国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

文化人類学を自然化する

研究期間:2017.10-2021.3 代表者 中川敏

研究プロジェクト一覧

キーワード

自然主義、科学、心理学

目的

文化人類学を自然科学の一部とすることを最終目標として、そのための方法を模索する。自然科学を人類学の研究対象にするのではない。人類学を他の自然科学(とりわけ心理学と生物学)と横にならぶ自然科学の一つの部門として成立させるのである。具体的には、人類学独自のことば遣いを自然科学のある部門の言葉へと翻訳する可能性を考えることから始める。すなわち還元がその方法論である。還元先の部門としては、とりあえず、心理学(認知心理学、社会心理学)そして生物学(進化生物学、疫学)を考えている。また積極的に自然化を推し進めている一部の哲学にも範を求めたい。消極的には「人類学の解消」に繋る動きととらえることもできようが、わたしは、より積極的に、文化人類学の自然化は自然科学というものを変化・発展させる契機になり得ると信じている。

2019年度

前年度第4回に特別講師として内堀、菅原をコメンテーターとして招いた。本年度第1回は両名に本研究会のコンテキスト(自然化)にのっとって、 それぞれの人類学の歩みを位置付けてもらう。この回で研究会の第一フェーズを終了する。第2フェーズでは研究会の収斂の道をはかりたい。本年度第2回の発表は自然化の「推進派」である浜本・中川・中村が行なう。それぞれが人類学の自然化については深く思索をはかってきた人類学者である。この回において、 以降の研究会の指針について討議を行ないたい。第3回目は生態人類学者(高田・飯田)と霊長類学者(山田)による発表である。彼らは「自然化」に近いスタンスの既存の領域で活躍してきた。それらの領域と「自然化」との間にどのように歩み寄りが可能であるか、 その道筋をさぐっていきたい。第4回は(申請書において)「懐疑派」と名付けた人類学者たち(中空・中川(理)・松尾)が発表する。彼らの立ち位置である ANT が進化論的であるというのが「推進派」の主張であるが、 その主張に基いてANT の徹底的な自然化が可能なのかについて議論を深めていきたい。

【館内研究員】 飯田卓、松尾瑞穂
【館外研究員】 唐沢かおり、高田明、戸田山和久、中川理、中空萌、中村潔、浜本満、山田一憲
研究会
2019年6月8日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
菅原和孝(京都大学)「自然誌的態度にとって種とは何か?――分類・本質主義批判・身体化――」
全体討論
内堀基光(一橋大学)「カミソリと鉈、斧のあいだ:文化の細部の説明をどれだけ自然化するか、自然化できるのか」
全体討論
2019年9月28日(土)9:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
中川敏(大阪大学)「人類学を自然化するいつかの方法:研究会の前半を終えて」
全体討論
中村潔(新潟大学)「社会的諸力とは」
全体討論
浜本満(九州大学)「シンボル記号の条件:類人猿の言語習 得実験についてのど素人的考察」
全体討論
2019年11月24日(日)13:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
高田明(京都大学)「言語の自然化:サンの養育者=幼児間相互行為の分析から」
全体討論
山田一憲(大阪大学)「授乳をめぐるニホンザルの母子相互交渉」
全体討論

2018年度

本年度第1回(通算3回目)の研究会は浜本・中村が発表する。近年、浜本はプラグマティズムを、中村は機能主義の再考について考察をすすめている。二人には人類学の自然化への道筋、とりわけ進化論的な道筋を示してくれることを期待している。2回目・3回目で近年の人類学的動向に詳しい人類学者(中川(理)・中空・松尾)による、これまでの自然化議論をふまえた上での(各自の立場からの)発表をお願いする。「ANT は進化論であるか」ということをテーマに3人には発表してもらう予定である。3回目・4回目では非人類学者(山田・唐沢・戸田山)による発表をお願いする。山田の発表では、霊長類学と生態学的人類学の相似と相違について、唐沢(社会心理学)の発表では「科学的」ということについてテーマとしてもらう予定である。戸田山は、この研究会が範としている「哲学の自然化」の旗手である。これまでの議論を哲学の立場から総括するような発表を期待している。4回目にはゲスト講師として菅原・内堀を呼び、「人類学の自然化」について各々の立場からの話を聞く。

【館内研究員】 飯田卓、松尾瑞穂
【館外研究員】 唐沢かおり、高田明、戸田山和久、中川理、中空萌、中村潔、浜本満、山田一憲
研究会
2018年5月12日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
中村潔(新潟大学)「力のメタファー」
全員 ディスカッション
浜本満(九州大学)「信念とはなにか」
全員 ディスカッション
2018年7月22日(日)13:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
中空萌(広島大学)「近年の人類学的知識論の展開と自然主義」
ディスカッション
中川理(立教大学)「生き方の持続を可能にするもの――フランスのモン農民の事例から」
ディスカッション
2018年10月27日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
松尾瑞穂(国立民族学博物館)「科学と歴史のもつれあい――インドのアーリア人論争」
全員によるディスカッション
山田一憲(大阪大学)「ニホンザルの寛容性にみられる地域間変異」
全員によるディスカッション
2019年2月23日(土)13:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
唐沢かおり(東京大学)「I was born to be science ―― With every single beat of my heart」
菅原和孝「科学としての社会心理学、科学としての人類学」
戸田山和久(名古屋大学)「君の行く道は果てしなく遠い。だのになぜ歯をくいしばり、君は自然化するのか。そんなにしてまで。」
内堀基光「哲学を自然化する、人類学を自然化する」
全員 綜合ディスカッション
研究成果

初年度および昨年度を終了した時点で全員が発表し終えることができた。発表、およびディスカッションを通じて、 この研究会の目的である「人類学の自然化」が何を指すのかが、 参加者全員によって共有されるようになった。大ざっぱにいって、 人類学の自然化には2つの方向 ---すなわちプラグマティズム的回転と生物学的回転 -- があるという認識が共有された。昨年度の最終回の(プラグマティズムの方向をもつ)社会心理学者唐沢の発表および(生物学の方向をもつ)哲学者戸田山の発表にさいしては、 人類学者から多くの質問があった。今年度の最初の研究会では古典的な意味での自然化に貢献してきた二人の人類学者内堀および菅原に発表をお願いしている。そうすることによって、 「自然化」と人類学の伝統との接木の作業を行ないたい。その後は各人に(これまでの議論を踏まえた)二回目の発表をしてもらい、 「人類学の自然化」の青写真を完成させたい。

2017年度

初年度(平成29年度)に2回、第二年度(平成30年度)と第三年度(平成31年度)にそれぞれ4回、最終年度(平成32年度)には2回の計12回の実施を予定している。
本研究の一つの特色はメンバーの多様性である。グループは大きく人類学者とそれ以外のメンバー(「コンサルタント」と呼ぼう)に分かれる。人類学者としても、自然化に積極的なメンバー(「賛成派」)だけでなく、自然化に「興味がある」だけのメンバー(「懐疑派」)の参加もお願いした。最初の5回(H29年度から平成30年度)は、この役割分担(コンサルタント、賛成派、懐疑派)を維持しながら進行させる予定である。初回、組織者である中川が趣旨説明を行ない、その発表に対して賛成派およびコンサルタントが、それぞれの立場から補足をする。第2回、3回は賛成派の人類学者による個別発表(妖術と進化論、儀礼と機能主義、漁業とゲーム理論など)を行う。

【館内研究員】 飯田卓
【館外研究員】 唐沢かおり、高田明、戸田山和久、中川理、中空萌、中村潔、浜本満、山田一憲
研究会
2017年10月15日(日)13:00~18:00(国立民族学博物館 第2演習室)
中川敏(大阪大学)「文化人類学を自然化するとはどのようなことか――趣旨説明」
全員討議
中川敏(大阪大学)「模型の人類学――恣意性と類似性」
全員討議
2018年1月21日(日)13:00~18:00(国立民族学博物館 第4演習室)
飯田卓(国立民族学博物館)「自然化をめぐるいくつかの話題」
ディスカッション
高田明(京都大学)「子育ての自然誌再考――南部アフリカのサンにおける養育者-乳幼児間相互行為の分析から」
ディスカッション
研究成果

第一回目の研究会において主催者の中川が、主旨説明をした。この研究会は人類学者だけでなく、その他の学問領域を専攻とする人たち、哲学者・社会心理学者・霊長類学者もメンバーとなっている。この発表によって、じっさいの作業における個々の役割分担の理解が得られた。続けて中川が自然化された人類学の具体例を発表した。活発な質疑応答があり、研究会の目的に向かって確固とした第一歩を踏み出すことができた。
当研究会が範とすべき学的潮流はさまざまである。その内で最も重要な流れが京都大学の自然科学と親和的な人類学である。第二回目の研究会は京都大学出身の二人の人類学者(飯田と高田)による発表である。飯田は生態人類学と「人類学の自然化」の関係について議論した。高田は具体的な民族誌を通しての、コミュニケーションの発生を分析した。二つの発表を通して活発な議論がされ、人類学者・非人類学者の間の共通の議論の基盤が成立しつつあることを、確信した。