国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ショナ音楽文化と憑依儀礼の政治・宗教人類学的研究(2015-2017)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 松平勇二

研究プロジェクト一覧

目的・内容

ジンバブエ共和国では村落、あるいは、国家レベルの危機において音楽、政治、宗教が一体性を示す。ジンバブエ解放闘争期には祭祀音楽を起源とする「闘争歌」が教育や情報伝達の手段としてアフリカ人の闘争を支えた。また、ショナの農村社会では、あらゆる問題解決を目的に、音楽の伴う憑依儀礼が開催される。霊媒師は地域の政治的指導者である。
本研究では、このようなショナの音楽、宗教、政治の三要素を結合させる論理構造を明らかにする。問題解決の手がかりとなるのがバントゥ系諸民族の分裂要素である。ショナを含むいわゆるバントゥ系民族は、カメルーンとナイジェリア国境あたりを出発し、分裂と融合を繰り返しながら、サハラ以南アフリカのほぼ全土に拡大した。危機解決手段としての憑依儀礼には、社会の分裂要素が観察できる。民謡、ポップス、口頭伝承、憑依儀礼を人々の分離や融合の要素を視点に分析し、音楽、宗教、政治の複合論理を考察する。

活動内容

2017年度実施計画

平成29年度は現地調査として約3か月のジンバブエ渡航をおこなう。この調査の第一の目的は、憑依儀礼の資料収集と分析である。資料収集とは具体的には、首都ハラレを中心とした憑依儀礼の音声、映像資料の収集である。これらの資料から得られる情報は、儀礼の過程、祈りの言葉、問題解決に向けた人々の議論内容、儀礼における音楽的行為のありかた、などである。これらの資料分析より、研究目的に挙げた憑依の意義や憑依儀礼をめぐる集団の分裂と融合の動態、さらに憑依儀礼における音楽の効果を解明したい。なお、この資料収集と分析は憑依儀礼の専門家であり政治・宗教人類学者のウィルバート・サドンバ博士(ジンバブエ大学応用社会科学センター上級講師)との共同研究として進められる。その理由は、憑依儀礼で用いられる言語が非日常的言語であり、その分析にはショナの宗教思想に関する専門知識が必要だからである。
現地調査の第二の目的は祭祀楽器ンビラの技術的側面の研究である。ンビラという楽器は携帯性に優れた楽器である。したがって、奏者はジンバブエ国内を移動しながら各地の儀礼で演奏をおこなう。楽器と人の移動は、演奏技術や楽器作成技術の革新と伝播を促進する。本研究では今日のンビラに関する技術変化の動態に加え、口頭伝承に伝わるかつての武力衝突とその結果発生した人々と楽器の移動も明らかにしたい。ンビラの特に盛んな地域であるニャンドーロ地域、モンドーロ地域、ダンバツォーコ地域出身のンビラ奏者から、ンビラの技術的側面と人々の移動(集団の分裂と融合)に関する聞きとりをおこなう。
研究成果報告は、主に論文と学会での口頭発表で報告する。現在執筆中の祭祀楽器ンビラに関する2本の論文と合わせ、3本の論文を『アフリカ研究』、『宗教学研究』、『ポピュラー音楽研究』等の学会誌に投稿する。 学会等における研究発表としては、日本宗教学会と日本ポピュラー音楽学会での発表を予定している。また、ジンバブエ大学のサドンバ博士とともに、共同で英文の著書を出版する計画を進めている。現在、ジンバブエ国内あるいは日本国内での出版を目指し準備を進めている。

2016年度活動報告

本研究の目的はショナ社会における宗教、政治、音楽の複合構造の解明である。ショナ社会における憑依儀礼は、自然災害や人間関係に起因する社会的危機を解決する方法の一つである。儀礼では音楽が演奏され、やがて霊媒師は憑依状態になる。そして人々は霊媒師に宿った霊的存在の助言を得ながら問題解決のための議論をおこなう。このような音楽、宗教、政治を結合させる論理とは何か。研究代表者はショナ人が歴史的に繰り返してきた、集団の分裂と融合に注目し、次の3研究を進めている。(1)ショナ音楽の歌詞、音楽構造、楽器にみられる集団の分裂と融合の要素。(2)社会的危機の宗教的解決法(憑依の意義)。(3)憑依儀礼をめぐる集団の分裂と融合の動態。
平成28年度は、約4か月の現地調査をおこなった。主な調査内容は憑依儀礼の音声資料収集とその分析である。この音声資料からは、憑依儀礼における音楽の役割、憑依発生の過程、霊媒師を交えた議論の過程を分析することができる。今回の現地調査によって、21回の憑依儀礼(計50時間以上)の音声データを収集することができた。現在はジンバブエ大学応用社会科学センターのサドンバ博士らの協力を得て、音声資料の文書化と分析を進めている。
上記調査に加え、祭祀楽器ンビラの歴史に関する調査もおこなった。ジンバブエにはンビラ音楽の中心地としてニャンドーロ、モンドーロ、ダンバツォーコという三地域がある。ニャンドーロ地域とダンバツォーコ地域のンビラ奏者とのインタビューから、ンビラの起源地はニャンドーロ地域であり、婚姻や武力衝突などによる人々の移動を原因にンビラが各地に拡散したということが明らかになった。
研究成果の発表は国内学会における二度の口頭発表と、音楽教材のジンバブエ音楽に関する項の執筆によっておこなった。現在、ンビラの技術的側面(楽器構造、音楽構造)と、憑依儀礼に関する2本の論文を執筆中である。

2015年度活動報告

本研究の目的は、バントゥ系民族の分裂と融合の性質を視点に、ショナ社会における政治、宗教、音楽の複合構造を解明することである。具体的な研究内容は次の3点にまとめられる。(1)ショナ音楽文化の研究-音楽技術と社会の分裂と融合の関係、(2)ショナ宗教思想の研究‐分裂と融合を視点としたテキスト分析、(3)憑依儀礼の研究-危機解決過程としての社会の分裂と融合。
平成27年度は、二度の現地調査(2015年9月23日~11月22日:ジンバブエ共和国、2015年12月1日~8日:アメリカ)をおこなった。ジンバブエでは平成28年度以降の長期調査に向けた調査許可の申請、現地研究機関との連携強化、予備調査を進めた。そのなかで、ジンバブエ大学応用社会科学センターとの共同研究として"African Philosophy and Technology"を立ち上げた。共同研究により本研究の円滑な進展が期待される。予備調査としては、ジンバブエ北部の憑依儀礼で霊媒師の異言に関する資料収集をおこなったほか、祭祀楽器ンビラの音調構造についての調査をおこなった。
本研究計画の批判的検討と研究成果報告を目的に、論文(書評)1本の発表、2回の学会発表、海外研究者との共同研究をおこなった。テキサス大学オースティン校でおこなわれたSociety for Ethnomusicology学術大会では、ローチェスター大学のJennifer Kyker博士、グリンネル大学のTony Perman博士と本研究計画について検討し、方法論や調査地の選定について議論を深めた。
研究成果の公開を目的に研究プロジェクトのウェブサイトを立ち上げた(http://www.geocities.jp/shonaritual/)。今後、研究の進捗状況はウェブサイトにおいて随時更新される予定である。