国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

人類学/民俗学の学知と国民国家の関係――20世紀前半のナショナリズムとインテリジェンス

研究期間:2017.10-2021.3 代表者 中生勝美

研究プロジェクト一覧

キーワード

人類学史、ナショナリズム、インテリジェンス

目的

日本の人類学は、欧米の理論を導入して移植して学知として定着していった一方で、植民地経営への応用、ナショナリズムの勃興と民族意識の高揚、戦闘地域での情報活動など、人類学を取り巻く国内外の政治的状況で展開、発展してきたのは、欧米と同じである。そこで、単に学術活動や理論の受容を祖述するだけではなく、人類学/民俗学を取り巻く社会的状況を踏まえ、隣接諸領域を視野に含めた歴史の再構築をすることで、人類学の果たした社会的役割を明確にすることが、この研究の目的である。具体的にこの研究では、1920年代から40年代にかけての戦間期における欧米と日本の人類学/民俗学を比較対照することで、日本への影響のルーツを探り、学知として成立する人類学/民俗学を歴史のコンテキストで理解する基礎研究を目指したい。

2017年度

代表者は、1930年代から1970年代頃まで日本の文化人類学を先導した岡正雄がファシズム期にドイツと日本を結ぶ人物である点に着目し、彼が戦時中に創設と運営に尽力した民族研究所のモデルとしてナチス親衛隊のシンクタンクであるアーネンエルベ(Ahnenerbe)にあるのではないかと考えた。これは、社会科学と自然科学の研究部門で、ドイツ文化、言語、信仰、歴史法学のほかに、ドイツ民族研究及び民族学、民話、伝説及び神話、遺跡研究、古代史、中央アジア及び探検などの研究史、ドイツの占領地での考古学発掘や、チベット遠征隊などを組織していた。そこで日本とドイツに限らず、ひろく戦時中の民俗学と民族学が果たした各国の状況を比較検討しようと考えた。
特にナショナリズムと民俗学のテーマで、ファシズムの象徴である日本・ドイツ・イタリアを基軸にとり、それぞれの国家の戦間期におけるナショナリズムの政治運動と民俗学の関係を掘り下げていきたい。その話題提供として、江川純一氏にイタリア宗教学とファシズムの関係を報告してもらう。特に日独伊三国同盟締結後に、その文化交流の一環として日独伊の英雄伝説の比較研究プロジェクトを紹介してもらい、日独伊での相互の影響を考えるきっかけを提起してもらう。それに続き、ナチズムとフォルクスクンデ、戦間期のウィーン学派の対応、日本民俗学の影響等をテーマに発表してもらう(山田・池田・宇田川)。
次にインテリジェンスの人類学の関係では、第二次世界大戦中に北アフリカでエチオピアのイタリア戦線でイギリス軍の活動したエヴァンズ=プリチャード、エリトリアの行政長官を務めたナディールの事例(栗本)、インパール作戦でカチン族のゲリラ戦線を指揮したリーチ、同じくナガ族クィーンと呼ばれたウイスラー(Ursula Graham Bower)などのイギリス人類学者の活動、および戦争博物館(田中)、そして太平洋のニューギニア戦やOSS(Office of Strategic Service、CIAの前身)で動員されたアメリカの人類学者(ミード、ベイトソン)について、対日戦略の活動と、その後の人類学理論の構築に、どのような有機的連続性があったのかを発表してもらう(飯島・泉水)。

【館内研究員】 飯田卓、宇田川妙子
【館外研究員】 飯嶋秀治、池田光穂、臼杵陽、江川純一、及川祥平、加賀谷真梨、栗本英世、角南聡一郎、泉水英計、田中雅一、山田仁史
研究会
2017年10月28日(土)10:00~17:30(国立民族学博物館 第1演習室)
中生勝美(桜美林大学)研究会の趣旨説明、人類学史研究の枠組みに関する試論、質疑応答
江川純一(東京大学)「ファシズム期イタリアにおける宗教史学・人類学・民俗学」
出席者の研究計画(出席者全員)
中生勝美著『近代日本の人類学史』合評会(出席者全員)
2017年12月16日(土)10:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
中生勝美 研究会経過報告
中生勝美「ミシガン大学の戦中・戦後の日本研究」
前回欠席者(加賀谷・山田・臼杵)の研究計画報告
飯嶋秀治 「Gregory Bateson(1904-1980)の学知と国民国家の関係――20世紀前半のナショナリズムとインテリジェンス」
臼杵陽「ドイツ・ナチ党によるアラブ世界での情宣活動」