国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ポスト福祉国家時代のケア・ネットワーク編成に関する人類学的研究(2015-2017)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 森明子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、福祉国家制度が見直しを迫られるなかで、ローカルなケアの実践に、国家による制度の限界を乗り越えていく人々の工夫があらわれていることに注目し、それをネットワークの観点から明らかにしようとする。また、そこに携わっている人々は、現在と将来の社会像をいかに構想しているのか、その関係性や組織・制度に焦点をあてて、人類学的に解明することを目的とする。とくに、移民・難民・流民など国家やコミュニティの境界領域におかれた人々のケア編成と、域内の高齢者のケア再編に注目し、そこでケアをめぐってどのような関係がつくられつつあるのか明らかにする。家族、親族、隣人、自治体、社会福祉団体、ケアワーカー市場等、多様なアクターが連関する実態を描き出すとともに、そこで「社会的なもの」がどのように編成されつつあるのか、解明することを目指す。

活動内容

2017年度実施計画

本年度の研究は、研究代表者と分担研究者に、2名の連携研究者を加えた7名をコアメンバーとし、さらに海外研究協力者との緊密な研究ネットワークのもとに、以下の4点に沿って、研究をすすめる。
①年度初めの国内研究会―これまでの総括と今後の展望。各メンバーの研究の進捗状況と年度計画について報告し、基礎データを共有して問題点を討議するとともに、海外共同研究者との研究協力状況について情報交換する。②メンバー各自の調査研究―森(研究代表者)は、ベルリンの保育制度の変遷と現在の多様な展開について、ひきつづき調査する。天田は、東アジア4カ国を射程に入れて、超高齢社会の高齢者ケアと家族の変容に関する文献調査とシンガポール、台湾でのフィールドワークを行う。内藤は、ブルンジからの難民が居住するタンザニアの難民キャンプを対象に、公的および非公的支援のなかで構築されるケア・ネットワークを、食生活に焦点をあてて調査する。高橋は、フィンランド南西部の自治体で、在宅独居高齢者を支援するネットワークについて、ひきつづき参与観察を行う。岡部は、タイの流民のケア・ネットワークの一環として、チェンマイ近郊の寺院で、流民の移住と出家制度の関わりを現地調査する。岩佐は、ラオス農村における保育園・幼稚園がケア実践に及ぼす影響について現地調査する。浜田は、これまで収集し、蓄積したデータの整理・分析・執筆に主力をそそぐ。③海外研究者との研究協力の推進、研究集会の開催―本年度も、昨年度に引き続き、数名の海外研究協力者を招聘して、国内研究者と集中的な議論を行う研究会を開催する。昨年度、発展的に展開した研究ネットワークを、さらに強化し発展させることを目指す。研究集会は、研究ネットワークを深化・拡大させるとともに、比較研究としての理論整理を図るものであり、来年度の国際学会での共同発表を射程におさめて実施する。④研究総括―年度の後半に、3年間の研究を総括する研究集会を開催する。研究の到達点について報告と議論を行うとともに、成果公開についての打ち合わせを行う。
連携研究者
・岩佐光広(高知大学・人文社会科学部・准教授):ラオス農村および日本在住ラオス難民を分担
・浜田明範(関西大学・社会学部・准教授):ガーナを分担
海外研究協力者
・Tatjana Thelen(ウィーン大学・社会科学方法論部門・教授)

2016年度活動報告

平成28年(2016)度は、各メンバーの調査のさらなる展開をはかることと、メンバー全体で海外研究者との研究交流を拡大、深化させることの2点を主眼として研究を展開した。
民族誌調査研究――1.森(研究代表者)は、ベルリンの保育園について、記録資料の整理分析と、現地でのインタビュー調査を進め、とくに後者で、保育園の父兄、経営者とのインタビューで充実した調査ができた。2.天田は、介護保険制度によるケア労働市場と家族関係の動態について東アジア4か国の比較研究の一環として、日本の地方都市の高齢者ケア調査をすすめた。3.内藤は、タンザニアの難民キャンプで、支援とケア・ネットワークに関する調査を次年度にかけて展開していくための第一段階の調査を行った。4.高橋は、フィンランドで2回に分けて計1か月半にわたり、インフォーマルケアに関する聞き取りと、行政の組織改革の実態について、現地調査した。5.岡部は、主要なインフォーマントを対象に焦点をしぼったインタビュー調査とそのデータ分析を中心に行い、あわせて研究発表を行いながら隣接分野の研究者との意見交換を重ねた。6.岩佐は、ラオス農村で保育/幼稚園設置が及ぼす影響について、予備的調査を行った。7.浜田は、ガーナ南部の農村地帯で、葬儀を死者ケアの実践ととらえる視点から調査をすすめた。
国際研究交流――森と岩佐は、タイとドイツの研究機関を訪問調査し、国際研究交流を進めた。その準備を経て、平成29年2月、ウィーン大学とタイ・チェンマイ大学から研究者を招へいし、コロッキアム”Thinking about care as social organization: A Discussion with T. Thelen and K. Buadaeng”を国立民族学博物館において開催し、日本在住の研究分担者、研究協力者を招集して、集中的な議論を行った。

2015年度活動報告

本年度は、国家やコミュニティの境界領域におかれた人々は、いかに持続的なケアを実現しているのか明らかにするために、ケアが発動する局面を詳細に検討し、多様なアクターを射程におさめてデータを収集することをめざした。
1.代表者森は、再統一後のベルリンの保育園運営について調査し、社会福祉団体、自治体、保育士、父兄の関わりを検討した。また、ウィーンで、ベビーシッターを結節点としてあらわれている保育ネットワークを調査した。
2.天田は、介護保険制度によるケア労働市場の形成・再編成に注目し、さらにそれが家族関係に与える影響について、日本と韓国で調査した。
3.内藤は、ケニア北部で、近年導入されたICTを活用した食料援助システムに注目し、牧畜社会の集団主義的な食糧獲得戦略に起こりつつある変容を調査した。
4.高橋は、フィンランドの高齢者福祉において、親族介護と行政によるそれへの支援、施設介護の現状について調査した。
5.岡部は、ミャンマーからタイ北部に流れてきて仏教寺院に居住するシャン人労働者に注目し、寺院が移住初期の生活を保障している実態を調査した。
6.岩佐は、ラオスのヴィエンチャンにおいて、高齢者福祉のとりくみ状況を調査した。
7.浜田は、ガーナ南部の農村地帯で、地縁的ネットワークと血縁的なネットワークが、どのように発現するか調査した。
また、ラウンド・テーブル「東アジアにおける家族の境界とケア実践―社会政策のもとでの家族」を、2015年10月12日に国立民族学博物館で開催し、ケアの実践について比較研究の視点から議論した。