国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

スタッフの紹介

山本博之
山本博之YAMAMOTO Hiroyuki
地域研究企画交流センター・助教授
専門分野
  • マレーシア地域研究/イスラム圏東南アジアの現代政治史
各個研究
個人ホームページ

経歴

学歴
  • 東京大学教養学部教養学科(アジア分科)卒業(1993)
  • 東京大学大学院総合文化研究科修士課程(地域文化研究専攻)修了(1995)
  • 東京大学大学院総合文化研究科博士課程(地域文化研究専攻)満期退学(2001)
職歴
  • マレーシア・サバ大学講師(1998-2000)
  • 東京大学大学院総合文化研究科助手(2001-2003)
  • 在メダン総領事館委嘱調査員(2003-2004)
  • 国立民族学博物館地域研究企画交流センター助教授(2004-2006)
  • 京都大学地域研究統合情報センター助教授(2006)
学位
  • 修士(学術)(東京大学大学院総合文化研究科、1995)
  • 博士(学術)(東京大学大学院総合文化研究科、2003)

専門分野

マレーシア地域研究/イスラム圏東南アジアの現代政治史

現在の研究課題

イスラム圏東南アジアのエスニシティとナショナリティ

東南アジアは、古くより外部世界から様々な思想や文物がもたらされてきた地域です。

私がここで注目するのは、外来の思想や文物に合わせて自分たちの考え方や行動を変えるのではなく、自分たちの考え方や行動に合わせて外来の思想や文物を「改造」して受け入れてきた側面です。このことを思想や文物の発信地から見た場合には、純正なものが勝手に改造されて使われているわけですから、正しいあり方を教えて導くべきだとなります。ところが、いくら教え導いても自分たちで勝手に改造してしまう人々を相手にする場合、それらの思想や文物を通して自分たちの影響力を維持するためには、自分たちが発信する思想や文物を勝手に改造されないように先回りして改造する必要があります。このように見ると、世界の思想や文物を日々進化させ、発信しているのは文明の中心地であるとしても、その進化の方向性を決めているのは辺境だということになります。

私が注目する東南アジアのもう1つの特徴は、様々な外来の文明が出会い、互いに折り合いをつけているという点です。文明どうしの折り合いのつけ方にはいろいろな形がありますが、マレーシアはとりわけ興味深い事例を提供してくれます。マラヤ(半島部マレーシア)では、イスラム教文化、中国文化、インド文化のそれぞれを担うと自任する人々が、西洋近代とマレー・イスラム文化の影響の強い社会の中で、お互いの境界を明確に意識しながら共生の道を模索しています。他方、ボルネオ島のサバ州では、人々はそれぞれイスラム教文化、キリスト教文化、中国文化などを担うとみなされていますが、西洋近代とマレー・イスラム文化の影響のもと、時としてお互いの文化の境界が融解する形で共生が試みられています。文明と文明が出会い、互いに折り合いをつけて定着していくという意味で、マレーシアは文明間の共生の試みにおける最先端であると言えるかもしれません。

このような関心のもと、私はこれまで1950年代の脱植民地化の過程におけるサバ(北ボルネオ)を対象に、政党・選挙制度をはじめとする国民国家概念がどのように受け入れられたかを調べてきました。その結果、北ボルネオの人々が国民国家という制度を受け入れ、使いこなすために持ち出したのが民族であり、したがって民族をこのような「道具」として積極的に評価すべきではないかと考えるようになりました。最近では、このような民族概念のあり方をさらに広く検討するため、対象地域を北ボルネオからマラヤ・シンガポールを経てスマトラ島にまで拡大し、また、国民国家だけでなくイスラム教の受容とも関連させて、この地域における民族概念について調べています。

所属学会

東南アジア学会、アジア政経学会、日本マレーシア研究会、マレーシア社会科学会

主要業績

2003
「東南アジアにおけるムスリム同胞団の成立とその初期の活動について」『ODYSSEUS』(東京大学大学院総合文化研究科)、7:59-73。
2002
「英領北ボルネオ(サバ)におけるバジャウ人アイデンティティの形成」『東南アジア 歴史と文化』、31:57-80。
2002
「カダザン人のナショナリティとエスニシティ:英領北ボルネオ(サバ)における収穫祭の成立」『ODYSSEUS』(東京大学大学院総合文化研究科)、6:41-60。

業績

論文
2003
「東南アジアにおけるムスリム同胞団の成立とその初期の活動について」『ODYSSEUS』(東京大学大学院総合文化研究科)、7:59-73。
2002
"Sports, Beauty Contests and the Tamu Besar: The Origins of Harvest Festival in Sabah (North Borneo)". Sabah Society Journal. (Sabah Society). 19:1-21.
2002
"From Penampang Boys to Tambunan Sons: Kadazandusun Leadership and Their Cultural 'Revival'". Mohd. Hazim Shah et al. (eds.). New Perspectives in Malaysian Politics. Malaysian Social Science Association. pp.213-225.
2002
「英領北ボルネオ(サバ)におけるバジャウ人アイデンティティの形成」『東南アジア 歴史と文化』、31:57-80。
2002
「カダザン人のナショナリティとエスニシティ:英領北ボルネオ(サバ)における収穫祭の成立」『ODYSSEUS』(東京大学大学院総合文化研究科)、6:41-60。
2001
""Foreigners' Nationalism" in Malaysia: Donald Stephens and K. Bali in Making of Sabah Nationhood". Sejarah. (Universiti Malaya). 9:49-70.
1999
"From Bornean Federation to Malaysia: Analysis of 'Stephens' Merdeka Plan'". MANU. (Universiti Malaysia Sabah). 2:59-80.
1996
「「20項目」と連邦・州関係:1950年代カダザン民族主義の復活とその限界」原不二夫ほか編『国民開発政策(NDP)下のマレーシア』アジア経済研究所、pp.131-149。
1993
「サバのマレーシア加入とカダザン・ナショナリズム」『アジア経済』、34(11):18-36。
その他
2006
「新刊紹介 奥野克巳『帝国医療と人類学』春風社、2006年」『JAMS News』(日本マレーシア研究会会報)34: 54。
2006
「2004年のマレーシア研究――政権交代、都市化、教育」『JAMS News』(日本マレーシア研究会会報)34: 41-44。
2006
「大規模自然災害における地域研究者の役割」『JAMS News』(日本マレーシア研究会会報)34: 14-17。
2006
「紛争下の支援活動と地域情報――インドネシア・アチェ州における緊急・復興支援の現地調査より」『紛争の総合的研究』(科学研究費補助金基盤研究(B)(2)研究成果報告書)pp.155-170。
2006
「断食をして天国に行こう」『月刊みんぱく』31(1): 22-23,国立民族学博物館。
2005
「事典項目 英領マラヤ」猪口孝ほか編『国際政治事典』弘文堂。
2005
「「文明」の交わりの場における人々の区切りと繋がり」『民博通信』110: 20-21,国立民族学博物館。
2005
「一本の旗――アチェからのメッセージ」『月刊みんぱく』30(6): 14,国立民族学博物館。
2005
「地域にとって地域研究者とは何か――マレーシア・サバ州のバジャウ人研究に見る当事者性と外来者性」『地域研究』7(1): 91-106,国立民族学博物館地域研究企画交流センター。
2004
「2003年のマレーシア研究:マレーシア社会の区切り方・繋ぎ方」『JAMSNews』日本マレーシア研究会、30:39-44。
2004
「研究会報告:バジャウ人アイデンティティの「越境」に向けて」『JAMSNews』日本マレーシア研究会、30:6-9。
2004
「ボルネオの首飾り」『地域研究コンソーシアム・ニュース』、00:8。
2004
「書評:原不二夫著『マラヤ華僑と中国』」『アジア研究』、50(2):138-143。
2003
「スマトラ:メダンの中のマレーシア」『JAMS News』日本マレーシア研究会、27:38-41。
2003
「研究会報告:第3回アジア研究者国際会議(ICAS3)」『JAMS News』日本マレーシア研究会、27:21-23。
2003
「研究会報告:開かれた「ブルネイ・ボルネオ研究」」『JAMS News』日本マレーシア研究会、27:18-20。
2003
「2002年のマレーシア研究:サバ・サラワクから」『JAMS News』日本マレーシア研究会、26:42-45。
2003
「東南アジア・ムスリムの多元社会論」『東京女子大学学会ニュース』、129:6-7。
2002
「資料紹介『カラム』」『上智アジア学』、20:259-343。
2002
「ジャウィ綴りマレー語の書き方と読み方:20世紀のマレーシア地域を中心に」『上智アジア学』、20:359-382。
2002
「マレーシアの図書館におけるジャウィ雑誌の所蔵状況」『ジャウィ文書研究会ニューズレター』、7:3-13。
2002
「2001年のマレーシア研究:民族と統合」『JAMS News』日本マレーシア研究会、23:25-33。
2002
"Harvesting an Identity". Star. (Malaysia). March 11, 2002. p.18.
2002
「翻訳:マレーシア」『世界地理大百科事典5 アジア・オセアニアII』朝倉書店、pp.746-767。
2002
「翻訳:ブルネイ」『世界地理大百科事典5 アジア・オセアニアII』朝倉書店、pp.706-716。
2002
「研究会報告:ボルネオの日本人墓地と「死の行進」」『JAMS News』(日本マレーシア研究会会報)、22:38-40。
2001
「研究会報告:移民社会サバにおける文化の創出」『JAMS News』(日本マレーシア研究会会報)、21:18-21。
2001
「研究会報告:イギリス帝国の黄昏と東南アジア人」『JAMS News』(日本マレーシア研究会会報)、21:4-5。
2000
「書評:される側から見た『越境』」『通信』東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、99:21-23。
1999
「天然資源と政治的自立」古田元夫編『〈南〉から見た世界02 東南アジア・南アジア』大月書店、pp.148-150。
1999
「マレーシア・サバ州の州首相輪番制の導入で問われるもの」『アジ研ワールド・トレンド』アジア経済研究所、42:82-88。
口頭発表等
2006
「東南アジアとイスラム教――風刺画問題を受けて」芦屋市立公民館(2006.3.18)
2006
「Expiration date for ethnic politics extended: The restructuring of federalism in Malaysia in 1990s」地域研究企画交流センター特別共同研究「国家と民族集団」第10回国際シンポジウム「消滅しない国家――民族を通して考える」東京大学駒場キャンパス(2006.1.13-15)
2006
「津波後のアチェに見る外部社会と被災社会の交わりの形」研究フォーラム「2004年インド洋地震津波災害被災地の現状と復興への課題II」国立民族学博物館(2006.1.8)
2005
「マレーシア地域における言語の表記方法をめぐる議論」東南アジア史学会第74回研究大会統一シンポジウム「東南アジアにおける近代言語の形成:権力、権威、正統性」上智大学(2005.12.10-11)
2005
「ナンバーワンを求めて――多民族社会マレーシアの暮らしと祭り」佐野公民館(2005.11.26)
2005
「マレーシアの定期刊行物におけるジャウィの使用――「聖なる文字」という縛りとそれへの対応」、ジャウィ文書研究会第26回研究会、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(2005.11.19)
2005
「マレーシア・サバ州における民族概念の諸相」、「比較の中の東南アジア研究」研究会第4回会合・東南アジア史学会関西例会、京都大学東南アジア研究所(2005.11.12)
2005
「植民地末期の英領北ボルネオにおける多民族政党結成運動」東南アジア史学会関西例会、大阪市立大学文化交流センター(2005.10.15)
2004
"The Muslim Brotherhood Movement among Malay-Speaking Muslims in the 1950s". Middle Classes and Flows and Movements in East Asia (JSPS Core University Program Workshop), Kyoto University, 6-8 October, 2004.
2004
"Malay Periodicals in North Borneo as the Ideological Background to the Emergence of Bajau Identity". International Conference on Bajau/Sama Communities (ICBC), Universiti Malaysia Sabah, 21-23 July, 2004.
2003
"Muslim Brotherhood in the Malay World in the 1950s". The 3rd International Convention of Asia Scholars (ICAS3), Swissotel The Stamford, Singapore, 19-22 August, 2003.
2003
"Relation between Chinese and Inland Autochthones in Borneo in 1960s". Workshop on Culture and Development in and around Sabah. ILCAA, Tokyo University of Foreign Studies. 23-24 January, 2003.
2002
「脱植民地化とマレー・ナショナリズム」(日本マレーシア研究会第11回研究大会)、東京大学、2002年12月7-8日。
2002
「ジャウィ誌『カラム』から見た1950年代のマレー・イスラム圏」(東南アジア史学会「第68回研究大会」)、岡山大学、2002年11月30日-12月1日。
2002
「東南アジア・ムスリムの多元社会論」(2002年度東京女子大学学会主催公開連続講演会「異文化の共存と交流:イスラームの文化と歴史」)、東京女子大学、2002年11月13日。
2002
「マレーシアにおける民族概念:サバの事例から」(日本マレーシア研究会第10回総会)、立命館アジア太平洋大学、2002年2月9-10日。
2001
"The Pasok Momogun Movement in Sabah in the 1960s". The 3rd International Malaysian Studies Conference. Universiti Kebangsaan Malaysia, 6-8 August, 2001.
2000
"The Origins of Sabah Nationhood: A Case of "Foreigners' Nationalism" in Malaysia". The 16th Conference of the International Association of Historians of Asia (IAHA). Universiti Malaysia Sabah, 27-31 July, 2000.
1999
"From Penampang Boys to Tambunan Sons: The Kadazandusun Leadership and Their Cultural 'Revival'". The 2nd International Malaysian Studies Conference. Universiti Malaya. 2-4 August, 1999.
1998
「マレーシア・サバ州カダザン人のエスニシティ」(東南アジア史学会「第60回研究大会シンポジウム」)、桃山学院大学、1998年11月28-29日。

受賞歴

2004
第3回井植記念アジア太平洋研究賞佳作

代表者を務めた研究・プロジェクト

  • 学術振興野村基金「1950年代のマレー・イスラム圏における政治参加の様態についての研究」(2003年度)
  • 科研費「1950年代のシンガポールにおけるムスリム同胞団の活動についての歴史的研究」(2002年度)
  • トヨタ財団「国内の文化的多様性を維持した上での国民統合の可能性について:マレーシア・サバ州(旧英領北ボルネオ)における権力者観と権威主義体制の形成」(1999年度)

関連ページ