国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

驚異と怪異――想像界の比較研究

研究期間:2015.10-2019.3 代表者 山中由里子

研究プロジェクト一覧

「驚異と怪異――想像界の比較研究」 https://www.r.minpaku.ac.jp/ajaba/

キーワード

驚異、怪異、想像界

目的

ツヴェタン・トドロフが『幻想文学論序説』(1970)で定義したように、「驚異」marvelous や「怪異」uncannyは、自然界には存在しえない現象を描いた幻想文学、いわゆるファンタジーの部類に入るとみなされる。近代的な理性の発展とともに、科学的に証明のできない「超常現象」や「未確認生物」はオカルトの範疇に閉じ込められてきた。しかし近世以前、ヨーロッパや中東においては、犬頭人、一角獣といった不可思議ではあるがこの世のどこかに実際に存在するかもしれない「驚異」は、空想として否定されるべきではない自然誌の知識の一部として語られた。また、東アジアにおいては、実際に体験された奇怪な現象や異様な物体を説明しようとする心の動きが、「怪異」を生み出した。
本研究会では「驚異」と「怪異」をキーワードに、異境・異界をめぐる人間の心理と想像力の働き、言説と視覚表象物の関係、心象地理の変遷などを比較検討する。その成果は、当館における特別展示のかたちで公開することを予定している。

2017年度

本研究は「驚異」あるいは「怪異」を狭い定義の枠組みの中に固定しようというものではない。「不思議」、「稀」、「奇跡」、「魔術・妖術」といった隣接概念との関係性も明らかにしながら、語彙の変遷を時代ごとに一次資料に沿って確認し、研究会で報告・討議をし、共通理解の基盤を築く。その上で、驚異や怪異として語られ、描かれるモチーフの類似性や相違性を議論する。
今年度は、特別講師を招き、自然観・自然思想と怪異・驚異・奇跡・神の関係性について検討する。特に、生態系と驚異・怪異をめぐる想像世界の連関について議論する。東京大学総合博物館での開催を予定しており、同館の展示物・展示手法を参照しながら、驚異・怪異の物質的側面について考察する。また、異形・異類に加え、「異音」もテーマとして採りあげ、音と異界の関係について検証する。

【館内研究員】 菅瀬晶子、吉田憲司
【館外研究員】 榎村寛之、大沼由布、香川雅信、金沢百枝、木場貴俊、黒川正剛、小林一枝、小松和彦、小宮正安、佐々木聡、寺田鮎美、林則仁、松浦史子、松田隆美、宮下遼、安井眞奈美
研究会
2017年7月8日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
黒川正剛(太成学院大学)「西欧近世における魔女の身体・怪物の身体」
安井眞奈美(国際日本文化研究センター)「身体の妖怪画――エロスと医学と美術の狭間」
総合討論
2017年7月9日(日)10:00~14:00(国立民族学博物館 大演習室)
林則仁(龍谷大学)「イスラーム世界の博物誌からみる異形の身体 」
野元晋(慶應義塾大学)「自然からの救済、自然による救済、そして自然の救済?――シーア諸派の哲学思想の宇宙論と救済思想から――ジャービル・イブン・ハイヤーン、そして初期イスマール派の思想家たち 」
総合討論
2017年11月2日(木)15:00~17:00(慶應義塾大学)
荒俣宏旧蔵博物誌コレクション等 貴重書室所蔵資料閲覧
打ち合わせ
2017年11月3日(金・祝)10:00~18:00(慶應義塾大学)
山中由里子(国立民族学博物館)シンポジウム「驚異と怪異の場――<自然>の内と外」趣旨説明 
松田隆美(慶應義塾大学)ヨーロッパ中世の驚異の「場」――中世後期のナラティブ文学を中心に
榎村寛之(斎宮歴史博物館)古代都市と妖かし~平安京で怪異が起こる場所~
山内志朗(慶應義塾大学)修験道と即身仏(ミイラ)信仰について
菅瀬晶子(国立民族学博物館)一神教における怪異の語りと場――パレスチナ・イスラエルの事例から
粂川麻里生(慶應義塾大学)「古典的ワルプルギスの夜」における異界像とゲーテの自然研究
Sara Kuehn (ウィーン大学、国立民族学博物館外国人客員研究員)A Dervish with a Thousand and One Signs: Para-nomian and Supra-nomian Embodiments of the ‘Fools for God’
山中由里子(国立民族学博物館)まとめ

2016年度

本研究は「驚異」あるいは「怪異」を狭い定義の枠組みの中に固定しようというものではない。「不思議」、「稀」、「奇跡」、「魔術・妖術」といった隣接概念との関係性も明らかにしながら、語彙の変遷を時代ごとに一次資料に沿って確認し、研究会で報告・討議をし、共通理解の基盤を築く。その上で、驚異や怪異として語られ、描かれるモチーフの類似性や相違性を議論する。
8月の会では、一日目にみんぱくで人魚をテーマとする研究発表と討論をし、二日目は兵庫県立歴史博物館で開催中の特別展「立体妖怪図鑑」を視察し、香川氏の発表を聞いた上で、娯楽としての驚異・怪異について協議する。

【館内研究員】 菅瀬晶子、吉田憲司
【館外研究員】 榎村寛之、大沼由布、香川雅信、金沢百枝、黒川正剛、小林一枝、小松和彦、小宮正安、佐々木聡、寺田鮎美、林則仁、松浦史子、松田隆美、宮下遼、安井眞奈美
研究会
2016年8月27日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
佐々木聡(大阪府立大学)「中国の〈人魚〉をめぐる怪異表象――祥瑞災異思想の観点から」
山中由里子(国立民族学博物館)「驚異と怪異の接点としての人魚」
総合討論
2016年8月28日(日)10:30~17:00(兵庫県立歴史博物館)
特別展「立体妖怪図鑑-妖怪天国ニッポンpartⅡ-」資料閲覧
れきはくアカデミー「妖怪としての人形」(香川雅信)講演聴講
ディスカッション
2016年12月3日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
木場貴俊(神戸女学院大学)「近世日本の『怪異』の見方―自然観との関わりから」
山中由里子(国立民族学博物館)「『心の進化』から驚異・怪異を考える―人類の自然理解に関する認知科学的研究の紹介」
総合討論
2016年12月4日(日)10:00~17:00(国立民族学博物館 大演習室)
みんぱくの幻獣探訪(本館展示場において幻獣資料を各自調査)
小林一枝(早稲田大学)「イスラーム美術における星座と蝕の表象―その形成に関する一考察」
松浦史子(二松学舎大学)「東アジアに於ける異形の表象と政治・文化―獣頭の鳳凰について」代読:佐々木聡(大阪府立大学)
金沢百枝(東海大学)「ヨーロッパの海獣イメージと想像力―なぜ海獣は海図に描かれたのか 人魚とケートスを例に挙げて」
総合討論

2015年度

「驚異」と「怪異」に関する先行研究の成果を確認し、これまでそれぞれがどのような概念として捉えられてきた、どのようなコーパスを扱ってきたか情報共有した上で、「驚異」と「怪異」を対照するためのテーマやモチーフをいくつか探り、東西という「水平」の比較だけでなく、それぞれの背景にある宗教感・世界像の変化を歴史的に追うという「垂直」の比較も行う。
本研究は「驚異」あるいは「怪異」を狭い定義の枠組みの中に固定しようというものではない。「不思議」、「稀」、「奇跡」、「魔術・妖術」といった隣接概念との関係性も明らかにしながら、語彙の変遷を時代ごとに一次資料に沿って確認し、研究会で報告・討議をし、共通理解の基盤を築く。その上で、驚異や怪異として語られ、描かれるモチーフの類似性や相違性を議論する。例えば「人魚」(幻獣)、「犬頭族/犬戎」(異形の民族)、あるいは「彗星」(天変地異)といったような東西の共通項となり得るモチーフが議論の糸口として想定される。
毎回の研究会ごとに下記のようなテーマ設定を行い、議論に方向性を与える。
a)「驚異・怪異のトポグラフィー」:驚異や怪異はどのような「場」や「時」に現れるか
b)「言説と視覚表象」:言説が視覚化される過程、逆に実体験からイメージが形成され、膨張・伝播してゆく過程
c)「驚異・怪異と身体」:異なるものに対する身体感覚、異形の構造(特定の身体部位の誇張や欠如)、出産・病・死をとりまく驚異・怪異
d)「驚異・怪異と神・自然」:宇宙観の比較、信仰との関係、異境・異界に関する知識の権威
このように構造的な類似や相違を明らかにするだけでなく、歴史的な文脈も考慮し、実際の人や物の移動に伴う知識や図像の伝播も明らかにしようとする。

【館内研究員】 菅瀬晶子、吉田憲司
【館外研究員】 榎村寛之、大沼由布、香川雅信、金沢百枝、黒川正剛、小林一枝、小松和彦、小宮正安、佐々木聡、寺田鮎美、林則仁、松浦史子、松田隆美、安井眞奈美
研究会
2016年1月11日(月)14:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
山中由里子(民博)・趣旨説明
黒川正剛(太成学院大学)「驚異研究から見た怪異――『妖怪学の基礎知識』と『怪異学入門』に基づく問題提起」
全員・全体討論
2016年2月7日(日)14:00~18:00(国立民族学博物館 大演習室)
榎村寛之(三重県立斎宮歴史博物館)「怪異学から見た驚異――『<驚異>の文化史―中東とヨーロッパを中心に』に基づく問題提起」
香川雅信(兵庫県立歴史博物館)「妖怪研究と驚異研究の接点を探る」(仮題)
全員・全体討論