国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

実践と感情―開発人類学の新展開

共同研究 代表者 関根久雄

研究プロジェクト一覧

キーワード

感情、開発、実践

目的

本研究は、開発や開発援助の文脈における人々の「感情」に注目した実践的人類学の可能性を検討することを目的とする。ここでは、ODA、NGOの海外における実践や国内での広報、啓発活動も含むさまざまな開発事例に関係する人々の行為や思考、語りに現れる感情を、感情語(例えば「怒り」「喜び」「悲しみ」「満足」「やる気」など)によって示される一般的・抽象的レベルだけでなく、その元にある個々の生きられた感情経験そのものにおいて捉える。開発実践のプロセスを民族誌的に検討すると、実践の動向が、関係する人々の感情(emotion, sentiment)や気持ち(feeling)の変化や転化に大きく左右されることがわかる。本研究では、開発の文脈の中から浮かび上がるそのような変化し転化する生きられた感情経験をリアリティの構成要素として回収した上で、それらを実践活動に結びつける方法について具体的な開発事例を通じて検討する。

2013年度

【館内研究員】 岸上伸啓、鈴木紀、信田敏宏
【館外研究員】 青山和佳、井上真、小國和子、亀井伸孝、佐藤峰、白川千尋、鷹木恵子、玉置泰明、内藤順子、縄田浩志、西真如、藤掛洋子、真崎克彦
研究会
2013年5月19日(日)13:00~18:30(国立民族学博物館 第4演習室)
鷹木恵子(桜美林大学)「チュニジアのオアシス政府開発政策と革命後の農民暴動-農民の感情と論理についての一考察-」
質疑応答
真崎克彦(甲南大学)「ブータンの民主化研究の実践と感情」
質疑応答

2012年度

研究会を4回(2012年7月7日(土)、10月13日(土)、12月8日(土)、2013年3月9日(土)、いずれも予定)開催する。各回メンバー数名による研究発表と、それに基づく全体討論を行う。また、開発援助の実務者や、いわゆる開発学を専攻する研究者をゲストスピーカーあるいはゲストコメンテーターとして招聘することも検討する。各発表では、開発(援助)事例の過程における転換あるいは変換に関わる事象に注目し、現地のステークホルダーたちの感情(emotionやsentiment)を、人々の語りや行動、振る舞いなどの身体表現を含めて捉え、当該地域の開発に関わる感情経験の文化的特徴について考察すると共に、その応用的実践への展開の可能性について検討する。国際開発学会などの関連学会において分科会を組織し、感情に注目した開発研究への関心を高めたい。

【館内研究員】 岸上伸啓、白川千尋、鈴木紀、信田敏宏
【館外研究員】 青山和佳、井上真、小國和子、亀井伸孝、佐藤峰、鷹木恵子、玉置泰明、内藤順子、縄田浩志、藤掛洋子、真崎克彦
研究会
2012年9月29日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
関根久雄(筑波大学)「『怒り』を管理する-ソロモン諸島における開発実践と感情経験-」
メンバー全員「ディスカッション」
2012年10月13日(土)13:00~18:15(国立民族学博物館 大演習室)
小國和子(日本福祉大学)「共感と合理:インドネシア南スラウェシ農村灌漑の「水守り人」の意義と機能を事例に考える」
質疑応答
鈴木紀「嫉妬と妬み:メキシコの参加型農村開発のサステナビリティ(自立発展性)を巡って」
質疑応答
2013年2月2日(土)13:00~18:15(国立民族学博物館 第4演習室)
縄田浩志(総合地球環境学研究所)「村入りで『感情的になる』:現地調査の流儀をめぐって」
質疑応答
白川千尋(国立民族学博物館)「感情と信頼関係-青年海外協力隊の事例より」
質疑応答
2013年3月2日(土)13:00~18:15(国立民族学博物館 大演習室)
《共同研究『NGO活動の現場に関する人類学的研究―グローバル支援の時代における新たな関係性への視座』(代表:信田敏宏)と合同開催》
藤掛洋子(横浜国立大学)「連帯から分裂へパラグアイ農村部における国際協力活動より(1993-2013)」
質疑応答
上田直子(横浜国立大学/JICA)「援助とソーシャル・キャピタル:中米シャーガス病対策でのサシガメをめぐるセンチメント」
質疑応答

2011年度

研究会を2回実施し、研究代表者による本研究会の概要等に関わる基調報告を行うと共に、各メンバーがこれまでに行ってきた研究・実践等に関する成果を報告しあい、問題意識の共有を図る。

【館内研究員】 岸上伸啓、白川千尋、鈴木紀、信田敏宏
【館外研究員】 青山和佳、井上真、小國和子、亀井伸孝、佐藤峰、鷹木恵子、玉置泰明、内藤順子、縄田浩志、藤掛洋子、真崎克彦
研究会
2011年12月10日(土)14:00~18:15(国立民族学博物館 大演習室)
関根久雄(筑波大学)「研究会趣旨説明-開発実践における『感情』について-」
質疑応答
今後の研究会の方向性を含めた総合討論
2012年3月10日(土)13:30~18:30(国立民族学博物館 第4演習室)
内藤順子(立教大学)「「全人的作業」としての支援をめぐる一考察」、および討論
青山和佳(北海道大学)「未来を投企する現地人エリート-フィリピン初の保健協同組合創設者の語りより」、および討論
次年度研究会についての打ち合わせ
研究成果

第1回研究会において関根久雄が途上国開発の実践過程における人々の感情を取り上げることの意義と課題を説明し、それに対する種々意見交換を行った。客観化された感情語によってプロジェクト関係者の内面を外部化するような、現象学で言う自然的態度だけでなく、調査者によって「怒り」とか「失望」という言葉に回収される前に人々の中に湧き出ていたはずの「生きられた感情」の要素をすくい上げ、それが行為へとつながる様相(感情経験)に注目することによって、リアリティを人々の内面に近いところで捕捉することを通じてプロジェクトの過程を読み解くことを本研究会の主たる課題として指摘した。

第2回研究会では、内藤順子が「『全人的作業』としての支援をめぐる一考察」において、実感や共感といった感情的・情動的要素が開発協力の現場における事態を展開させ、また対象と現場を理解していく要素にもなっていくことを、内藤自身のチリにおける支援活動の経験から提示した。また、青山和佳は、「未来を投企する現地人エリート-フィリピン初の保健協同組合創設者の語りより」と題し、感情の共同体としての協同組合においてその創設者がメンバーや潜在的メンバーに語りかけ、その感情を惹起していく実践活動の動態を詳細に報告した。いずれも、実践活動の起点及びその様々な事象との結節点に人々の感情経験が介在していることを明確に示す好例であり、本研究会の方向性をメンバー間で具体的に共有することができた。