国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

北太平洋における先住民の経済システムとその変容過程

共同研究 代表者 大塚和義

研究プロジェクト一覧

2001年度

北太平洋沿岸の先住民は、アジアと北アメリカ両大陸を結ぶ広大な地域において交易を軸に経済的な発展をとげた。その刺激は社会的な再編を引き起こし、工芸技術などの文化面を大いに洗練してきた。しかし、ラッコの毛皮を求めて東進したロシアが、ラッコ捕獲の労働者として先住民アリュートを隷属させた例にみるように、周辺国家は、著しくこの地域の先住民経済システムを破壊し、変容させた。本研究では、先住民の視点で外部からの影響を解明する。

【館内研究員】 秋道智彌、岸上伸啓、佐々木史郎、園田直子、谷本一之(客員)、吉田憲司、吉本忍
【館外研究員】 菊池勇夫、菊池徹夫、菊池俊彦、越田賢一郎、小杉康、スチュアート・ヘンリ、田島佳也、長谷部一弘、藤田明良、柳元悦
研究会
2001年9月19日~20日
全員 特別展『ラッコとビーズ玉』オープニングセレモニー出席と見学
赤沼英男「北米シトカ遺跡出土の和船用とみられる舟釘について」
大塚和義、佐々木史郎、岸上伸啓「特別展示を立ち上げて」
全員「特別展『ラッコとビーズ玉』、展示の感想と評価」
2001年12月7日
河田真「アイヌの漆器に関する調査」
2001年12月14日~15日
田中忠三郎「津軽下北のアイヌおよび北方資料について」
池谷和信「世界の先住民の交易ビーズとその意義づけ」
斎藤傑「擦文文化における交易」
全員「特別展「ラッコとガラス玉」の資料に対する検討」
谷一尚「アイヌのガラス玉について」
乾芳宏「余市町大川遺跡出土のガラス玉および外来の製品」
全員「全員討論」
2002年1月7日
真島俊一「特別展示の評価」
大塚和夫「特別展の開催について」
2002年1月13日
全員「特別展、展示見学・特別展、評価のために点検」
佐々木亨、山下治子、星川淳、久保泰、加藤博文、真島建吉「特別展の評価」
全員「全体討論(特別展の評価をめぐって)」
2002年3月6日
佐々木亨「特別展『ラッコとガラス玉』の評価について」
2002年3月9日~10日
菊池勇夫「日本近世の立場から特別展をみる」
菊池徹夫「東北地方と北海道を結ぶ交易を古代から考える」
菊池俊彦「中国資料からみた環オホーツク海交易」
越田賢一郎「特別展からみた北方の鉄製品の流通」
大塚和義「総括と研究成果の取りまとめについて」
研究成果

北海道アイヌを中心にテーマを多角的に検討するために、民族学(文化人類学)はもとより歴史学や考古学、技術論など多領域の研究者の参加を得て共同研究会を組織することができた。ことに「交易」をキーワードにして、中国や日本を軸にした東アジア商品経済のアイヌへの波及と対応が、アイヌ社会に大きな社会的文化的変化をもたらしたことを、いままで注目されてこなかった具体的な物的資料などをもとに描き出すことができたことが成果である。ちなみに、その一例を北海道島でみると、すでに8~9世紀頃のオホーツク文化は中国の玉や金属品のみならずサハリン島北部もしくは大陸産のトナカイ角やベーリング海のセイウチの牙を入手し、すぐれた人物像や動物意匠に加工している。古くから存在した先住民の交易ネットワークの広がりと連携は想像していた以上のものであった。 これにもとづいて2001年度(平成13年度)には、特別展『ラッコとガラス玉──北太平洋の先住民交易』を開催し、成果の一部はその解説『図録』に掲載した。また、研究成果のより多面的な分野については、現在編集・出版作業を進めている『北太平洋の先住民交易と工芸』に成果が盛られている。

2000年度

北太平洋沿岸の先住民は、アジアと北アメリカ両大陸を結ぶ広大な地域において交易を軸に経済的な展開を遂げた。その刺激は社会的な再編を引き起こし、工芸技術などの文化面は大いに洗練された。しかし、ラッコの毛皮を求めて東進したロシアが、ラッコ捕獲の労働者として先住民アリュートを隷属させた例にみるように、周辺国家は著しく先住民経済システムを破壊し、変容させた。本研究は、先住民の視点で外部からの影響を解明する。

【館内研究員】 秋道智彌、池谷和信、岸上伸啓、佐々木史郎、園田直子、吉田憲司、吉本忍
【館外研究員】 菊池勇夫、菊池徹夫、菊池俊彦、越田賢一郎、小杉康、スチュアート ヘンリ、田島佳也、谷本一之、長谷部一弘、藤田明良、柳元悦
研究会
2000年11月3日~4日
資料の整理と分析
2000年11月11日~12日
赤沼英男「日本列島北方地域の鉄・鉄器の生産と流通について ─ 出土資料の金属考古学的分析をとおして」
小林幸雄「北日本の漆器と技法」
安孫子昭二「土偶からみた縄文集団」
古泉弘「出土遺物からみた江戸時代における〈もの〉の流通」
2001年1月13日~14日
大塚和義「樺太アイヌの船模型について」
松木哲「北前船の構造と航海」
赤沼英男「北方地域伝来の鋳造鉄器組織」
小林幸雄「アムール川流域の漆器の化学分析」
全員討論
村崎恭子「樺太アイヌの口承文芸からみた対外接触」
谷本一之「民族音楽からみた先住民の交流・交易」
2001年2月10日~11日
荻原博文「平戸における近世の交易」
安里進「〈もの〉からみた琉球の海外交易」
森下雅代「日本文化における皮革の利用」

1999年度

北太平洋沿岸の先住民は、アジアと北アメリカ両大陸を結ぶ広大な地域において交易を軸に経済的な展開をとげた。その刺激は社会的な再編を引き起こし、工芸技術などの文化面は大いに洗練された。しかし、ラッコの毛皮を求めて東進したロシアが、ラッコ捕獲の労働者として先住民アリュートを隷属させた例にみるように、周辺国家は著しく先住民経済システムを破壊し、変容させた。本研究は、先住民の視点で外部からの影響を解明する。

【館内研究員】 秋道智彌、池谷和信、岸上伸啓、佐々木史郎、園田直子、吉田憲司、吉本忍
【館外研究員】 菊池勇夫、菊池徹夫、菊池俊彦、越田賢一郎、小杉康、スチュアート・ヘンリ、田島佳也、谷本一之、長谷部一弘、藤田明良、柳元悦
研究会
9月11日
佐々木浩一「八戸市根城を中心とした中世交易」
榊原滋高「中世十三湊の性格と物流」
全員討論
9月12日
勝盛典子「裂見本帳にみる輸入染色品」
森下雅代「日本の革工芸」
全員討論
12月11日
由水常雄「ガラス製品ビーズの製法技術と産地・流通について」
成瀬正和「正倉院御物にみる物流」
12月12日
武田修「常呂遺跡群における外来製品について-10世紀~12世紀を中心に」
藤田明良「中世の海獣皮」
2000年1月18~19日
資料調査と分析
2月26~27日
資料調査
3月15~17日
資料調査
佐藤一夫「苫小牧市立博物館所蔵アイヌの首飾り等について」
手塚薫「千島列島と露米商会」
太地亮「太地捕鯨と鯨肉流通の歴史」
全員「討論」
研究成果

初年度1999年は、先住民交易を、具体的な指標となる「もの」の流通による経済システムの変容に焦点を当てて研究会を進行させた。先住民側が生産する交易品は、主に毛皮(ラッコ、クロテン)や海産物などであったが、外来者がもたらしたものは鉄製品やガラス玉などであったこと。ことに先住民はガラス玉の色や大きさを自己選択し、それを自分たちの装飾工芸の文脈におきかえて多彩な工芸品を作り上げたことを明らかにできた点がひとつの成果である。