国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

アフリカにおける文化遺産の継承と集団のアイデンティティ形成に関する人類学的研究(2015-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 吉田憲司

研究プロジェクト一覧

目的・内容

現代のアフリカにおいては、紛争、新たな宗教運動の展開、あるいは都市化による有形・無形の文化遺産の破壊・衰退が問題となる一方で、個々の民族・地域集団が自身の文化遺産を集団としてのアイデンティティの核として位置づけ、その集団独自の文化を継承・創造していこうとする動きもみられる。本研究は、現地アフリカの研究機関・研究者と共同して、こうした文化遺産の意義を改めて評価することで、文化遺産の次代に向けての創造的継承につなげるとともに、文化遺産を用いた集団のアイデンティティの形成の問題点と可能性を検証し、アフリカの人びとが自らの文化に誇りをもちつつ、異なる文化と共存して生活しうる基盤を涵養しようとするものである。それは、物質文化研究や儀礼研究にとどまっていた従来の文化遺産研究を、アフリカ社会の創造的な構築のための学として再整備するものといってもよい。

活動内容

2017年度実施計画

第3年度にあたる平成29年度には、研究代表者・分担者・連携研究者計7名が担当地域に赴き、現地研究拠点機関・現地研究協力者と共同で現地調査を実施する。あわせてガーナ、クマシにおいて文化遺産の継承をめぐる現地ワークショップ兼公開セミナーを開催する。
・研究代表者・分担者・連携研究者計7名が担当地域に赴き、現地研究拠点機関(以下では【現】と表記する)および現地研究協力者と共同で、文化遺産の継承の動態を把握するとともに、継承を阻害・促進する要因の抽出をはかる。
地域別の分担は、南部アフリカについては、吉田憲司がザンビアとその周辺(【現】国立リヴィングストン博物館)、亀井哲也が南アフリカとその周辺(【現】ウィットウォーターズランド大学美術館)、東部アフリカについては、慶田勝彦(【現】ケニア国立博物館)、西部アフリカについては、和崎春日がカメルーンとその周辺(【現】ヤウンデ大学)、ウスビ・サコと連携研究者の竹沢尚一郎がマリとその周辺(【現】マリ国立博物館)、連携研究者の阿久津昌三がガーナ(【現】アサンテ王国王宮博物館)での調査に従事する。
・ガーナの現地研究拠点であるアサンテ王国王宮博物館において、研究代表者・分担者・連携研究者、ザンビアから招聘する現地研究協力者フレクソン・ミジンガの参加のもとで、「文化遺産の守り手としての博物館The Museum as a Guardian of Cultural Heritage」と題し、同国博物館関係者を対象とした現地ワークショップ兼公開セミナーを開催する。
・年度末に国内にて、研究代表者・分担者・連携研究者による共同研究会を開催し、得られた知見の共有化と比較研究を行なう。
・得られた情報は順次「アフリカ文明サイバーミュージアム」のデータベースに蓄積・共有する。

2016年度活動報告

計画第2年度にあたる平成28年度においては、研究代表者・分担者・連携研究者計7名が、それぞれの担当地域に赴き、現地研究拠点機関・現地研究協力者と共同で、当該地域における文化遺産の現状と集団のアイデンティティ形成との関係についての現地調査を実施した。すなわち、南部アフリカについては、吉田憲司がザンビア、亀井哲也が南アフリカ、飯田卓がマダガスカル、東部アフリカについては慶田勝彦がケニア、西部アフリカについては、和崎春日がカメルーン、ウスビ・サコがマリ、そして連携研究者の阿久津昌三がガーナにおいて調査を行なった。その結果、ザンビア、マラウィ、モザンビークにまたがって居住する民族集団チェワの人びとの間で、伝統的仮面舞踊のユネスコの無形文化遺産登録を契機に、国境を越えたチェワという集団としてのアイデンティティが形成されてきていることが確認された。同様に、ケニアの集団ミジケンダにおいても、伝統的遺産の無形文化遺産登録をきっかけにして、集団の自己認識に変化のみられることが確認されている。これに対して、南アフリカやマダガスカルでは、国民国家の政策によって民族集団の位置づけに変化が生じ、そのことが文化遺産の動態に影響を与えていることが指摘された。一方、西アフリカのマリでは国内の紛争、カメルーンでは中国の経済進出、ガーナでは疾病の流行といった近年の動きによって、文化遺産に対する認識とそれに伴う集団の自己イメージに変化が生じていることも報告された。このように、研究の進行に伴い、文化遺産の継承に影響を与える様々な要因が明らかになってきている。今後とも、文化遺産に継承を阻害・促進する要因の把握に努めたい。なお、平成28年度は、ザンビアにおいて、文化遺産の継承における博物館の役割に焦点を当てた現地ワークショップを開催した。次年度は、ガーナにおいて、同様のワークショップの開催を計画している。

2015年度活動報告

計画第1年度にあたる平成27年度には、調査対象地域における現地研究拠点ならびに海外共同研究機関を含めた研究体制の整備を行ったうえで、現地での予備的な調査を実施した。
・海外共同研究機関としては、英国の大英博物館並びにイーストアングリア大学セインズベリー芸術センターとの間で共同研究推進の合意に達し、早速それぞれの機関に所蔵されるアフリカ関係の資料についての調査を行った。米国のスミソニアン協会国立自然史博物館とカリフォルニア大学ロサンジェルス校については、メール等でのやり取りを通じて、共同研究体制の整備を図った。
・現地での活動については、研究代表者の吉田憲司がザンビア、研究分担者の亀井哲也が南アフリカ、慶田勝彦がケニア、和崎春日がカメルーン、ウスビ・サコがマリ、飯田卓がマダガスカル、そして連携研究者の井関和代がエチオピアに赴いた。いずれの調査対象国においても、本年度は、計画の初年度にあたり、当該国の文化遺産の概況を調査し把握したうえで、今後5年間にわたる現地研究拠点機関との研究計画の企画立案に時間を割いた。ただ、すでにこの初年度の調査から、ザンビアやケニアでは、ユネスコの無形文化遺産登録が集団のアイデンティティの在り方に変化を生じさせていることや、マリ、カメルーン、マダガスカルなどにおいては、国内の紛争が文化遺産の継承に少なからぬ影響を与えていることが窺われた。
なお、次年度(平成28年度)に予定しているガーナにおける文化遺産の保存と継承に関する現地ワークショップのため、本年度内に連携研究者の阿久津昌三をガーナに派遣することにしていたが、現地カウンターパートの配置転換により現地受け入れ態勢が平成27年度は整わないことが判明したため、阿久津の派遣を平成28年度とし、ワークショップは平成29年度の実施することとして、研究経費についても一部繰越を行った。