国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究会・シンポジウム・学会などのお知らせ

2017年3月4日(土)~2017年3月5日(日)
国際シンポジウム「現代アジアにおけるお盆・中元節・七月の祭り――あの世とこの世をめぐる儀礼」

  • 日程:2017年3月4日(土)、5日(日)
  • 場所:国立民族学博物館 第4セミナー室(本館2F)
  • 一般公開(参加無料/要事前申込[先着順]/定員70名)
  • 使用言語:日本語、中国語 ※日中同時通訳あり
  • 主催:国立民族学博物館、香港中文大學歷史系
  • 申し込み先・お問い合わせ:
    国立民族学博物館 横山研究室
    〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
    E-mail:yokoyama●idc.minpaku.ac.jp(●を@に置き換えてください)
 

成果報告

日本の盆行事は現在でも全国的に行われ、人々にとって、もっとも重要で身近な毎年の宗教行事である。その機会に多くの者が墓参をしたり、自宅の仏壇に先祖の霊を迎えたりする。明治期に新たにグレゴリオ暦が採用され、その日付には地域によりヴァリエーションがあるが、元来は旧暦7月15日前後におこなわれた。
東アジア地域には、この日本の盆行事に似た7月の死者儀礼が広く見られる。それは朝鮮半島、日本、中国本土、台湾、香港、ベトナムと東南アジア華僑・華人地域である。本シンポジウムでは、この7月の儀礼をアジア地域の広範な視野において比較検討することで歴史的洞察を深め、各地におけるその展開のあり方や特徴、人々や社会にとっての意味合いなどについて、新たな理解を得た。
シンポジウムには中国、台湾、香港、シンガポール、日本の22名の研究者を招聘し、館内の4名を合わせた合計26名の人類学者ならびに歴史学者が、20の報告からなる8つのセッションで議論をおこなった。そのほか約50名に上る参加者とともに、連日、熱のこもった議論が続いた。
東アジアにおける7月の死者儀礼の共通性の素地として、中国本土で生まれた3つの要素、つまり太陽太陰暦、漢訳仏典の盂蘭盆経、道教が指摘された。盂蘭盆経には、仏陀の高弟である目連が、旧暦7月15日に食物などを僧侶に贈ることにより、地獄から自身の母を救済したという物語が記録されている。同じ日は、道教では「中元」と呼ばれ、人々が地官大帝に対して亡くなった祖先の罪への許しを乞う祭日である。歴史資料の検討を通して、この7月の死者儀礼は、中国本土において早期に、仏教、道教双方との関係を持ちながら、暦の上で7月15日に刻印された宗教行事として成立したことが明らかになった。東アジアの7月の死者儀礼は、今も各地で、「盂蘭盆」あるいは「中元」といった名称で呼ばれている。
今回、数十年あるいは数世紀遡る歴史的視点と東アジア各地の事例を集積することにより、この儀礼の多様なあり方が浮き彫りとなった。それは国家や地域、方言集団などの個別の歴史の反映である。他方、個別の歴史を通して各地の事例を詳細に描出すると同時に、東アジアを広く概観することにより、個別の状況への理解を深められる可能性が、明らかになった。たとえば、7月の死者儀礼が民間では現存しない朝鮮半島に関して、新たな理解につながる可能性がある。
また、7月の死者儀礼の多様性を通観することで、この儀礼を構成する活動に見られる核心的要素を改めて確認することができた。それは宗教的なものと世俗的あるいは娯楽的なものとに二分可能ではあるが、実践においては分かちがたく融合していることも少なくない。前者の主な内容は、祖先祭祀、孤魂の救済さらには神格の祭祀である。後者としては、演劇やスペクタクル性を有する行為、共食あるいは特別な食物、そして近年、演劇に変わって登場した歌舞台などが挙げられる。それらは人々にとっては宗教的目的を達成し、楽しみや心の安寧をもたらすものであると同時に、集団やコミュニティのアンデンティティの形成と維持に寄与するものでもあった。この後者の特徴は、特に香港や東南アジアの移民社会において、顕著に見られた。
このシンポジウムでの議論を経て、各参加者は改めて論文を執筆中である。論文集は日本語と中国語の両方で、近い将来に刊行を予定している。

横山廣子

 

要旨集

「要旨集」日本語

「摘要集」中国語


シンポジウム参加者集合写真


河合洋尚
 

横山廣子
チョイ・チーチョン
(蔡志祥)

塚田誠之

川口幸大

張小軍

韋旻
 

芹澤知広

馬木池

呂永昇

志賀市子

陳瑤

李志賢
 

郭根維

伏木香織

毛迪

鄭莉

廖小菁

潘宏立
 

張玉玲

岡田浩樹

鈴木文子

湯紹玲

吉田佳世

末成道男
 

渡邊欣雄
 

趣旨

東アジア地域に広く見られる7月の死者儀礼は、日本では現在も全国的に行われており、最も身近な毎年の行事の一つである。アジア地域に広がる同様の儀礼を見渡すと、起源やその内容に関して軌を一にし、類似する側面もあるが、各地で独自の展開もある。
この時期は「中元」といった暦の上での位置づけと同時に、台風や洪水、猛暑などによる災害や病気が発生しやすい、人びとが乗り越えねばならない危機を伴う時節ともいえる。この時期に各地で行われてきた活動には、祖先祭祀や無縁の死者の供養といった宗教儀礼以外に、盆踊りやさまざまな芸能活動としての展開など、多様な内容が見られる。
本シンポジウムは、この7月の儀礼をアジア地域の広範な視野において比較検討し、それぞれを位置づけ、その歴史、当該社会とかかわる展開の状況、現在までそれが継続されている意味などについて、新たな理解を得ることを目的とする。多数の研究成果の交流を通して学術的発展に貢献するとともに、公開形式でシンポジウムを催し、アジアにおいて、自文化、他文化双方に対する人びとの理解を促進することをも目指している。

 

プログラム

3月4日(土)
9:30 開場
10:00 - 10:20 開会の辞と趣旨説明 横山廣子(国立民族学博物館教授)、チョイ・チーチョン(国立民族学博物館外国人研究員)
セッション1 座長:河合洋尚(国立民族学博物館准教授)
10:20 - 11:20 「お盆、中元、鬼節、百種―東アジアの7月の儀礼」
横山廣子(国立民族学博物館教授)
「鎮魂劇から歌舞台へ―中元普渡の娯楽、パフォーマンス、儀礼」
チョイ・チーチョン(国立民族学博物館外国人研究員)
11:20 - 11:30 休憩
セッション2 座長:塚田誠之(国立民族学博物館教授)
11:30 - 13:00 「盂蘭節と中元節-広東省珠江デルタの事例から」
川口幸大(東北大学大学院文学研究科准教授)
「『鬼話』と『鬼化』の帝国―中国西南少数民族の『鬼』観念に関する事例考察」
張小軍(清華大学教授)[中国北京市]
「『迷信撲滅運動』下の南中国における中元節と太平清醮(1930-1949)」
韋旻(香港中文大学歴史系博士后研究員)[香港]
13:00 - 14:10 昼食
セッション3 座長:芹澤知広(奈良大学社会学部教授)
14:10 - 15:40 「宗教儀礼と社会集団の相互作用―長洲島の水陸盂蘭勝会を事例として」
馬木池(香港中文大学講師)[香港]
「香港における潮洲系華僑の盂蘭盆節の文化遺産申請と文化適応」
呂永昇(香港中文大学歴史系助理講師)[香港]
「潮籍盂蘭勝会と潮州人のエスニシティ」
志賀市子(茨城キリスト教大学文学部教授)
15:40 - 16:00 休憩
セッション4 座長:陳瑤(厦門大学助理教授)[中国福建省厦門市]
16:00 - 17:30 「離散するコミュニティの中元節―郷村から都市へと移動するシンガポール萬山福徳祠」
李志賢(香港中文大学歴史系大学院博士課程院生)[香港]
「生、死と華人の祭日―東南アジアならびに中国における九皇神誕、九皇法会の変遷」
郭根維(南洋理工大学助理教授)[シンガポール]
「シンガポールのハングリー・ゴースト・フェスティバル―儀礼と芸能、それらを支えるコミュニティ―」
伏木香織(大正大学文学部准教授)
18:00 - 20:00 レセプション
3月5日(日)
セッション5 座長:郭根維(南洋理工大学助理教授)[シンガポール]
9:30 - 11:00 「百年盛衰―マカオ同善堂中元水陸超幽会の歴史的変遷」
毛迪(香港中文大学歴史系大学院博士課程院生)[香港]
「金門萬安堂の乩童と中元普渡儀礼」
鄭莉(厦門大学助理教授)[中国福建省厦門市]
「慶仙寿と濟幽冥:マレー半島ペラ地区の何仙姑誕―現代中国広東との比較を兼ねて」
廖小菁(台湾中央研究院歴史語言研究所博士后研究員)[台湾]、陳瑤(厦門大学助理教授)[中国福建省厦門市]
11:00 - 11:25 休憩
セッション6 座長:潘宏立(京都文教大学総合社会学部教授)
11:25 - 12:30 「神戸華人による死者供養の儀礼『普渡』と他界観の変容」
張玉玲(山口県立大学国際文化学部准教授)
「ベトナム華人の中元節における供物・贈与・祭宴」
芹澤知広(奈良大学社会学部教授)
12:30 - 14:00 昼食
セッション7 座長:川口幸大(東北大学大学院文学研究科准教授)
14:00 - 15:00 「『逆さ絵(Upside down picture)』の死者たちー韓国社会における多様な死者儀礼と死者の複相性について―」
岡田浩樹(神戸大学大学院国際文化学研究科教授)
「朝鮮半島の 7 月 15 日―百中における『祖先祭祀』と洗鋤宴(ホミシ)」
鈴木文子(佛教大学歴史学部教授)
15:00 - 15:15 休憩
セッション8 座長:志賀市子(茨城キリスト教大学文学部教授)
15:15 - 16:15 「災害記録からみるムラの盆行事―日本の三重県志摩地方の事例から―」
湯紹玲(広西民族博物館専任研究員)[中国南寧市]
「沖縄本島における旧盆行事からみる個の位置づけとその変化―祖先祭祀制度における嫁の位置付けに着目して」
吉田佳世(神戸大学日本学術振興会特別研究員)
16:15 - 16:30 休憩
総合討論 座長:横山廣子(国立民族学博物館教授)
16:30 - 17:30 総合コメント
渡邊欣雄(国学院大学教授)、末成道男(東京大学名誉教授)、張小軍(清華大学教授)[中国北京市]
討論