国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。
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布と人間の人類学的研究

研究期間:2011.1-2013.3 / 研究領域:マテリアリティの人間学 代表者 関本照夫(先端人類科学研究部)

研究プロジェクト一覧

研究の目的

[img] この研究プロジェクトは、モノと人との関係を布に焦点を当てて考察する。参加者はいずれもアジアの各地において、伝統染織やそれに関連する工芸の研究を行い、個々に研究成果を発表してきた。こうした成果を総合し、国際的な学術集会、実践家・愛好者等を加えたワークショップ、さらにこの領域で人類学上新たなスタンダードとなるような書物の刊行、マルチメディア的な資料集の公開を通じ、布から出発しモノと人の関係を論ずる新たな人類学的領域を築く。

現代アジアにおける布の生産、流通、消費の諸事例を、過去からのつながりや変化に注意しつつ検討することにより、人の身体性、環境規定性、実践的・状況的知識、地域性、人と人、モノと人のネットワークについて、新たで具体的な知見を生み出すことが目標である。

 
研究の内容

代表者と共同研究のメンバーは、これまでアジア各地の伝統染織や関連する工芸について研究を重ね成果を発表している。中国、インドネシア、タイ、ラオス、南アジアでは、現地の繊維関係者や研究者との長期の共同作業も積み重ねている。これらの成果・知見を総合し、布を通じて、現代世界におけるモノと人の関わりについて、人類学上の新たな研究領域を確立する。このためには成果公開のための準備会合を継続的に行い、必要に応じ外部資金などを利用した補充調査等も実施する。布に関わる研究で重要な経済史・社会史研究者との交流も今後拡大する。また、布という領域では、大学・研究機関、博物館等以外に、多くの熱心な関係者が存在する。生産、流通、ファッションに関わる人々、アーティスト、セミプロ的愛好家等々である。こうした人々をつなぎ交流する場も適宜企画して、研究の幅を広げる。これについては特に、関連若手研究者のアイデアや夢を汲み上げ発展させることも重視する。

布は飲食物と並んで人の身体に間近なものであり、また人間生活に普遍的なものである。ただし、飲食物が直接身体に吸収されて終わるに対し、布は皮膚に接しつつ常に身体の外側にある。布はこの身近さと外部性ゆえに、「モノ・人」関係の検討に対し興味深い素材を提供する。かつてのモノ研究が、人がモノを作り使うという人の能動性からモノを見ていたのに対し、現在の世界各地でさかんになっているモノ研究は、モノに人が規定されるモノの能動性にも大きな注意を払っている。また、人とモノを峻別するのではなく、人自体が物質性・肉体性に根ざしていることに着目する。過剰な人間中心主義、言い換えれば精神や理性の中心主義を批判し、モノと人、モノとイメージとが相互浸透し融合する世界を明らかにすることに、この研究の目的がある。研究が過剰に思弁的となるのを避けるためには、誰にも身近で普遍的な存在である布を、時間・空間をまたいで比較研究する方法が有益である。

 

本研究は伝統染織と技術の記録・保存のみに向かうのではなく、現代のグローバルな市場社会におけるその生産・流通・消費を各地の例から比較研究し、さらに機械制工業が生む繊維・布、衣服にも目を向けながら、人が布とどうかかわり、布がどう人の暮らしに働きかけているかを検討する。またこの研究では、布の消費と生産とを一方のみに偏らずに検討する。身を覆う、飾るといった布の消費の研究と、身体とモノとの相互運動から布が作り出される生産の側面は、これまで別々に語られることが多かった。モノと人の相互関係、相互浸透という視点から、布の生産と消費を総合的に考察するのも、この研究が目指す新たな領域である。

 

参考:関本照夫「布からモノの働きを知る」月刊みんぱく404号:10-11, 2011[PDF:379KB]

2012年度成果
◇ 今年度の研究実施状況

国際ワークショップ「アジアの布と生きる」を24年11月3日に民博講堂で開催し、全国から170人の参加者があった。
国際シンポジウム「布を作る人、布に包まれる身体」を25年2月23日に民博第4セミナー室で開催し、やはり全国から57人の参加があった。
本プロジェクトのメンバーによる成果公開のための2回の準備会合を、24年7月21-22日および25年3月22-23日に民博で開催し、それぞれ11月と2月の国際ワークショップ、国際シンポジウムのための準備討議と役割の分担、その後の成果公刊などについて討議した。
平成24年11月27日~12月26日のあいだ、本機関研究プロジェクトの国際共同研究員である中国・蘭州大学の王建新教授が、民博外国人研究員として当館に滞在し、中国雲南省・貴州省少数民族の刺繍布作りを巡って討議を交わしたほか、人類学におけるモノ研究についても、中国・日本その他の国々での研究状況を互いに確認し、今後の方向を議論した。

◇ 研究成果の概要(研究目的の達成)

今年度は2回の公開シンポジウム、ワークショップを開催した。11月の国際ワークショップ「アジアの布と生きる」では、大学・研究機関に身を置かず在野の研究や実践を行っている6人の方々(内インドネシアか2人、オーストラリアから1人)を招き、現代アジア太平洋地域における伝統染織の展開と今後の方向について、実践と理念・価値観をつなぐ議論を行った。伝統染織の製作・流通・マーケッティングに関わる人々、愛好家が多く会場に集まり、研究者、院生と一つの場で議論を行って、新しいつながりを作った。2月の国際シンポジウムには、文化人類学者と並んでファッション史・ファッション研究の専門家など6人の発表を受け、「着る」ことの現象学、「ファッション」概念の解剖が行われた。これは今後テキスタイルと衣服を巡る人類学研究を進める重要なステップとなるものだった。これらの成果は英文ないし日本語での出版を準備している。

◇ 機関研究に関連した成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)
  • 国際ワークショップ「アジアの布と生きる」24年11月3日、民博講堂
  • 国際シンポジウム「布を使う人、布に包まれる身体(からだ)」25年2月23日、民博第4セミナー室
  • Teruo Sekimoto, Consuming textiles through their uses and reuses, International workshop, February 7-8, 2012 (conference report). Minpaku Anthropology Newsletter, No. 34:14-15, 2012.
  • 関本照夫「今日のインドネシアバティック産業」窪田幸子・松井健編著『アジア工芸の<現在>-工芸と人類学の基礎研究』東京大学東洋文化研究所:65-70、2012
  • 関本照夫「捨てるもの、捨てられないもの-国際ワークショップから」『民博通信』No.138:12-13、2012.
  • Teruo Sekimoto, Discardable and Undiscardable Textiles and Clothing, MINPAKU Anthropology Newsletter, Nr. 35: 1-3, 2012.
  • Ilja van Damme, Urban Transformations in the Value of Used and Old Textiles. op. cit. 3-4, 2012.
  • Miki Sugiura, Shifting Functions of Two Major Second Hand Clothing Markets in 17th-18th Century Edo: Tomizawa and Yanagihara. op. cit. 5-7, 2012.
  • Ulara Tamura, Sacred Rag, Shoddy Rag. op. cit. 7-8, 2012
  • Sayaka Ogawa, Regaining ‘Fashion’ Value: The Transborder Trading of Second-hand Clothing in East Africa. op. cit. 9-10, 2012
2011年度成果
◇ 今年度の研究実施状況

本プロジェクトのメンバーによる成果公開のための準備会合を4回、民博で開催した。1)6月17-18日、2)7月10日、3)12月26日、4)3月10日
国際ワークショップ「捨てるもの、捨てられないもの-布の履歴からモノの消費を考える」を24年2月7-8日に民博第4セミナー室で開催した。
4年度に計画している国際ワークショップ「アジアの布と生きる」準備のため、関本が24年3月22日~28日の間、オーストラリア・アデレーデ市の南オーストラリア美術館を訪れ、アジア・アート担当学芸員James Bennett氏などと協議を行った。

◇ 研究成果の概要(研究目的の達成)

今年度は国際ワークショップを開催し大きな成果を上げた。中古衣料や伝統染織を研究する国内外の人類学者と社会経済史学者とが集り、新しい布製品と古い布製品の対比から、モノの力、モノの消費について議論が展開され、多様な商品と消費の形を一望に収めることができた。民博の機関研究「マテリアリティの人間学」の重要な成果と言える。この成果は英文での出版を準備している。また、24年7月に南アフリカ共和国ステレンボッシュで開かれる世界経済史会議でセッションを組み発表を予定している。

◇ 機関研究に関連した成果の公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)
2010年度成果

このプロジェクトは2011年1月に発足した。これまで共同研究者が会合を持ち、ワークショップ、国際シンポジウム、成果出版へ向け準備を進めている。