国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。
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生業と生産の社会的布置

共同研究 代表者 松井健

研究プロジェクト一覧

目的

人類学者が観察しうる生業活動における採捕から消費の全過程であれ、高度産業社会や情報化社会のなかの不可視の経済活動であれ、あるいは、先住民が福祉への恩恵にあずかり、メディアによって農産物がブランド化したりという両者の錯綜した現代的接合であれ、生業活動や生産システムがどのように社会的に組み立てられ、またいかなる歴史的経過のもとに成立し両者がいかなる位相関係にあるかを考察しないでは、その人類学的な全体像を描き出すことはできない。それは逆に、社会的なものと経済的なもののかくれた一体性を歴史的に解き明かすことになる。経済的な現象としてとらえられてきたマクロな生産システムとミクロでリアルな生業活動との複雑な融合のあり方をあきらかにし、生業と生産という本来不可分な両者をひとつの考察対象として一体化させると同時に、その歴史性を明確にすることが要請される。これが本研究会の研究目的である、社会的・歴史的布置なのである。まず想定されるこれまで人類学が得意として扱ってきた工業化の度合いの低い社会と、高度に産業化した社会との併存のもつ複雑な様相とその変化の諸相という問題も、後者の「グローバリズム」や「帝国」といった概念で表示される一方的な影響力のみによっては理解しえない。なによりも、生業生産にかかわるマテリアルな資源の「認知」、「所有」や「利用」やそれへの働きかけとしての「労働」など基礎的な諸概念をめぐるイデオロギーや制度や実践の社会的布置とその歴史的変遷を広く眺望し、一方できわめて今日的な現象の展開をも個別に参照しなくてはならないだろう。本研究は、このテーマについての班員の調査蓄積をもとに、広く民族誌的変異と歴史的変容の系統的な整理と理論化をおこなうものである。

研究成果

生業と生産は、ひとつの軸として、微視的視座と巨視的視座、フィールドワークと理論、人類学と経済学、などなどの対立を通約しうるものである。今日の人類学的学為のはらむ多様性と、潜在的な可能性の広がりを存分に探査、応用するきわめて好適な問題野であることは間違いない。実際、今日の世界の激動は、一方において画一化、計算可能性などのグローバル化をもたらしたが、一方において、強いローカル化やナショナリズム、リージョナリズムの再興を促したといえる。

事例研究には、アジア、アフリカ、オセアニア地域で地道なフィールドワークをおこないつつ、この大きな問題系に興味をもつ研究者が集まり、それまでのデータをもとにしつつ、それぞれの関心と方法によって、その記述と分析を試みた。地域のヴァラエティ、方法の多様さ、人類学以外の参照枠の広さ等、これまでにない成果をあげえたと考える。3年半の研究会での発表、議論と、執筆論文の概要発表やそれへの調整によって、このグローバル化とその付帯的状況(ときには、逆行するかのような)についての人類学的アプローチの多様性を十分に明らかにし、その地域的文化的変異のなかから、グローバル化と簡約された概念の内容が分析的に再検された。おそらくは、この作業の彼方に、近代化や労働といったより広い概念についても、人類学的思考と方法の有効さが示されることになったといえる。

2009年度

平成21年度第1回編集作業で、とりまとめ論文の概要の発表・議論を終える。あと、1回の編集作業において提出された論文、あるいはより詳しいドラフトをもとに研究会のとりまとめのなかでの位置づけをおこなう。

【館内研究員】 飯田卓、須藤健一、野林厚志
【館外研究員】 池本幸生、内堀基光、太田至、大村敬一、大山修一、落合雪野、窪田幸子、栗本英世、重田眞義、末原達郎、菅豊、杉島敬志、杉藤重信、関本照夫、曽我亨、高倉浩樹、豊見山和行、名和克郎、松田素二、丸山淳子、安岡宏和、家中茂
研究会
2009年5月16日(土)9:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
2009年5月17日(日)9:00~15:00(国立民族学博物館 第2演習室)
編集準備ととりまとめ論文の調整(とりまとめ論文要旨の発表と質疑ほか)・全員
2009年9月16日(水)10:00~13:00(国立民族学博物館 第3演習室)
編集世話人会(報告書の構成についての打ち合わせ)
2009年11月14日(土)9:30~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
2009年11月15日(日)9:00~13:00(国立民族学博物館 第4演習室)
全員 第二回とりまとめ編集会議
研究成果

これまで代表者及び共同研究員のオリジナルな資料にもとづく発表とそれについての議論を積み重ねてきたが、前年度後半と本年度は編集実務のために、ごく短い論文要旨を提出し、それについて、とくに、論文展開の骨子について議論を集中的におこなった。これによって、生業と生産を軸にして、グローバル化と簡約して総称されている事象の地域的文化的脈絡とそのあらわれの複雑さを鳥瞰できる論文がそろうことが明らかになった。そうした地域的文化的多様性と、それらのうちにある基盤の解析が二つながらに問題で、執筆論文はこの二つの傾向に分けられるであろうという予想をえることができた。グローバル化という概念の内容の分析はすでにアメリカ社会学でおこなわれているが、人類学的な実体分析の新しい成果をまとめることができるものと考える。

2008年度

本年度5回予定している研究会において、生業と生産の社会的布置に関与する諸要因をその地域的歴史的多様性のなかからあぶりだし、近代とひとつの全体化するシステム(a totalizing system)とみる見方を相対化する試みをおこなう。具体的には、それぞれの地域、社会集団の編成と変容の独自性を歴史的に再検討し、そのときどきに社会文化的事象の展開(evolution)に重要な役割を担った諸契機を分析する。

【館内研究員】 飯田卓、野林厚志、信田敏宏
【館外研究員】 池本幸生、内堀基光、太田至、大村敬一、大山修一、落合雪野、窪田幸子、栗本英世、重田眞義、末原達郎、菅豊、杉島敬志、杉藤重信、須藤健一、関本照夫、曽我亨、高倉浩樹、豊見山和行、名和克郎、松田素二、丸山淳子、安岡宏和、家中茂
研究会
2008年5月17日(土)9:00~18:00(弘前大学人文学部)
2008年5月18日(日)9:00~15:00(弘前大学人文学部)
「商品経済とグローバリゼーション」
飯田卓・大山修一・名和克郎・大村敬一
2008年6月28日(土)9:00~17:00(国立民族学博物館 大学院演習室1)
2008年6月29日(日)9:00~15:00(国立民族学博物館 大学院演習室1)
内堀基光「サラワク・イバンの生業-生産の配置――どのように統合的に理解するか」
西谷修「統治システムとしての〈経済〉」
池本幸生「(ベトナム)コーヒーに見る生業と生産の社会的布置」
2008年10月18日(土)9:30~17:00(国立民族学博物館)
2008年10月19日(日)9:30~12:30(国立民族学博物館)
須藤健一(神戸大)「生業経済と海外移住――オセアニア島嶼民の生きかた」
杉藤重信(椙山女学院大)「オーストラリア先住民の『生業と生産』について――人類学と考古学の狭間で」
落合雪野(鹿児島大)「アオバナをめぐる膳所藩と草津市の特産品づくり――植物資源の『活用』にみる生業と生産」
2008年11月29日(土)9:30~15:00(鳥取大学地域学部223教室)
2008年11月30日(日)9:30~17:00(鳥取大学地域学部223教室)
関本照夫(東京大学)「ジャワ・バティック産業のグローバリゼーション」
全員 とりまとめ論文の概略
2009年3月14日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
2009年3月15日(日)9:00~15:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
とりまとめ論文の要旨・構成の発表とそれをめぐる討論(全員)
研究成果

代表者及び共同研究員のオリジナルな資料にもとづく発表とそれをもとにした議論を積み重ねてきた。本年度3回の研究発表とその質疑討論から、研究の方向に2つの流れがあることが明らかになった。ひとつは、生業と生産の社会的布置の具体的諸相からグローバリゼーションと一括される現象が固有の歴史的環境的背景のもとで、どのような地域的特色をもつかを明らかにし、グローバリゼーションの概念を批判、改変しようという考察の方向づけ。今ひとつは、そうした研究を踏まえたうえで、生業研究の今日的意味を明らかにしようとする方向づけであった。この二方向を確認しつつ、とりまとめに入った。

2007年度

本年度5回予定している研究会において、生業と生産の社会的布置に関与する諸要因をその地域的歴史的多様性のなかからあぶりだし、近代とひとつの全体化するシステム(a totalizing system)とみる見方を相対化する試みをおこなう。具体的には、それぞれの地域、社会集団の編成と変容の独自性を歴史的に再検討し、そのときどきに社会文化的事象の展開(evolution)に重要な役割を担った諸契機を分析する。

【館内研究員】 飯田卓、野林厚志、信田敏宏
【館外研究員】 池本幸生、今村仁司、内堀基光、太田至、大村敬一、大山修一、落合雪野、窪田幸子、栗本英世、重田眞義、末原達郎、菅豊、杉島敬志、杉藤重信、須藤健一、関本照夫、曽我亨、高倉浩樹、豊見山和行、名和克郎、松田素二、家中茂
研究会
2007年5月12日(土)9:30~17:00(国立民族学博物館 第4演習室)
2007年5月13日(日)10:00~(国立民族学博物館 第4演習室)
重田眞義、曽我亨、松井健「生業資源・人間関係の地域的特性と生活様式」
2007年6月9日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
2007年6月10日(日)10:00~17:30(国立民族学博物館 大演習室)
大村敬一・信田敏宏・丸山淳子「先住民社会における生業にかかわる諸実践とその社会的布置」
2007年10月26日(金)14:00分~19:00分(沖縄大学)
2007年10月27日(土)9:00分~18:00分(久高島)
2007年10月28日(日)9:00分~13:00分(沖縄大学)
「日本における生業と生産の社会的布置とその変容」参加者全員
2007年11月17日(土)9:30~18:00(東北大学東北アジア研究センター)
2007年11月18日(日)10:00~14:00(東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター)
「牧畜もしくは農牧にかかわる文化的実践の諸相」
発表者:高倉浩樹・太田至・名和克郎
2008年2月9日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
2008年2月10日(日)10:00~15:00(国立民族学博物館 第4演習室)
「アフリカの都市と周辺における生業と社会の変容」
安岡宏和・松田素二
研究成果

代表者及び共同研究員のオリジナルな資料にもとづく発表とそれをもとにした議論を積み重ねた。1回ずつの研究会は、地域、生業類型などを基準にして一定のまとまりをもたせるようにしておこない、議論の収束をはかった。5回の共同研究会の結果、本研究テーマにきわめて密接にかかわるグローバリゼーションについての考究を、生業と生産のダイナミックでもつれた関係のなかからどう把み出していくかが重要であるという共通の認識を分有することができた。

2006年度

班員はいずれもすでに十分なフィールドワークをおこないオリジナルな資料を蓄積している。研究代表者はすでに各班員と個別に本研究テーマについて打診をおこなっている。第1回研究会で研究代表者が共同研究の意図と方向性を説明し、全員で集中的な議論をおこなう。以降の研究会では各班員がそれぞれの調査地や調査集団について、独自のアプローチでとりまとめをおこなってデータ提示と論考をおこない、共通のテーマである生業と生産の社会的布置を念頭に議論する。これでより統合度の高い、一般性のある成果をまとめていくことは、比較的容易であろうと考えている。

平成18年度の3回の研究会においては、生業活動と生産システムとの概念規定と相互の関連性、さらに、基本的な生業活動を中心として、動植物や空間といった自然資源を生業資源としていく認知の過程、生業資源である野生動植物や狩猟採集のテリトリー、漁場としての海や河、牧野や(潜在的な)農地、そこの水産物、家畜、農作物などと、そこに生活する個人や集団とを結びつける、実際の採捕、牧畜、農耕活動、類所有や利用の権利、その実態と行使などについて社会的意味とその歴史性に配慮しつつまとめていく。とくに、より広い外部世界との関連、国家や行政、国際組織などの介入、大きな変化の契機となる外部からのインパクトなどに注目しつつ、生業活動と生産システムの構造変化にかかわる社会的諸因子を同定しそれらの配置を明らかにしていく。

【館内研究員】 飯田卓、野林厚志、信田敏宏
【館外研究員】 池本幸生、今村仁司、内堀基光、太田至、大村敬一、大山修一、落合雪野、窪田幸子、栗本英世、重田眞義、末原達郎、菅豊、杉島敬志、杉藤重信、須藤健一、関本照夫、曽我亨、名和克郎、松田素二、家中茂
研究会
2006年10月14日(土)9:45~(第6セミナー室)
松井健「生業と生産の社会的布置:目途と方向性」
内堀基光「資源人類学から生業・生産へ」
2006年10月15日(日)10:00~(第6セミナー室)
野林厚志「生業活動の復原:生態学的アプローチと考古学的アプローチの狭間」
2006年11月18日(土)9:45~ / 19日(日)10:00~(第4演習室)
黒田明伸・豊見山和行・池本幸生「歴史・経済・経済史研究からみる生業と生産の社会的布置」
2007年3月3日(土)9:30~ / 4日(日)10:00~(第6セミナー室)
栗本英世・菅豊・窪田幸子「生業と生産の社会的布置と関与項の地域的特性」
杉島敬志・太田至・大村敬一「コメント」
研究成果

代表者及び共同研究員のオリジナルな資料にもとづく発表とそれをもとにした議論を積み重ねると同時に、研究会活動のツールとして、課題の展開に必要な人類学外の分野の近世史における生業研究、貨幣史やアマルティア・センの経済学等についての最前線の知識を共有することにも意を用いた。研究課題の展開に障壁となる地域ごとの関連要素の差異について共通の認識をもつために、第3回目の研究会は、3組の専門地域の異なる発表者とコメンテーターによって、ミニ・シンポ形式でおこなった。初年度としては、十分に成果があったと判断している。