国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

人の移動と身分証明の人類学

共同研究 代表者 陳天璽

研究プロジェクト一覧

キーワード

移動、身分証明書、ライフサイクル

目的

本研究は、人の移動・越境・滞在と身分証明をめぐる法的・行政的制度、またそれらを利用する実践のあり方について明晰化することを狙いとする。具体的には、生から死に至るライフサイクル(人生周期)において、人の移動と在留管理に基づく身分証明が、移動する人々の人生と次世代にどのような影響を与えるのかという視点に立ち、旅券、渡航証、身分証といった身分証明は、個人のアイデンティフィケーションや社会のトランスナショナリズムにどのように関わっているのかを解明していきたい。移民二世・三世の時代を迎え、出産・育児から就学、就労、結婚・離婚、居住、家庭生活、街づくり参画、老後の生活、葬儀・墓や弔いに至るライフステージは、次世代へと繋がっている。そうした時間の流れの中で、身分証明が、越境の時代、ボーダーレスな経済社会にどのような影響を与えているのかは、研究価値の非常に高いテーマである。そのテーマを直視し、グローバルなネットワークが進行する過程で、国籍や在留資格など身分証明が果たしている役割と管理される側の一人ひとりの人権を人類学・社会学・法律学の研究者が共同で行う学際的研究は、今後の移民行政にとっても大きな財産となるだろう。

よって本研究は、国家による管理とその超克をめぐって、越境における法的・行政的な制度や身分証明が、生身の人間の人権を守っていくために果たす役割を検証し、さらにはそのあり方を提言することを目的とする。

2013年度

【館内研究員】 庄司博史、南真木人
【館外研究員】 明石純一、李仁子、石井香世子、大西広之、郭潔蓉、川村千鶴子、窪田順平、小林真生、小森宏美、近藤敦、佐々木てる、館田晶子、錦田愛子、西脇靖洋、付月、松田睦彦、南誠、柳下宙子、柳井健一、山上博信、山田美和、林泉忠
研究会
2013年6月14日(金)15:00~17:00(青森県立郷土館)
三谷純子 「亡命チベット人の国境を越える移動とパスポート及び国籍取得」
2013年6月15日(土)10:00~17:15(青森大学)
田中志子「移動するホームレスの現状」
櫛引素夫「青森県の限界集落にみる他出者の動きと内面」
記録映画「沖縄730 -道の記録-」およびディスカッション
2013年6月16日(日)10:00~15:30(雪中行軍記念館)
ディスカッション・研究打ち合わせ

2012年度

今年度は、ライフサイクルと身分証明書の織りなす関係を明らかにする。今年度は3-4回の研究会を計画している。まずは、ライフサイクル、ライフステージに関する理論的枠組み、概念を共有する研究会を開催する。また、各ライフステージにおける身分証明書を集め、分類整理する。具体的には、移民二世・三世の時代を迎え、出産・育児から就学、就労、結婚・離婚、居住、家庭生活、街づくり参画、老後の生活、葬儀・墓や弔いに至る各ライフステージにおいて、どのような身分証明があるのかを、収集し提示する。また、各ライフステージにおいて、身分証明書がどのような意味や効力をもつのか、個人が身分証明書から受けた影響、すなわち実生活におけるアイデンティフィケーションについて考察する。また、各身分証明書の法的な意味についても考察する。

【館内研究員】 庄司博史、中牧弘允、南真木人
【館外研究員】 明石純一、李仁子、石井香世子、大西広之、郭潔蓉、川村千鶴子、窪田順平、小林真生、小森宏美、近藤敦、佐々木てる、館田晶子、錦田愛子、西脇靖洋、付月、松田睦彦、南誠、柳下宙子、柳井健一、山上博信、山田美和、林泉忠
研究会
2012年6月2日(土)10:00~19:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
川村千鶴子「ライフサイクルの視座」
大西広之「身分証明書の分類」
近藤敦「『多文化共生社会』における身分証明のあり方」
山田美和「タイにおけるミャンマー人移民労働者と国籍・身分証明」
研究打ち合わせ
2012年9月15日(土)13:00~19:00(早稲田大学 9号館304教室)
佐々木てる「移動と身分証明の社会学」
Takamori Ayako "Positioning US-Japan Relations: Japanese American Cultural Citizenship
小林真生 「スポーツ選手の国籍選択―トンガ人ラグビー関係者を事例として―」
研究打ち合わせ
2012年12月1日(土)10:00~19:00(国立民族学博物館 第6セミナー室)
李仁子「脱北、脱南、そして難民-身分証明をめぐるあくなき闘い」
大川洋子「米国における国籍取得および身分事項の立証」
総合討議・研究打合せ
2013年2月23日(土)9:30~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
研究打ち合わせ
山上博信「導入・小笠原諸島における人の移動とその国籍について」
DVD鑑賞「知られざる国境・小笠原」とその討論
嘉陽ジャネット「小笠原復帰の前後を経験した欧米系島民のくらしと身分証明」
2013年2月24日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
ディスカッション
長谷川馨「小笠原復帰に先立ち派遣された東京都職員の記憶」
デービッドチャップマン「海外からみた小笠原諸島の人びとと戸籍」
ディスカッション

2011年度

本研究は、人類学、法律学、社会学のそれぞれの専門家が学際的な視点で行うものである。そのため、研究の実施計画は、(1)専門的な視点からの研究報告集会、(2)現物の収集およびその分析、(3)開かれた形での研究報告(シンポジウム、展示等)のための打ち合わせ、研究成果の出版に関する相談となる。

  1. 年に3-4回、定期的に研究集会を行う。特に初期は全体の研究計画を打ち合わせ、それぞれの分野からどのようにアプローチを行うか話し合う。同時に、人類学、法律学、社会学の分野からそれぞれ身分証明書の機能、法制度の側面、社会的な文脈などを明らかにしていく。
  2. 人の移動や越境の際に必要となる、旅券、渡航証、身分証などの現物やコピーを収集し、所有者の身分や時系列ごとに整理を行なう。またそれらの現物から読み取れることを明らかにし、(1)で行った身分証明書の諸側面を再考する。平成19-22年度に行われた共同研究プロジェクト「国籍とパスポートの人類学」(研究代表:陳天璽)で収集した資料をアーカイブ化する。
  3. 研究報告、展示などの準備を行う。特に(2)でアーカイブ化したものを、より視覚的にわかりやすくする。また民博通信や研究報告などといった媒体を利用して、各種の身分証に関してまとめる。研究報告会として、シンポジウムなどの打ち合わせを行う。可能であれば行政への政策提言もまとめていく。
  4. 出版のための研究報告会を行う。また全体の統一を行うため、編集委員会を設定し研究成果をかたちにしていく。また外部出版の準備も行う。

23年度は、本共同研究会の初年度にあたり、年度内に2回、もしくは3回研究会を行う予定である。研究会のテーマとしては、近々施行されることが決まっている「在留カード」の新システムについて検討する。ほかにも、重国籍者、離島居住者、移住移動者・遊牧民などに焦点を当て、越境と身分証明について研究発表、討論を行うことを計画している。

【館内研究員】 庄司博史、中牧弘允、南真木人
【館外研究員】 明石純一、李仁子、石井香世子、大西広之、郭潔蓉、川村千鶴子、窪田順平、小林真生、小森宏美、近藤敦、佐々木てる、館田晶子、錦田愛子、西脇靖洋、付月、松田睦彦、南誠、柳下宙子、柳井健一、山上博信、山田美和、林泉忠
研究会
2011年12月4日(日)10:30~17:30(国立民族学博物館 第6セミナー室)
新共同研究会の3年間の構想、研究目的、自己紹介など
明石純一「日本の入国管理と在留管理、その系譜と展望」
2012年3月20日(火)13:30~18:00(国立歴史民俗博物館 第1会議室)
2012年3月21日(水)10:00~15:00(国立歴史民俗博物館 第1会議室)
《3月20日(火)》
松田睦彦「歴史・民俗資料に見る身分証明書の多様性」
陳天璽「イスラエル・ゴラン高原における人の移動と国籍・身分証明」
《3月21日(水)》
山上博信「フィリピン日系人の移動と身分証明」
研究打ち合わせ
研究成果

初年度は、2回研究会を開催した。

まず、第1回目の研究会では、本共同研究会の研究目的、研究方法、そして、それぞれの共同研究員の研究テーマについて意見交換を行い、問題意識を共有するよう努めた。なお、明石氏による「日本の入国管理と在留管理、その系譜と展望」という研究報告では、2012年7月9日に新しく変わる在留管理制度に着目し議論を行った。新しい在留管理制度にともない、これまで外国人の身分証明として使われてきた「外国人登録証」が廃止され、代わって「在留カード」が新たに導入される。在留資格の無い人びと、なかでも無国籍の人々は、この制度の導入に伴い、これまで所持していた「在留資格なし」と明記されていたにもかかわらず身分証明として機能していた「外国人登録証」が使えなくなり、身分証明書のない生活を強いられることが明らかとなった。

第2回目の研究会は、国立歴史民俗博物館で開催した。松田氏の発表からは、かつて生業を行う際、新天地において偽文書が有効性を有していたことが報告された。また、陳はゴラン高原のフィールドワークから明らかとなった現地の無国籍者発生の原因、無国籍者の身分証と越境の際の特別措置などについて報告を行った。山上氏は、フィリピンに残留した日系人が、戦後60年経て沖縄・奄美にいる家族を探しあて、無事就籍手続きと家族訪問を果たしたケースについて報告を行った。

本年度の研究会では、身分証明の有無が、人びとの生活に大きな影響を及ぼすことが確認された。さらに、偽文書、もしくは合法でないことを示す身分証であっても、生活において一定の有効な機能を有していることが明らかとなった。