国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

人類学/民俗学の学知と国民国家の関係――20世紀前半のナショナリズムとインテリジェンス

研究期間:2017.10-2021.3 代表者 中生勝美

研究プロジェクト一覧

キーワード

人類学史、ナショナリズム、インテリジェンス

目的

日本の人類学は、欧米の理論を導入して移植して学知として定着していった一方で、植民地経営への応用、ナショナリズムの勃興と民族意識の高揚、戦闘地域での情報活動など、人類学を取り巻く国内外の政治的状況で展開、発展してきたのは、欧米と同じである。そこで、単に学術活動や理論の受容を祖述するだけではなく、人類学/民俗学を取り巻く社会的状況を踏まえ、隣接諸領域を視野に含めた歴史の再構築をすることで、人類学の果たした社会的役割を明確にすることが、この研究の目的である。具体的にこの研究では、1920年代から40年代にかけての戦間期における欧米と日本の人類学/民俗学を比較対照することで、日本への影響のルーツを探り、学知として成立する人類学/民俗学を歴史のコンテキストで理解する基礎研究を目指したい。

2019年度

本年度は、論文集をまとめる方向で、個人発表をしていないメンバーの発表と、原稿のできたメンバーの報告にあてていく。特に前年度、東京の国立国語研究所で開催した研究会で、加藤哲郎一橋大学名誉教授から、戦中から戦後にかけての社会科学の研究史のながれで、インテリジェンスの位置づけ、および人文科学の中での人類学の位置づけについて重要な示唆をもらった。本年度も、外部からの講師を招き、発表と同時に、共同研究員の発表にコメントをもらう形で論文集に向けての作業を行いたい。さらに、この研究会のメンバーで科研Bを申請して採択されたので、海外のアーカイブをつかった、オリジナリティの高い人類学史の研究ができる。本年度も、英語圏以外での人類学史の研究動向を収集し、戦間期の人類学史として、人類学と政治、軍事との関係の観点から人類学史の研究を続けていく。

【館内研究員】 飯田卓、宇田川妙子
【館外研究員】 飯嶋秀治、池田光穂、臼杵陽、江川純一、及川祥平、加賀谷真梨、栗本英世、佐藤若菜、角南聡一郎、泉水英計、田中雅一、Damien KUNIK、山田仁史
研究会
2019年4月21日(日)10:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
中生勝美(桜美林大学)事務連絡
各自の研究進捗状況1
各自の研究進捗状況2
中生勝美(桜美林大学)「松島泰勝『琉球 奪われた骨:遺骨に刻まれた植民地主義』の書評」
泉水英計(神奈川大学)「琉球列島米民政府の宣伝番組――社会保障および医療を中心に」
2019年12月24日(火)10:00~17:30(国立民族学博物館 第1演習室)
中生勝美(桜美林大学)「研究会経過報告」
参加者の今年度の研究成果報告(1人20~30分)
栗本英世(大阪大学)「エヴァンズ=プリチャードの軍役経験--軍将校としての人類学者を考える 」
総合討論、今後の研究会の打ち合わせ

2018年度

本年度は、前年度の個人発表をしていないメンバーの個別発表とともに、それぞれの分野でのナショナリズムとインテリジェンスに関連する新しい研究の動向を紹介することで、新しい研究動向の共有化を目指したい。そのうえで、前年での研究会での討論をふまえて、ナショナリズムとインテリジェンス関連の歴史学、国際関係論の専門家によるゲストスピーチによる周辺分野の研究動向を把握するための基礎的な知識の構築を目指したい。また、本年度は、日本文化人類学会でナショナリズムとインテリジェンスの人類学に関して報告をするので、できれば人類学史に関心を寄せる若手の発掘を目指し、研究会への聴講と関心の喚起をすることで、文化人類学会のなかで人類学史の研究分野を確立したいと考えている。

【館内研究員】 飯田卓、宇田川妙子
【館外研究員】 飯嶋秀治、池田光穂、臼杵陽、江川純一、及川祥平、加賀谷真梨、栗本英世、佐藤若菜、角南聡一郎、泉水英計、田中雅一、Damien KUNIK、山田仁史
研究会
2018年5月12日(土)10:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
中生勝美(桜美林大学)研究会経過報告
今年度の研究、全体打合せ
新メンバーの研究計画報告 佐藤若菜(新潟大学)・ Damien KUNIK(国立民族学博物館)
及川祥平(川村学園女子大学)「偉人崇拝と民俗学」
角南聡一郎(元興寺文化財研究所)「寺院と戦争(金属供出など)」
2018年12月27日(木)10:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
中生勝美(桜美林大学)研究会経過報告
佐藤若菜(新潟国際情報大学)「中国民族学界における鳥居龍蔵の調査・研究への評価」
飯田卓(国立民族学博物館)「学会から協会へ――日本民族学会設立後の10年、あるいは時局便乗とフィランソロピー」
田中雅一(京都大学)「天気図に想像された共同体」
2019年1月26日(土)10:00~18:00(国立民族学博物館 大会議室)
国立国語研究所図書館で九学連合会の資料閲覧
中生勝美(桜美林大学)「アメリカ・ミシガン大学の日本研究と原子力平和利用の関連」
朝日祥之(国立国語研究所)「アメリカWar Departmentの作成した語学教材」
谷口陽子(専修大学)「ミシガン大学岡山分室の写真情報」
泉水英計(神奈川大学)「戦時中の民政ハンドブック」
加藤哲郎(一橋大学)総合コメント
2019年2月18日(月)10:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
中生勝美(桜美林大学)事務連絡
池田光穂(大阪大学)「ナチス医学関係者の戦争犯罪と戦後の科学研究の継続性について」
山田仁史(東北大学)「ドイツ語圏民族学史における国家社会主義:研究動向のレビュー」
加賀谷真梨(新潟大学)「フェミニズム民俗学への布石―瀬川清子論を読む」
総合討論
研究成果

本年度は、共同研究員の発表をほぼ終えた。今年度は、従来の研究成果に、共同研究会の趣旨である戦間期の政治状況と人類学/民俗学を歴史の文脈から学知の歴史を再構築する目的で報告してもらった。特に第3回の国立国語研究所で開催した共同研究会では、加藤哲郎一橋大学名誉教授に総合コメントを依頼し、政治史・現代史の観点から、戦前・戦後の歴史の流れと学知の形成について有益なコメントをもらい、出席者は大変刺激を受けた。またこの研究会で、社会言語学の分野からも、戦時期の分析には新しい研究動向を知ることができた。今年度の収穫は、この研究会のメンバーを中心に科研基盤B「ファシズム期における日独伊のナショナリズムとインテリジェンスに関する人類学史」に応募し採択されたので、今後の海外のアーカイブ調査が可能になった。この採択に当たり、本研究会での定期的な共同研究と、国立民族学博物館の図書館利用が大変役に立った。

2017年度

代表者は、1930年代から1970年代頃まで日本の文化人類学を先導した岡正雄がファシズム期にドイツと日本を結ぶ人物である点に着目し、彼が戦時中に創設と運営に尽力した民族研究所のモデルとしてナチス親衛隊のシンクタンクであるアーネンエルベ(Ahnenerbe)にあるのではないかと考えた。これは、社会科学と自然科学の研究部門で、ドイツ文化、言語、信仰、歴史法学のほかに、ドイツ民族研究及び民族学、民話、伝説及び神話、遺跡研究、古代史、中央アジア及び探検などの研究史、ドイツの占領地での考古学発掘や、チベット遠征隊などを組織していた。そこで日本とドイツに限らず、ひろく戦時中の民俗学と民族学が果たした各国の状況を比較検討しようと考えた。
特にナショナリズムと民俗学のテーマで、ファシズムの象徴である日本・ドイツ・イタリアを基軸にとり、それぞれの国家の戦間期におけるナショナリズムの政治運動と民俗学の関係を掘り下げていきたい。その話題提供として、江川純一氏にイタリア宗教学とファシズムの関係を報告してもらう。特に日独伊三国同盟締結後に、その文化交流の一環として日独伊の英雄伝説の比較研究プロジェクトを紹介してもらい、日独伊での相互の影響を考えるきっかけを提起してもらう。それに続き、ナチズムとフォルクスクンデ、戦間期のウィーン学派の対応、日本民俗学の影響等をテーマに発表してもらう(山田・池田・宇田川)。
次にインテリジェンスの人類学の関係では、第二次世界大戦中に北アフリカでエチオピアのイタリア戦線でイギリス軍の活動したエヴァンズ=プリチャード、エリトリアの行政長官を務めたナディールの事例(栗本)、インパール作戦でカチン族のゲリラ戦線を指揮したリーチ、同じくナガ族クィーンと呼ばれたウイスラー(Ursula Graham Bower)などのイギリス人類学者の活動、および戦争博物館(田中)、そして太平洋のニューギニア戦やOSS(Office of Strategic Service、CIAの前身)で動員されたアメリカの人類学者(ミード、ベイトソン)について、対日戦略の活動と、その後の人類学理論の構築に、どのような有機的連続性があったのかを発表してもらう(飯島・泉水)。

【館内研究員】 飯田卓、宇田川妙子
【館外研究員】 飯嶋秀治、池田光穂、臼杵陽、江川純一、及川祥平、加賀谷真梨、栗本英世、角南聡一郎、泉水英計、田中雅一、山田仁史
研究会
2017年10月28日(土)10:00~17:30(国立民族学博物館 第1演習室)
中生勝美(桜美林大学)研究会の趣旨説明、人類学史研究の枠組みに関する試論、質疑応答
江川純一(東京大学)「ファシズム期イタリアにおける宗教史学・人類学・民俗学」
出席者の研究計画(出席者全員)
中生勝美著『近代日本の人類学史』合評会(出席者全員)
2017年12月16日(土)10:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
中生勝美 研究会経過報告
中生勝美「ミシガン大学の戦中・戦後の日本研究」
前回欠席者(加賀谷・山田・臼杵)の研究計画報告
飯嶋秀治 「Gregory Bateson(1904-1980)の学知と国民国家の関係――20世紀前半のナショナリズムとインテリジェンス」
臼杵陽「ドイツ・ナチ党によるアラブ世界での情宣活動」
2018年2月1日(木)10:00~18:00(神奈川大学国際常民文化研究所)
中生勝美(桜美林大学)「神奈川大学国際常民機構寄託の民族学協会資料の内容と研究状況」
上記資料の内容に関する意見交換および論点整理
泉水英計(神奈川大学)「米軍の琉球列島学術調査に何をみるべきか――諜報と情報宣伝から民族誌的比較へ」
Damien KUNIK(国立民族学博物館)「A brief history of French anthropology: Romanticism, Nationalism, Colonialism, Universalism」
研究成果

初年度の研究会は、各自の研究テーマの紹介と、この研究会で報告し、執筆する論文の構想を発表した。そのうえで、研究代表者の著書を合評して、人類学史の政治性を議論した。江川のイタリア人類学史は、あまり知られていないイタリアの研究状況を概括する刺激的発表だった。飯嶋のベイトソン研究も、これまでの研究状況をふまえたうえで、新しいベイトソン像を模索する意欲的報告だった。臼杵は、アラビア語資料でのナチス研究という新しい視点での報告だった。神奈川大学国際常民文化研究所での研究会は、当該研究所が保管する民族学振興会資料を閲覧し、今後の人類学史の研究に不可欠であることを確認した。泉水の報告では、戦後のアメリカによる系統的な沖縄調査を通じて、沖縄統治と人類学調査の関係を明らかにした。Damien KUNIKは、フランスの人類学史の研究動向を報告してもらった。初年度の研究会で、新しい研究動向や、異なった視点での研究成果を吸収できた。