国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

デジタル技術時代の文化遺産におけるヒューマニティとコミュニティ

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テーマ区分:文化 4 文化遺産とコミュニティ

代表者:飯田卓

研究期間:2019.4-2022.3

 

プロジェクトの目的・内容

 文化をめぐる第三の波が到来しつつある。第一の波は、ナショナリズムと結びついたかたちで文化遺産に関する枠組みができあがった19世紀末から20世紀初頭。第二の波は、産業資本主義への懐疑とともに文化の政治性が浮きぼりになった1970年代から1990年代。そして現在、ヒューマニティ(人間性)の概念をラディカルに問いなおすAIが登場し、ヒューマニティの最後の砦として文化が見直されはじめている。
 これら3つの波は、一定時期を過ぎれば鳴りをひそめるといった類いのものではない。現にこんにち、第一の波によって問題化されたナショナリズムや、第二の波によって問題化されたアイデンティティ政治と文化との関係などが、なおも余韻を残しつつ第三の波と干渉し合っている。言いかえれば現代は、ナショナリティとローカル・アイデンティティ、ヒューマニティといった異なる価値に駆動されながら文化が躍動する時代だといってよい。
 いっぽうで、文化が意味する範囲は相変わらず多様である。文化が時代を読み解く鍵になるとしても、その定義について合意がなされることは、当分のあいだないだろう。文学や美学が扱ってきた貴族趣味の芸術文化や、ロマン主義や文化人類学が扱ってきた生活様式としての文化、ならびにカルチュラルスタディーズが扱ってきた産業資本主義的なポピュラーカルチャー(文化)は、互いに響きあいながらそれぞれにリアリティを帯びている。ただし、第三の波を受けた現代においては、生活場面全般の行動様式という意味での文化は、相対的に存在感を弱めている。代わって存在感を強めているのが、さまざまな複製技術(VR技術など、デジタル技術に含まれないさまざまな技術も含む)によってパッケージ化され、アイコンとして流通しうる芸術文化やポピュラーカルチャーである。アイコン化になじみにくい行動様式としての文化は、現代では、無形文化遺産という名でパッケージ化されて流通する。このため文化人類学において議論されてきた生活文化は、文化遺産やそれを収める博物館といったテーマにおいてとりわけ先鋭的に問題化され、芸術文化やポピュラーカルチャーの問題に関わっているのである。
 本研究では、文化遺産の価値をめぐってくり広げられる社会関係からその特殊性や政治性を明らかにするとともに、それら文化遺産が現代的価値であるヒューマニティの代理/表象たりうるかどうか、言いかえれば、ローカルな文脈において生まれたはずの文化遺産が普遍性を持ちうるかどうかを議論する。ここでいう文化遺産は、ユネスコなどによって公的に認定されたものだけを指すのではなく、人間的な無形の営みを蓄積・反映した五感的表現は便宜的にすべて文化遺産とみなす。こうした文化遺産が、ナショナリティやローカル・アイデンティティのみならず、ヒューマニティをめぐる議論にも影響されながらいかなるふるまいを示すかを実証的に明らかにしていく。

 

期待される成果

 ナショナリティやローカル・アイデンティティとの関わりから文化遺産を論じる議論はこれまで数多くあり、むしろ文化研究の主流になっているとすらいえるが、ヒューマニティの最後の砦ととらえる議論はまだほとんどない。これは、自然科学の進展がまだ反映されていないためで、斯学をふまえたある予測では、人工知能の発達が2045年に特異点に達して人間存在そのものを再考せざるをえなくなるともいわれる。人工知能に実現できない価値のひとつとして文化的価値をとらえなおす動きは、すでに現実のものとして胎動しているのであり、この点において、文化遺産やそれを支えるコミュニティの動きをとらえ直すことは人文社会科学全般にとってますます重要となろう。また、そうしたヒューマニティをめぐる動きが、従来のナショナリティやローカル・アイデンティティとどのような関係を築いていくかも、これからの人文社会科学の課題である。本研究は、そうした未開拓の分野に先鞭をつけるものであり、大きなインパクトを与える議論として迎えられると期待できる。

 

みんぱく公開講演会

2019年11月15日(金)
みんぱく公開講演会「アニメ『聖地』巡礼――サブカルチャー遺産の現在」

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連続ウェブ研究会

2021年2月13日(土)~3月13日(土)(計5回)
文化遺産実践における身体とモノ 集合的健忘に抗するための文化伝達

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