国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

中東地域民衆文化資料コレクションを中心とするフォーラム型情報データベース

研究期間:2017.4-2019.3 / 強化型プロジェクト(2年以内) 代表者 西尾哲夫

研究プロジェクト一覧

プロジェクトの目的

本館展示新構築の初年度にフォーラムとして西アジア展示をリニューアルし、来館した国内外の方々から反響をいただいているが、展示によるフォーラム機能をさらに充実させるためには、各展示資料を窓口としてより深い情報を共有していく仕組みが必要である。本プロジェクトでは、民博が所蔵する全ての中東地域(北アフリカも含む)の将来におけるファーラム型情報化を視野に入れて、①片倉もとこ名誉教授が収集したアラビア半島遊牧社会に関連する資料コレクションに関する調査ならびにデータベース化、②近現代イラン民衆工芸品であるグラック・コレクションに関する調査ならびにデータベース化、③中東地域からグローバル化したコーヒー文化にかかる標(しめぎ)コレクションに関する調査ならびにデータベース化を行う。それぞれにかかる資料は西アジア展示において展示されており、理想的には個々の展示品を入口に各データベースが参照できるシステムにする。

※グラック・コレクション:Jay Gluckは、A.U.Popeという著名なペルシア美術史家と師弟関係にあったアメリカ人美術史家・収集家で、Popeがペルシア美術・考古学研究所としてシーラーズに開いたアジア・インスティテュートの所長となり、1960年代後半〜70年代にイランの工芸品を調査・収集した。イラン・イスラーム革命後は日本人の配偶者とともに神戸に住んでいたが、晩年アメリカへの帰国の際に工芸品コレクションの一部を当館が受け入れた(2000年)。西アジア展示ではグラック・コレクションの中の涙壺と筆箱を展示しているが、近現代イラン民衆工芸品にかかる資料として重要である。
※標(しめぎ)コレクション:吉祥寺に存在した自家焙煎珈琲専門店『もか』のオーナーであった標交紀氏が、生前収集したコーヒーにまつわる資料約300点をさす。茶器のみならず、中東地域の資料を中心に標氏が世界各地から買い付けたコーヒー焙煎・抽出器具は非常に貴重なものを多数含み、コーヒーという飲料の歴史を概観するうえで重要である。

プロジェクトの内容

本プロジェクトはデータベース化のプロセスを、以下のような方法と体制で実施する。
(1)片倉もとこ名誉教授が収集したアラビア半島遊牧社会に関連する資料コレクション(約320件)の調査ならびにデータベース化については、現在実施中の本館の共同研究(縄田浩志秋田大学教授・本館特別客員教授)ならびに、片倉もとこ記念沙漠財団とサウジアラムコを通したサウジアラビアの研究機関、さらには現地のオアシス社会の人びととの国際的な協業によって、すでにデータベース化されている基本情報について、必要に応じて標本資料を実際に熟覧しながら、精査する。これをもとにデータを整理し、日本語、アラビア語(現地方言形も含む)、英語による情報を付加していく。本館が進める学術研究支援基盤形成プロジェクト「地域研究画像デジタルライブラリ」による画像データベースとしても、片倉もとこ名誉教授が収集品に関連して撮影した画像情報を整理中であり、最終的には上記で作成するデータベースにリンクするかたちでフォーラム型情報データベースの高次化を図る。
(2)近現代イラン民衆工芸品であるグラック・コレクション(179件)に関する調査ならびにデータベース化については、上記の場合と同様にすでにデータベース化されている基本情報について、必要に応じて標本資料を実際に熟覧しながら、精査するとともに、本館資料情報としてはまだ付加されていない、旧所蔵者の手になる情報に関連する文献をもとに追記していく作業を行う。また、イスラム美術史の専門家であり、海外の他の美術館等に保管されている工芸品コレクションについて造詣が深い研究者と協力して、より詳細な情報を付加していく同時に、イラン国立博物館(学術協定を締結する予定)の専門家にも協力をあおぎながらデータベースを構築する。
(3)中東地域からグローバル化したコーヒー文化にかかる標(しめぎ)コレクション(約300件)に関する調査ならびにデータベース化については、今年度に新規に収蔵した資料であるために、予定している新着資料展示のためにまず旧所蔵者の手になる基本データを精査し、本館の基本的な標本資料データベースとして整理する。その上で、UCCコーヒー博物館との共同作業により、より詳細なデータを付加していく。可能であれば、同コレクション以外の民博が所蔵する世界各地のコーヒー文化にかかる資料についても情報を整理していく。
(4)データベースをオンライン上で公開すると同時に、西アジア展示において展示している関連する個々の展示品を入口に各データベースが参照できるようにする。
(5)本プロジェクトで作成したデータベースは、2019年度に予定している、沙漠のムスリム女性の暮らしと半世紀の変容に関する企画展等で活用する。グラック・コレクションと標(しめぎ)コレクションについても現代中東地域研究事業の枠内で国際的な共同研究へと深化させ、将来的には企画展示へと展開させる。

期待される成果

片倉もとこ名誉教授が収集したアラビア半島遊牧社会に関連する資料コレクションにかかるデータベースについては、現地社会の人びととの協業によって情報を付加し、収集時期の画像データベースもリンクさせることで、現地社会の社会変動を探る物質文化に関する資料として活用することができる。さらなる展開として、フォーラム型情報データベースをもとにした企画展示を現地サウジアラビアで巡回させることにより、民博所蔵資料に現地社会での文化伝承の機能をもたせることにもつながってくる。他の二つのコレクションに関するデータベースについては、同じく国内外の研究者との協業によって、当該コレクションにかかる物質文化的研究を深化させる契機となり、フォーラム型情報ミュージアムの本来的構想にもある、データベースの共同利用による国際的共同研究の活性化として、現代中東地域研究事業における国際共同研究へと展開することが可能となる。