国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

東アジア・東南アジア地域におけるコミュニティの政治人類学

共同研究 代表者 平井京之介

研究プロジェクト一覧

目的

本研究の目的は、さまざまなタイプのコミュニティの事例を比較検討することを通して、人びとがコミュニティに参加し、そこから公共的なるものがつくり上げられていく過程を明らかにすることである。広い意味でコミュニティと呼ばれるものには、地縁や血縁を中心とする「共同体」から、「伝統」やシンボルによって創られる「想像の共同体」としての国民国家まで多様なものが含まれるが、近年、グローバル化が進み、人びとの伝統的な価値観や生活様式が大きく揺さぶられているなかで、地域の再生を目指す町おこしや生協活動といった新しいタイプのコミュニティ、参加型あるいは運動型のコミュニティが注目されるようになっている。本研究は、近代性の制度と言説が統治の枠組みをつくりあげていくなかで、このようなコミュニティによる統治に対する抵抗と自由の可能性を探求する。

研究成果

本研究会は、平成18年度に2回、19年度に5回、20年度に4回、21年度に1回、計12回の研究会を開催し、館内および館外のメンバーによる研究報告と討論をおこなうとともに、研究会メンバー以外の研究者を招聘し、研究報告および情報交換をおこなった。

研究会では3つの問い、(1)コミュニティの成員はどのような契機で結びついているか、(2)コミュニティは社会や国家とどのような関係にあり、いかなる政治的位置にあるか、(3)コミュニティはどのような社会変容の可能性を有しているか、を前提に置きながら、各メンバーがそれぞれのフィールド調査の成果を用いて発表し、コミュニティの多様なあり方と、そうしたコミュニティによる統治に対する抵抗と自由の可能性を検討した。最終的に、各自が担当するコミュニティの研究は、(1)社会運動のコミュニティ、(2)国民国家とコミュニティ、(3)移動とコミュニティ、という3つのテーマ群にタイプ分けできることが確認された。

そして、本研究会が研究の対象としてきた新しいタイプのコミュニティは、そこに集まる場所、身体、モノ、情報、活動などを組織する日常的実践を知として共有しており、これらの知にこそ、近代性の制度と言説が作り上げる統治の枠組みに対する抵抗と自由の可能性があることが明らかになった。現在、グローバル化が可能にした人と情報とモノの移動は、アジアの各地で共同体を動揺させ、そこで生きる人間一人ひとりに、どう生きるべきかの問いを強く迫っている。こうしたなかで、本研究は、新しく出現しつつある、市民の自発的な意思に根ざしたさまざまなタイプのコミュニティに、国民国家という制度的な枠組みにとらわれない問題解決へ向けての対話空間を拓く可能性を認め、こうしたコミュニティから公共的なるものがつくり上げられる過程、また接合する伝統的な共同体や国民国家との関係を明らかにすることができた点で大きな意義があった。

2009年度

平成21年度に1回の研究会を開催し、研究代表者が、これまでの議論を前提に、報告書の序論に相当するような理論的な議論のまとめを報告し、その後でメンバー全員がそれぞれの草稿について意見交換をおこなう。ここでの議論を前提に、各メンバーはそれぞれ改稿をおこない、平成22年度には、最終的な成果として出版刊行を予定している。

【館内研究員】 信田敏宏
【館外研究員】 阿部利洋、市川哲、木村自、齋藤純一、高城玲、田邊繁治、中村律子、西井凉子、 平野(野元)美佐、古屋哲
研究会
2010年1月30日(土)10:00~19:00(国立民族学博物館 第3演習室)
2010年1月31日(日)10:00~16:00(国立民族学博物館 第3演習室)
成果刊行に向けた構想発表と総合討論(全員)
研究成果

研究会では各自が担当するコミュニティの研究が、(1)社会運動のコミュニティ、(2)国民国家とコミュニティ、(3)移動とコミュニティ、という3つのテーマ群にまとめられることが確認された。そして、近年のグローバル化過程のなかで注目されている新しいタイプのコミュニティ、たとえば、自らのアイデンティティや理想を主張するNPO、患者・被害者の自助グループや支援者グループ、移民のネットワークなどは、そこに集まる場所、身体、モノ、情報、活動などを組織する日常的実践を知として共有しており、これらの知にこそ、近代性の制度と言説が作り上げる統治の枠組みに対する抵抗と自由の可能性があることが明らかになった。今後は、こうした研究会での議論をもとに、最終的な報告書の作成をおこなう予定である。

2008年度

年間5回程度の共同研究会を開催し、館内および館外のメンバーによる研究報告と討論をおこなうほか、研究会メンバー以外でコミュニティ研究をしている研究者や実践者を講師として招き、研究報告、情報交換をおこなう予定である。これまでに発表していないメンバーを中心に最近の研究成果を報告していただく。なお、今年度は本館での開催以外に、熊本県水俣市と東京でそれぞれ1回ずつ外部の方に特別講師として現場で発表していただく研究会を開催する予定である。

【館内研究員】 市川哲(機関研究員)、信田敏宏
【館外研究員】 阿部利洋、木村自、齋藤純一、高城玲、田邊繁治、中村律子、西井凉子、野元美佐、古屋哲
研究会
2008年5月17日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館第3演習室)
信田敏広「分断されるコミュニティ、創造するコミュニティ─マレーシア、オラン・アスリのコミュニティの再編」
西本太「平地定住とコミュニティ再編の過程─南ラオス山地焼畑民の村落の場合」
2008年6月13日(金)13:00~18:30(水俣病センター相思社)
2008年6月14日(土)9:00~12:00(水俣病センター相思社)
平井京之介「水俣病歴史考証館の現状と課題」(仮)
平井京之介「水俣病患者支援運動の現状と課題」(仮)
総合討論「今後の共同研究会の運営について」
2008年6月21日(土)13:00~18:30(国立民族学博物館第1演習室)
小谷幸子「境界の曖昧な「人・場所・文化」─サンフランシスコ日本町に集う韓国系高齢者移民─」
佐藤知久「集合住宅と都市の共同性」(仮)
2008年7月5日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館第3演習室)
森田良成「出稼ぎ農民たちのゆるやかなコミュニティ―インドネシア、西ティモールの廃品回収人の事例」(仮)
西井凉子「新しいコミュニティの可能性:後期モダニティにおける南タイのダワ運動」(仮)
研究成果

本年度も引き続き、昨年度までに検討された3つの問い、(1)コミュニティの成員はどのようなきずなで結びついているか、(2)コミュニティは社会や国家とどのような関係にあり、いかなる政治的位置にあるか、(3)コミュニティはどのような社会変容の可能性を有しているか、を前提に置きながら、各メンバーがそれぞれのフィールド調査の成果を用いて発表し、コミュニティの多様なあり方と、そうしたコミュニティによる統治に対する抵抗と自由の可能性を検討した。こうした議論の過程で、本研究会が扱うコミュニティを、農村共同体や都市近隣社会、ネットワーク、行政区、想像の共同体などへタイプ分けして検討することの有効性がある程度確認された。

2007年度

年間5回程度の共同研究会を開催し、館内および館外のメンバーによる研究報告と討論をおこなうほか、研究会メンバー以外でコミュニティ研究をしている研究者や実践者を講師として招き、研究報告、情報交換をおこなう予定である。昨年度に発表していないメンバーを中心に最近の研究成果を報告していただく。なお、今年度は本館での開催以外に、鹿児島と東京でそれぞれ1回ずつ外部の方に特別講師として現場で発表していただく研究会を開催する予定である。

【館内研究員】 市川哲(機関研究員)、信田敏宏
【館外研究員】 阿部利洋、木村自、齋藤純一、高城玲、田邊繁治、中村律子、西井凉子、野元美佐、古屋哲
研究会
2007年5月12日(土)13:30~18:00
(宮崎公立大学 講義棟610演習室及び東諸県郡綾町照葉樹自然公園周辺)
2007年5月13日(日)9:00~15:00
(宮崎公立大学 講義棟610演習室及び東諸県郡綾町照葉樹自然公園周辺)
李善愛「日本の漁業協同組合について」
野元美佐「アフリカ都市のコミュニティと「村」 カメルーン、バミレケ移住民の事例から」
2007年7月21日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 4階第4演習室)
齋藤純一「共同体と社会統合について(仮題)」
2007年10月6日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第3演習室)
田邊繁治「ケアのコミュニティ-北タイのエイズ自助グループ」
市川哲「華人のトランスナショナルな社会空間とコミュニティ」
2007年12月9日(日)13:30~18:30(国立民族学博物館第3演習室)
中村律子「老いとコミュニティ-福祉制度/媒介者/生活世界(仮)」
阿部利洋「コミュニティの絆-その境界をめぐって」
2008年3月1日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館第3演習室)
木村自「雲南ムスリムの移住とネットワーク:トランスナショナルな社会空間におけるコミュニティとは何か」
高城玲「タイにおける統治の過程とコミュニティ―国家を想像する相互行為の事例から(仮題)」
研究成果

本年度は、昨年度の研究会で話し合われた3つの問い、

  1. そのコミュニティの成員はどのようなきずなで結びついているか?
  2. そのコミュニティは社会、国家とどのような関係にあり、いかなる政治的位置にあるか?
  3. そのコミュニティはどのような社会変容の可能性を有しているか?

を前提に置きながら、各メンバーがそれぞれのフィールド調査の成果を用いて発表し、コミュニティの多様なあり方と、そうしたコミュニティによる統治に対する抵抗と自由の可能性を議論した。その結果、まだ仮説の段階ではあるが、グローバル化が進む現在の東アジア・東南アジアに出現するコミュニティのあり方に見られるいくつかのパターンと、そうしたパターンの分析に有効と思われる理論的概念を抽出した。

2006年度

年間4~5回程度の共同研究会を開催し、館内および館外のメンバーによる研究報告と討論をおこなうほか、研究会メンバー以外でコミュニティ研究をしている研究者や実践者を講師として招き、研究報告、情報交換をおこなう予定である。

2006年度は10月から共同研究会を3回開催し、コミュニティに関するこれまでの人類学・社会学的な研究成果を検討するとともに、研究会メンバーのあいだで主要な理論的概念の把握ならびに問題関心の共有化をはかる。

【館内研究員】 市川哲(機関研究員)、木村自(機関研究員)、高城玲(機関研究員)、信田敏宏
【館外研究員】 阿部利洋、齋藤純一、田邊繁治、中村律子、西井涼子、野元美佐、古屋哲
研究会
2006年10月28日(土)13:30~(第3演習室)
「研究会の趣旨説明ならびにメンバー紹介」
2007年1月13日(土)13:00~(大谷大学響流館3階メディア演習室)
古屋哲「在日ペルー人のカトリック共同体、その実践と観念」
研究成果

今年度はコミュニティに関するこれまでの人類学・社会学的な研究成果を検討するとともに、研究会メンバーのあいだで主要な理論的概念の把握ならびに問題関心の共有化が図られた。各メンバーの研究対象や関心は多様であり、今後の研究活動に向けて明確に一致した方向性を示すことはまだできないが、その前提として以下の3つの問いから研究をスタートさせることが確認された。

  1. そのコミュニティの成員はどのようなきずなで結びついているか?
  2. そのコミュニティは社会、国家とどのような関係にあり、いかなる政治的位置にあるか?
  3. そのコミュニティはどのような社会変容の可能性を有しているか?

こうした問いを前提に置きながら、在日ペルー人がカトリック信仰を通じて構成する相互扶助コミュニティについて検討し、メンバーのあいだで今後の具体的課題がいくつか確認された。