象の多様で重層的な位相に焦点をあて、トランスボーダー現象の研究における人類学の可能性をさぐることを目的とする。 トランスボーダーという用語は、これまで国立民族学博物館の重点研究と新領域開拓研究で用いてきたものである。これを「越境」としないのは、越境という日本語にある「逸脱、侵犯」というイメージから自由でありたいからであり、トランスを「越える」のみならず、「超える」、時には「貫く」、「すり抜ける」というように広く捉えるためである。また、トランスボーダーはトランスナショナリティを含みはしても同義ではない。そこには、所与の国民国家のボーダーに限定しないし、前提としないという意図がある。その意味で、トランスボーダーにはグローバリゼーションに伴う、さまざまなボーダー(例えば、われわれと他者、男女<ジェンダー>、海と陸、南北、ヒトと動物、現実と仮想<メディア>・・・)を議論する素地がある。とはいえ、広義のボーダーを扱うことは議論の拡散を招きかねない。そこで、本シンポジウムでは人の移動あるいは転移をめぐるさまざまなトランスボーダー現象に限定する。 もっとも、トランスボーダーという表現にも、ボーダーを所与の確固としたものとみなす予見が感じられるかもしれない。あるいは、研究者が再びボーダーを設定してしまうという陥穽もあろう。だが、ここで目指すのは、これまで人類学が寄りかかってきた「領土=民族=文化」という等式にはあてはまらない、脱領土的で流動的な人やものの移動とそれがもたらす現象を民族誌として書くことである。それは、人類学の方法からナショナルのみならず、エスニック・グループなどのサブ・ナショナルなボーダーをも扱うことになるであろうし、そこにトランスボーダーの人類学の可能性を見出したい。

トランスボーダー現象は、大きく以下の4つの位相をもつと考えられる。
  1. 脱領土化してボーダーが相対化する(コスモポリタニズム、市民社会、公共圏、寛容、共生など)
  2. 逆に、既存のボーダーが強化され堅固になる(ナショナリズム、移民排斥、国民文化など)
  3. 新たなボーダーが創生される(エスノナショナリズム、エスノセントリズム、宗教の再興、独立運動など)
  4. 「非・場所」的なボーダーランドが生まれる(難民キャンプ、外国人労働者コロニー、無国籍、ディアスポラなど)

これらはしばしば同時に進行し、例えばボーダーの相対化(1)は「コスメティック・マルチカルチュラリズム(うわべの多文化主義)」(2002 テッサ・モーリス=スズキ)として許容される範囲で、より強化された国民国家というボーダー(2)の中に並存する。主体によっても、一つの現象が異なる位相で捉えられよう。シンポジウムでは、トランスボーダーがこうした位相の交錯する空間であるという実態を個々の事例から考えていきたい。

最後に確認すべきは、現代のグローバリゼーションとそこで起こっているさまざまなトランスボーダー現象が近代の延長なのか断絶なのか、という問いである。これは重要な立脚点であることは承知するが、必ずしも容易に合意が得られる議論ではない。ここでは、ほぼ誰しも了解するであろう、ここ20~30年のトランスボーダー現象はそれ以前と質的に異なるということを出発点としたい。

引用文献:テッサ・モーリス=スズキ 2002『批判的想像力のために:グローバル化時代の日本』平凡社

南真木人三島禎子

<報告者>(発表順)

  • 寺田吉孝(国立民族学博物館・民族文化研究部 助教授)
  • デボラ・ウォン(Professor of Music and Graduate Advisor, University of California, Riverside)
  • 笹原亮二(国立民族学博物館・民族文化研究部 助教授)
  • 近藤敦(九州産業大学経済学部 教授)
  • 陳天璽(国立民族学博物館・先端民族学研究部 助教授)
  • 鏡味治也(金沢大学文学部 教授)
  • 山中啓子(Lecturer at the Department of Ethnic Studies, and Researcher at the Institute for the Study of Social Change, University of California, Berkeley)
  • 樋口直人(徳島大学総合科学部 講師)
  • 稲葉奈々子(茨城大学人文学部 助教授)
  • 南真木人(国立民族学博物館・民族社会研究部 助教授)
  • 坂井信三(南山大学人文学部 教授)
  • 三島禎子(国立民族学博物館・民族社会研究部 助教授)

日程・プログラム

3月18日(木)
10:30-11:00 受付
11:00-12:00 開会
  プロジェクト代表挨拶 庄司博史
  参加者紹介・問題提起 南真木人・三島禎子

セッション1 音楽のトランスボーダー 司会 朝倉敏夫

13:00~13:50 「フィリピン系アメリカ人の音楽的ホームランド―クリンタン音楽における真正性と創造性」[img] 寺田吉孝
13:50~14:40 「太鼓と武士道―タイコにおける現代の侍」 デボラ・ウォン
<休 憩>  
14:55~15:45 「1960~70年代の沖縄ロックと日本」[img] 笹原亮二
15:45~16:15 討論 司会 寺田吉孝
16:20~16:50 特別展「多みんぞくニホン―在日外国人のくらし」の会場案内 庄司博史・陳天璽
17:00~ 会費制懇親会
3月19日(金)

セッション2 ボーダーと市民権 司会 韓敏

10:00~10:50 「トランスナショナル・シティズンシップ」 近藤敦
10:50~11:40 「無国籍者にとってのボーダー」 陳天璽
11:40~12:00 討論 司会 陳天璽
<昼 食>  

セッション3 移動する人びとの意識とホスト社会 司会 信田敏宏

13:00~13:50 「バリの地域社会から見たトランスボーダー現象」 鏡味治也
13:50~14:40 「移民の社会的統合と女性の地域活動―浜松市における日系ブラジル人児童の教育支援事例の分析」 山中啓子
<休 憩>  
14:55~15:45 「バングラデシュ・移民・消費社会の夢」 樋口直人・稲葉奈々子
15:45~16:35 「移民と国境を越えた民族運動」[img] 南真木人
16:35~17:05 討論 司会 南真木人
3月20日(土)

セッション4 人の移動とネットワーク―アフリカ経済史の再構築にむけて 司会:新免光比呂

10:00~10:50 「交易ディアスポラと宗教」 坂井信三
10:50~11:40 「人の移動と文化」[img] 三島禎子
11:40~12:00 コメント 井野瀬久美恵
12:00~12:30 討論
<昼 食>  
13:30~14:30 総合討論 司会:南真木人
14:30~14:40 打ち合わせ 閉会