国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

グローバル時代における「寛容性/非寛容性」をめぐるナラティヴ・ポリティクス

研究期間:2018.10-2022.3 代表者 山泰幸

研究プロジェクト一覧

キーワード

寛容性、ナラティヴ、異人

目的

急激にグローバル化が進展し、人間の移動が激しさを増すとともに、多文化的状況が今後さらに進展することが予想される。西欧の列強と呼ばれた国々では、かつての植民地から大量の移民が流れ込み、ある意味では予想外の、だが、ある意味では、必然の結果とも言うべき、皮肉な現象が起きている。こうした地球規模の社会環境の変容に加えて、従来の口承性や書承性を超越するメディア環境の変容の影響下で、文化的他者認識としての「異人」を迎える側の経験は、その質と量において、かつての「異人論」が想定していた状況とは比べものにならない規模となっている。さらに、この大量移動の時代は、程度の差こそあれ、誰もが自らも異人となる経験を持つことが当たりとなっている。問題は、こうした状況において、大小さまざまなコンフリクトが発生し、「不寛容」社会が出現しつつある点である。
本研究では、こうした状況を解明し、これに応答するために手がかりとするのが、「異人論」である。文化人類学及び民俗学の学問的伝統においては、外部から訪れる他者、すなわち「異人」に対する歓待や排除、蔑視あるいは畏怖や憧れなどの観念や行動をめぐって、「異人論」と称される研究の蓄積がある。本研究では、「異人論」という視点や方法を再考し、鍛えなおすことで、人文科学の立場から現代的問題の解決の糸口を探ることを目的とする。

2019年度

2019年度は、異人論を構成する基本概念である「異人」、「異類」、「他者」などをめぐり、これらに関連する説話・民話を取り上げて、それらの物語が語られている社会状況を視野に入れて、各地の文化人類学的・民俗学的研究調査の成果と関連づけながら検討していく。「異人」をめぐる排除、あるいは歓待や包摂をめぐる物語の構造・論理を析出し、さらにそれを支える社会的状況に着目しながら検討を加えていくことは、説話・民話などの物語のテキスト内部の分析に終始することなく、つねに社会との関わりのなかで、物語を捉えていくという本研究の基本的な立場であり、研究メンバーに共通の認識として周知していく。持ち回りで、各メンバーの調査研究対象である事例の発表、あるいは異人論に関連する理論に関する発表を順次に行い、全員が検討を加える。従来的な説話・民話にとどまらず、新たなメディア環境・物語表現のなかでの異人をめぐる表象や、大量の難民や移民と受け入れ先の社会との間で発生している現代的な「異人問題」との関係性も視野に入れていく。

【館内研究員】 西尾哲夫、韓敏、河合尚洋
【館外研究員】 鵜野祐介、及川祥平、小川伸彦、カルディルチャーナ、川島秀一、川松あかり、君野隆久、國弘暁子、小松和彦、竹原新、村井まや子、横道誠、岩本通弥、小長谷有紀
研究会
2019年6月8日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
郭莉萍(北京大学)「中国におけるナラティブ・メディスン研究」
関谷雄一(東京大学)「震災復興の公共人類学――災害と向き合う協働研究」
2019年6月9日(日)9:00~13:00(国立民族学博物館 第2演習室)
川島秀一(東北大学)「『寄りもの』と災害伝承」
王鑫(北京大学)「中国の天狗伝承」
2019年11月2日(土)14:00~18:00(国立民族学博物館 第1演習室)
國弘暁子(早稲田大学)「現代インドにおける異人のゆくえ――グジャラートのヒジュラとサバルタン問題に関する考察の事例から」
岩本通弥(東京大学)「『迷惑』と非寛容――家族に異人が入ること(仮)」
2019年11月3日(日)10:00~13:00(国立民族学博物館 第1演習室)
周星(愛知大学)「異人としての留学生グループ――寛容性/非寛容性の観点から」
今後のスケジュールと進め方
2019年12月7日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第1演習室)
館内展示の見学
島村恭則(関西学院大学)「民俗学・ヴァナキュラー・ナラティヴの権利―民俗学的視角とはいかなるものか―」
Kim Jinah(Université Sorbonne Nouvelle - Paris 3)「植民地博物館から移民博物館へ――移民社会フランスの文化政策――」
2019年12月8日(日)10:00~13:00(国立民族学博物館 第1演習室)
及川祥平(成城大学)「末裔の組織における差異化と排除」(仮)
鵜野祐介(立命館大学)「在日コリアンの説話伝承とパンソリ」

2018年度

2018年度は、本共同研究が複数分野の研究者による学際的研究であるため、本研究の趣旨と基本方針を全員が確認したのち、ともすれば重要な用語・概念が分野によって異なった意味やニュアンスで用いられているため、岡正雄、山口昌男、小松和彦らの異人論にかかる研究を再検討し最新の研究動向も把握して、関連用語・概念を整理し共通認識を得る。

【館内研究員】 西尾哲夫
【館外研究員】 鵜野祐介、及川祥平、小川伸彦、カルディルチャーナ、川島秀一、川松あかり、君野隆久、國弘暁子、小松和彦、竹原新、村井まや子、横道誠
研究会
2018年11月10日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第2演習室)
山泰幸(関西学院大学)「共同研究会の趣旨説明」
参加者全員「各自の研究紹介と今後の予定について」
2018年11月11日(日)10:00~13:00(国立民族学博物館 第2演習室)
西尾哲夫(国立民族学博物館)「アラビアンナイトからシャイロック、そして異人学にむけて――女嫌い・反セム主義・イスラモフォビア」(仮)
2019年2月9日(土)13:00~17:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
西尾哲夫(国立民族学博物館)「中世から近代におけるアラブ民衆文学の中国表象――アラビアンナイト異本の比較分析から」
色音(中国社会科学院民族学與人類学研究所)「中日馬娘婚姻物語の比較的考察」
村井まや子(神奈川大学)「日本の現代美術をとおしてみる野生動物駆除の現状と民話的動物表象の変容」
杜谆(天津工业大学马克思主义学院)「作为人文资源的伏羲神话」
2019年2月10日(日)10:00~12:00(国立民族学博物館 第4セミナー室)
鵜野祐介(立命館大学)「説話伝承とダイバーシティ――手話による絵本よみ語りの活動を通して―」
郑筱筠(中国社会科学院世界宗教研究所)「中国における仏本生物語について」
君野隆久(京都造形芸術大学)「日本における薩埵(サッタ)王子本生譚」
研究成果

初年度の2018年度は、第1回目の研究会では、研究代表者の山から共同研究の趣旨の説明と、館内代表者の西尾から自身の研究をもとに共同研究の理論的枠組みや狙いについて報告がなされた。第2回目は、関西学院大学シルクロード研究センターと共催で、同センターが招聘した中国社会科学院民族学與人類学研究所、中国社会科学院世界宗教研究所、天津工业大学马克思主义学院の人類学者、民族学者など関連分野の研究者の参加を得て、「シルクロードと文化交流-人の移動、表象、物語-」をテーマに、国際シンポジウム形式で実施した。刺激的かつ有意義な機会となった。さらに研究交流を進めることになった。