国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。
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梅棹忠夫モンゴル研究資料の学術的利用

共同研究 代表者 小長谷有紀

研究プロジェクト一覧

キーワード

アーカイブズ、梅棹忠夫、モンゴル

目的

本館の創設に尽力し、初代館長をつとめた梅棹忠夫ののこした資料は「梅棹アーカイブズ」とよばれている。それらのうちすでに登録整備されているのは写真資料およそ3万5千点にすぎない。その他の資料については2011年度よりデジタル化とともに登録作業がおこわれることになっている。本研究は、そうした資料整備によっていかに学術的な活用が展開されるかを具体的にしめす先例となるように、アーカイブズ資料の学術的な利用を目的とする。

梅棹忠夫ののこした資料のうち、もっとも多大なまとまりは1944年から46年にかけて中国内蒙古自治区などで調査研究がおこなわれたときの資料である。本研究は、それらの梅棹忠夫モンゴル研究資料に関するデジタル・データ化作業を活用して、それらの記載内容について、学術的に整理し、分析するものである。

分析にあたっては、国際学術交流協定にもとづき、中国関係諸機関とともに、別途、国際的な共同研究を実施し、その成果を公開して、地元にも還元する。

研究成果

梅棹アーカイブズのうち、モンゴル調査に関する資料としては、地図2枚、スケッチ約100枚、フィールドノート約50冊、ローマ字カード約5000枚、各種原稿約1000枚が残されている。2年半の整理ではスキャニング作業の終わっているスケッチ、フィールドノート、ローマ字カードに焦点をあてた。
まず、スケッチを整理して原画集の底本とし、つづいてローマ字カードを整理してカード集の底本をなした。スケッチ原画集の刊行にあたっては、現地調査にもとづき、現代の生活用品と比較し、意外にもそのまま残っているもの、形状は同じであるにもかかわらず素材が変化しているもの、まったく様変わりしているものなどの区別が明らかとなり、半世紀のあいだの物質文化の変容を明らかにすることができた。
ローマ字カード集の編集にあたっても、別途、現地調査を実施することによって、人名、地名、植物名、寺院名などを確定した。なお、現地調査は、国際共同研究の協定にもとづき、内モンゴル大学とりわけナランゲレル教授の協力を得て実施した。底本には、共同研究メンバーのそれぞれの専門分野(言語学、植物学、社会学など)の知見が投入されている。
これら2つの資料集の作成を通じて、梅棹忠夫たちのモンゴル調査の全体像がほぼ明らかになった。その成果は、モンゴル研究と情報学研究の二つの領域に寄与するものである。
まず、モンゴル研究にとっては、現在の東スニト旗を南北に縦断することによって、その生態学的な違いに応じた牧畜文化の遷移を捉えることのできる一次資料が蓄積されているという活用の方法が明らかになった。もっとも集積的なカード群が形成されているのは「草刈り」に関するものであり、それゆえに「草刈るモンゴル」は執筆されたのであろう。「草刈り」の項目ほどではないにしても、すべての項目が同じ観点すなわち遷移的な変化という観点から空間構造を再構築することができる。梅棹忠夫のモンゴル調査資料に描かれた社会を現代の状況と比較するときの、ひとつの重要な視点となるだろう。なお、今回の作業において、調査行程路に関する地図も改訂した。
つぎに、情報学研究にとっては、資料の整理の仕方がコンピューター無き時代のコンピューターによる情報処理の発想であること、『知的生産の技術』の成り立つ背景が明らかとなった。

2013年度

中国内蒙古大学とすでに締結されていた国際学術協定のもとで、平成24年度には本共同研究のための協定を締結し、それにもとづいて現地調査を実施し、その成果をSER『梅棹忠夫のモンゴル調査スケッチ原画集』として刊行した。この成果を参照枠として活用しながら、当該資料ならびに他の資料の分析を進める。2月に最終成果によって国際共同研究会を実施できるよう、5月、10月と研究会を実施する。   各自の担当する研究内容は、以下のとおりである。楊海英「梅棹忠夫のモンゴル調査―その時代背景と現地還元の意義」/ナチンションコル「梅棹忠夫の牧畜論―未刊行論文の草稿から」/縄田浩志「梅棹忠夫の構想力―調査前に書かれたフィールド・ノートの記載から」/小長谷有紀「梅棹忠夫のフィールド・ワーク―フィールド・ノートの記録法から」/サイジラホ「梅棹忠夫の社会調査―フィールド・ノートの記載から」呉人恵「梅棹忠夫のモンゴル語表記―スケッチに書かれた記載から」/堀田あゆみ「物質文化の変容―梅棹忠夫のスケッチの活用」

【館内研究員】 堀田あゆみ
【館外研究員】 大野旭(楊海英)、呉人恵、サイジラホ、ナチン、縄田浩志
研究会
2013年5月18日(土)10:00~13:00(大正大学 三号館4階 第2閲覧室)
エリデニ(東京大学農学生命科学研究科・森林理水及び砂防工学研究室・特任研究員)「梅棹アーカイブズの利用とリモートセンシングに基づくモンゴル高原における土地利用変遷」
ナチン(岡山大学)「モンゴルの遊牧における季節移動と日帰り放牧の事例調査報告」
討論
2013年11月17日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
小長谷有紀「2013年夏および秋の現地調査報告」
ナチン「国際民族学人類学連合大会における研究発表の報告」
上村 明「フィールドノート22におけるモンゴル語の表記について」
辛島善博「フィールドノート22における世帯調査の整理について」
冨田敬大「フィールドノート47・48における牧畜語彙に関する研究構想について」
風戸真理「フィールドノート47・48における畜糞への注目について」
尾崎孝宏「フィールドノート48における農牧複合に関する研究構想について」
討論
研究成果

フィールドノートの整理をした結果、もっとも番号の大きな47番と48番が、事前の研究構想であることが判明した。その内容の多くは人文現象であるため、通説とは異なって、梅棹忠夫はモンゴル調査より以前から人文学的関心の強いことが了解された。この全文を共同研究会メンバーの縄田氏がデジタル入力して共同利用に供した。情報共有の結果、若手モンゴル研究者たちがそれぞれ、梅棹忠夫が実際に研究論文にまとめることのなかった事項について、今後の研究の可能性を検討した。
またフィールドノート22番は梅棹自身によるインデックスノートであり、その整理を生かすことによって、ローマ字カードの資料集としての刊行を準備した。ローマ字カードは、梅棹自身がフィールドノートを項目ごとにカードに転記したものであり、約5000枚ある。このスキャニングデータの公開は一次資料として意義深いが、さらにテキストとして整備され、刊行されることにより、学術的利用は飛躍的に促進されるであろう。テキストの整備にあたっては、国際共同研究の協定にもとづき、内モンゴル大学の協力を得て、現地調査を遂行し、地名、人名、事物名などを確定した。

2012年度

5月に会合を開き、国際共同研究集会に向けて、研究成果の途中報告をおこなう。10月に国際共同研究集会のための準備会合として、研究成果の最終報告をおこなう。いずれの会合も、アーカイブズ資料の判読を協業しながら報告内容を検討する。

2月に、別途費用を工面して、モンゴル、中国、ロシアからの研究者を招聘し、共同研究会の国際化を図り、国際共同研究会を実施する。さらに成果公開のための準備に入る。現時点では、以下の刊行物を予定している。

【館内研究員】 堀田あゆみ
【館外研究員】 楊常宝、大野旭(楊海英)、呉人恵、ナチン、縄田浩志
研究会
2013年1月9日(水)13:30~17:30(国立民族学博物館 第1演習室)
梅棹資料に関する討議(全員)
小長谷有紀・堀田あゆみ「2012年5月の中国内モンゴルでの調査結果について」
ナチン「梅棹草稿論文における放牧論について」
総合討論
2013年2月16日(土)13:30~17:30(国立民族学博物館 第1演習室)
小長谷有紀・堀田あゆみ「遊牧図譜の原画集の刊行について」
縄田浩志「フィールドノート47号および48号における研究企画について」
総合討論
研究成果

昨年の共同研究の成果にもとづいて、現地調査を実施するために、別途、館長リーダーシップ経費を申請し、これにより、2012年5月に中国内モンゴル大学を訪問し、新たに学術交流協定を締結するとともに、それにもとづいて共同で現地調査を実施した。
その学際的かつ国際的な成果は「梅棹忠夫のモンゴル調査におけるスケッチ資料」『国立民族学博物館研究報告』37巻1号として刊行され、物質文化の変容が明らかになった。またさらに、『梅棹忠夫モンゴル調査スケッチ原画集』(国立民族学博物館調査報告111号)を刊行した。1990年の梅棹著作集編集時の誤りをただすなど、資料としての底本をつくることができた。
那沁は、梅棹の放牧に関する論文草稿を分析し、GPSや衛星画像など今日的な方法によって再検討できる可能性を示した。また、縄田浩志は、現地調査前に書かれた2冊のフィールドノートの詳細な分析から、遊牧論の成立過程を明らかにできる可能性を示した。

2011年度

10月に会合を開き、全資料を実見し、各研究者のタスクを明確にする。以下のような作業が想定される。フィールド・ノートおよそ50冊とローマ字カード2000枚との照合。カード項目に関する分類整理。スケッチに書かれたモンゴル語の語彙の整備。12月に会合を開き、各研究者の成果を報告し、方針を修正する。2月に会合を開き、各研究者の成果を報告する。

【館内研究員】 堀田あゆみ
【館外研究員】 楊常宝、大野旭(楊海英)、呉人恵、ナチン、縄田浩志
研究会
2011年10月10日(月)10:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
全体打合せ
2012年2月11日(土)10:00~17:00(日本科学未来館)
2012年2月12日(日)10:00~16:00(日本科学未来館)
《2月11日(土)》
打ち合わせ、小長谷有紀(国立民族学博物館)・展示解説、質疑応答
報告(1):ボルドバータル(モンゴル国立科学技術大学)
報告(2):テクスバヤル(中国内蒙古大学)
討論 コメンテーター:楊海英(静岡大学教授文化人類学)、呉人恵(富山大学教授言語学)
《2月12日(日)》
資料解読の報告(1)物質文化について:堀田あゆみ
資料解読の報告(2)和崎写真について:楊海英
資料解読の報告(3)牧野論について:ナチンションコル
資料解読の報告(4)遊牧論について:縄田浩二
総合討論 討議者:小長谷有紀
研究成果

現物資料についての精査を進めている段階であり、作業の結果、明らかになった点は以下のとおりである。

  1. フィールド・ノートのうち、ナンバーリングは整理の段階でほどこされたものであり、ナンバー47および48のノートは、調査前に書かれた。とくにナンバー48のノートは、渡航前に日本で記された。モンゴル語の表記法に関する検討や、今和次郎を参照して素描することなどが記されている。そのほか、遊牧起源論についてすでに「狩猟民が動物の群れを追いかける」というアイデアが記されている。
  2. 草稿は、複数の論考からなり、全体として一冊の書としてまとめられるよう構成されている。全体を復原して刊行する意義が高い。
  3. カードの一部は、引用文献について論文ごとに概要が記されたものである。
  4. 図譜については、すでに大部が「モンゴル遊牧図譜」として『回想のモンゴル』に掲載されているが、オリジナルに含まれたモンゴル語表記や解説などは省略されて刊行されたため、これらの情報を含めて原図を復原して刊行する価値がある。
  5. 写真のうち、調査の具体的な様子をとどめた一部には解説を付して刊行したほうがよい。