国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

民俗資料保存論の構築と素材に応じた保存処理法の開発 

共同研究 代表者 日高真吾

研究プロジェクト一覧

目的

我が国における民俗資料の保存処理の技術の多くは、考古資料の保存処理が先行されていたことから、出土遺物の保存処理技術を転用、もしくは応用したものである。したがって、処理の対象となっている材質は木材や金属を想定したものであり、さまざまな素材で構成される民俗資料を保存するために必要な技術開発が進んでいないのが実情である。また、近年に至っては民俗資料を実際に製作できる技術者も劇的に減少していることから、これらの技術を如何に残していくのかも民俗資料の保存を考える場合には重要な課題となっている。

以上のことを踏まえ、本研究では民俗資料の保存処理について基本的な指針となる民俗資料保存論を構築するとともに、民俗資料保存論に立った民俗資料の素材に応じた新たな保存処理法の開発を行うことを研究目的とする。

研究成果

研究会当初は、民俗資料保存論の構築に取り組むグループと民俗資料の保存処理法の開発に取り組むグループの意思の統一を図ることを目的とした。ここでは、これまで取り組まれてきた民俗資料の保存活動、民俗学のなかにおける民俗資料の位置づけなど、全体的な概論に関わる研究会を実施することで、本研究会の対象となっている民俗資料の抱える課題、すなわち、文化財のなかに位置づけられながら、その保存方法、活用方法については未整理であるということ、民俗資料という比較的、時代の新しい資料だからこそ保っていられる質感を保存するための方法(特に、皮革資料や藁などの植物資料)の開発が遅れていることが明らかになった。さらに、災害で被災した場合の対処法についても未解決な部分が多く、本研究会でも取り組むべき課題として確認された。

次の研究活動では、民俗資料保存論の構築に取り組むグループと民俗資料の保存処理法の開発に取り組むグループを意図的に切り分け、専門的な見地からの討論を行うことを目的とした。なかでも保存上の問題となる素材ごとの研究に焦点を当てた研究会を実施した。そこからは、ケズリカケのような薄く削った木質文化財、塩分劣化を起こしている醤油醸造用具や製塩用具、硬化した皮革資料に着目し、それぞれの素材ごとの保存上の問題点および修復後の仕上がりのイメージについて討論した。さらに、ここで得られた知見で、特に博物館おける虫害管理や金属素材の錆止め処理で用いる不乾性油の効果について、2009年12月5日に実施した日本民具学会のシンポジウム「民具の保存」でその成果の一部を公開した。

研究活動の後半では、民俗資料が実際に収蔵されている施設の保存環境の問題点等について研究会を開催し、実際の環境調査の実施方法について検討し、今後の研究へと発展させるきっかけを得ることができた。

2010年度

共同研究者には現在の編集計画をもとに来年度6月の原稿の入稿を依頼している。それぞれのタイトル案は別紙参照。その後、研究会内で編集会議を開催し、7月の出版委員会に提出する予定である。その後、本格的な編集を10月より行い、平成22年度内の刊行をめざしたい。なお、出版に際しては、当館の出版制度を活用しながら、東海大学出版会より出版予定である。

【館内研究員】 近藤雅樹、笹原亮二、園田直子
【館外研究員】 石井里佳、犬塚将英、奥村章、川本耕三、木川りか、菊池健策、武知邦博、伊達仁美、増澤文武、和高智美
研究会
2011年3月17日(木)13:00~17:00(国立民族学博物館 第3演習室)
2011年3月18日(金)10:30~15:00(国立民族学博物館 第3演習室)
「10.20奄美豪雨の民俗資料の状況について」
「蛍光X線分析による資料調査の可能性について」
「民俗資料の保存修復の今後の可能性」
研究成果

今年度は民俗資料を構成する素材に応じた保存処理法に関する研究会を中心に開いた。特に博物館おける虫害管理や金属素材の錆止め処理で用いる不乾性油の効果について、日本民具学会が主催した公開シンポジウム「民具をまもる」において、その研究成果を発表することができた。次に木材資料への保存処理法の開発について、共同研究員の石井里佳氏が代表を務める科学研究費補助金基盤C「民俗資料の塩分劣化解明とその対処法の研究-博物館実践型保存処理法の確立を目指して-」において、具体的な実験の開始とその経過報告がなされた。皮革資料については、硬化機構の解明試験計画の策定や保存処理方法の実験計画の策定を完了でき、暫時実験を開始している。さらに、今年度は民俗資料が実際に収蔵され散る施設の保存環境の問題点にも着目し、実際の環境調査の実施方法について検討することができた。

2009年度

本年度は民俗資料保存論の構築のグレープと素材に応じた保存処理法の開発のグループによる、グループ会議を中心に研究を展開し、全体会議を2回開催する計画で望みたい。さらには、日本民具学会等と協力して、民俗資料保存に関するシンポジウムを企画する。

【館内研究員】 近藤雅樹、笹原亮二、園田直子
【館外研究員】 石井里佳、犬塚将英、奥村章、川本耕三、木川りか、菊池健策、武知邦博、伊達仁美、増澤文武、和高智美
研究会
2009年7月23日(木)13:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
川本耕三、石井里佳、日髙真吾「不乾性油で防錆処理を行った資料の経年変化の調査法について」
川本耕三、石井里佳、日髙真吾「各種防錆剤の塩分環境下における防錆効果試験法について」
日髙真吾、和髙智美、川本耕三、石井里佳「不乾性油の防錆効果の可能性について」
2009年10月26日(月)15:00~17:30(十日町情報館)
2009年10月27日(火)9:00~18:30(十日町情報館、金沢学院大学)
2009年10月28日(水)9:00~17:30(金沢学院大学)
2009年10月29日(木)9:00~12:30(金沢学院大学)
高橋由美子(十日町情報館)「中越地震で被災した民俗文化財修復計画について」
                    「十日町市の被災民俗文化財の現状について」
中村晋也(金沢学院大学)「能登半島地震の被災文化財の修復活動について」
                  「被災文化財の非破壊調査について」
                  「金沢学院大学における非破壊分析のワークショップ」
日髙真吾「被災した明泉寺燈籠のX線透過試験結果について」
2009年12月10日(木)13:30~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
木川りか「臭化メチル使用規制後の文化財の害虫処理事情(仮)」
二俣賢「処理期間の短縮を狙った二酸化炭素処理の可能性:殺虫効果を中心に(仮)」
日高真吾「新しい二酸化炭素処理システムについて(仮)」
犬塚将英「二酸化炭素処理による木材の変化について(仮)」
2010年2月2日(火)14:30~18:00(松江市島根資料館)
2010年2月3日(水)10:00~12:00(松江市島根資料館)
「松江市島根資料館の重要有形民俗文化財の概要について」
「松江市島根資料館の民具資料の状態について」
「松江市島根資料館の保存環境の問題点について」
吉川弘行(松江市教育委員会)
2010年2月24日(水)14:30~18:00(村上市旧朝日村歴史交流館)
2010年2月25日(木)9:00~12:00(村上市旧朝日村歴史交流館)
「歴史交流館の民俗文化財の概要について」
「歴史交流館の民具資料の状態について」
「歴史交流館の保存環境の問題点について」
富樫秀之氏(村上市教育委員会)
研究成果

今年度は民俗資料を構成する素材に応じた保存処理法に関する研究会を中心に開いた。特に博物館おける虫害管理や金属素材の錆止め処理で用いる不乾性油の効果について、日本民具学会が主催した公開シンポジウム「民具をまもる」において、その研究成果を発表することができた。次に木材資料への保存処理法の開発について、共同研究員の石井里佳氏が代表を務める科学研究費補助金基盤C「民俗資料の塩分劣化解明とその対処法の研究-博物館実践型保存処理法の確立を目指して-」において、具体的な実験の開始とその経過報告がなされた。皮革資料については、硬化機構の解明試験計画の策定や保存処理方法の実験計画の策定を完了でき、暫時実験を開始している。さらに、今年度は民俗資料が実際に収蔵され散る施設の保存環境の問題点にも着目し、実際の環境調査の実施方法について検討することができた。

2008年度

本年度は民俗資料保存論の構築のグレープと素材に応じた保存処理法の開発のグループによる、グループ会議を中心に研究を展開し、全体会議を2回開催する計画で望みたい。

【館内研究員】 近藤雅樹、笹原亮二、園田直子
【館外研究員】 石井里佳、犬塚将英、奥村章、川本耕三、木川りか、菊池健策、武知邦博、伊達仁美、中越正子、増澤文武
研究会
2008年7月9日(水)13:30~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
2008年7月10日(木)10:00~12:00(国立民族学博物館 第3演習室)
藤井裕之「千里ニュータウン展で実施した市民参加型の展示の可能性」
2008年7月15日(火)13:30~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
日髙真吾・川本耕三・和髙智美「不乾性油の防錆効果について」
川本耕三「ケズリカケ資料の保存処理に向けた実験条件について」
日髙真吾・和髙智美・河村有佳子・橋本沙知「民博所蔵の皮革資料について」
2008年8月1日(金)13:30~18:00(日本液炭株式会社技術開発部本部(埼玉県久喜市清久町1-2))
日髙真吾・二俣賢「加温二酸化炭素の殺虫効果について」
2008年10月24日(金)13:30~18:00(国立民族学博物館第 第3演習室)
和髙智美・日髙真吾「民博所蔵の皮革資料の劣化状態について」
2008年11月20日(木)13:30~18:00(国立民族学博物館 第3演習室)
奥村章「皮革資料の取り扱いについて-民俗資料への応用を探る-」
石井里佳、川本耕三、日髙真吾「民俗資料の塩分劣化について-メカニズムの解明と対処法についての研究計画-」
2009年2月10日(火)13:00~18:00(株式会社 山陽(兵庫県姫路市))
原田秀樹「皮革の製造方法について」
研究成果

今年度は民俗資料を構成する素材ごとの問題点をテーマとした研究会を中心に開いた。特に今年度の研究会として取り上げたものはケズリカケのような薄く削った木質文化財、塩分劣化を起こしている醤油醸造用具や製塩用具、硬化した皮革資料に着目し、それぞれの素材ごとの保存上の問題点及び修復後の仕上がりのイメージについて討論した。さらに、ここで得られた知見をもとに樹脂含浸法、脱塩処理法、水分を利用した皮革資料保存処理法、不乾性油を利用した防錆処理法の開発のための実験計画を作成し、財団法人元興寺文化財研究の共同研究会メンバーとともに実験を始め、それぞれの結果については文化財保存修復学会等での発表を予定している。

2007年度

初年度は研究会を5回開催する予定である。

【館内研究員】 近藤雅樹、笹原亮二、園田直子
【館外研究員】 石井里佳、犬塚将英、奥村章、川本耕三、木川りか、菊池健策、武知邦博、伊達仁美、中越正子、増澤文武
研究会
2007年10月20日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第1セミナー室)
2007年10月21日(日)10:00~15:00(国立民族学博物館 第1セミナー室)
日髙真吾「民俗資料保存論の構築と素材に応じた保存処理法の開発」
菊池建策「民俗資料の保存に関する諸問題」
増澤文武「民俗資料の保存について」
2007年12月1日(土)13:30~18:00(国立民族学博物館 第1会議室)
近藤雅樹「アチックの精神」
武知邦博「枚方市立旧田中家鋳物民俗資料館での民俗資料の保存活動」
伊達仁美「京都造形芸術大学で展開している民俗文化財の保存修復」
2008年1月26日(土)13:30~18:00(第1会議室)
園田直子「国立民族学博物館における総合的資料管理の考え方(仮題)」
和髙智美「国立民族学博物館所蔵の毛皮資料の保存活動(仮題)」
2008年2月29日(金)13:30~18:00(第6セミナー室)
笹原亮二「民俗資料としての民具-モノjから生活文化を探る可能性-」
佐々木利和「民俗資料の活用事例-ミンパク オッタ カムイノミの事例を中心に-」
2008年3月14日(金)13:30~18:00(日本液炭株式会社)
日高真吾・木川りか「加温二酸化炭素処理の殺虫効果試験1」
研究成果

民俗資料を取り巻く周辺情報の研究会を開いたことで、本研究会の対象となっている民俗資料の抱える課題、すなわち、文化財のなかに位置づけられながら、その保存方法、活用方法について未整理であるということや民俗資料という比較的、時代の新しい資料だからこそ保っていられる質感を保存するための方法(特に、皮革、藁などの植物資料)の開発がおこなわれていないことが明らかになった。また、昨今の博物館、民俗資料館が共通して抱えている問題として、市民への還元という体裁を整えるために行われている体験学習的な活用法について、強い危機感が確認された。さらに、地震などの災害で被災した場合の対処法についても未解決な部分が多く、本研究会でも取り組むべき課題として確認された。