国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

現代インドの村落・都市中間地帯における親密圏の再編―移動社会を支えるケア関係(2015-2017)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 常田夕美子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、現代インドの村落・都市中間地帯 (rurban, 以下ラーバン) における親密圏の再編の様相を明らかにすることにある。
ラーバンにおいては、村落のように父系リニージ・夫方居住の規範にとらわれず、また都市のように核家族を基本単位とせずに、家族・親族関係や知人・友人関係また近隣関係を用いた、老人や寡婦そして乳幼児のための柔軟なケア関係が生み出されていることが注目される。
ラーバンにおける新たなケア関係は、人・モノ・カネ・情報が農村と都市の間を環流する移動社会を支える生活基盤として重要である。
本研究は、特に女性の行為主体性に着目しつつ、ラーバンの人びとが、モビリティの幅を広げつつ、必要なケア関係を確保するために、親密圏を創造的に再編する過程を描写・分析する。

活動内容

◆ 2017年4月より転入

2017年度活動報告

現代インドの村落・都市中間地帯(rurban、以下ラーバン)における新しいケア関係が、いかに女性たちによって構築され、維持されているかを明らかにするために、ラーバン及び近隣の村落、都市における女子教育と教育を受けた女子のその後の進路の実態について調査研究を行った。4月上旬から7月下旬、9月中旬から1月上旬、3月上旬から3月下旬は、日本国内で関連文献を収集し、読解を進めた。8月上旬から9月上旬、1月中旬から2月下旬は、インド・オディシャー州・プリー県のラーバン地域モトリ在中の女性たち及び村落出身で現在プリー市在中の女性たちに聞き取り調査を行い、ラーバンに住むことの利点についてグループ・ディスカッションを行った。その結果明らかになったのは、女性の社会進出にともない、子どもたちによりよい進学や就職の機会を与えることを目的とし、男子のみならず女子の教育のために、家族が村落からラーバンへ移住するケースが増加していることである。また1991年から継続的に調査を実施しているゴロマニトリ村の住民に聞き取り調査を行った。その結果明らかになったのは、特に看護師などの資格取得のために女子の教育に投資する家族・親族の新たな戦略である。看護師として職を得れば、女性は、嫁ぐ前には親や兄弟姉妹にとっての稼ぎ手になり、婚姻の際には結婚の条件が有利になる。さらに興味深いのは、近年においては、男子に高い教育を受けさせると親は息子に裏切られることが多いため、娘に教育投資をする方が親にとっては有利であるという認識である。そのように、教育を受けた女性は、結婚前も後も自らの家族・親族のケアの担い手として期待されている。それは、従来の父系親族集団、夫方居住婚の規範を揺るがす要因になっているといえよう。

2016年度活動報告

緯度観測所の初期の歴史を明らかにするため、(1)国立天文台水沢VLBI観測所収蔵手稿本・印刷物を対象とした明治大正期の主要出来事および職員在職期間の調査、(2)国立天文台水沢VLBI観測所が収蔵する明治大正期敷地・建造物関連史料のデジタル化、(3)明治大正期に在籍した緯度観測所所員についての聴き取り調査を実施した。
緯度観測所が編纂した手稿・印刷物を対象に明治大正期における同観測所の主要出来事と職員在職期間を調査した結果、木村栄による「Z項の発見」以降も所員数の増加は極めて緩やかであったことと、比較的早い時期から地元水沢の女学校出身者・高等小学校出身者が積極的に採用されていたことが明らかになった。
緯度観測所の明治大正期敷地・建造物関連文書・図面は保存状態が悪く、閲覧が困難であったため、『土地建物台帳』『官有財産簿』『国有財産関係書類』の3点については高精細デジタル画像を制作し、『土地建物関係書綴』については国立天文台水沢VLBI観測所の許可を得て解綴を施した。これにより、前者は現物を汚損せずに精読することが可能となり、後者は高精細デジタル撮影を行うことが可能となった。
明治大正期の緯度観測所所員については、国立天文台水沢VLBI観測所収蔵ガラス乾板から当時の写真を復元し彼らの様子を視覚的に再現するとともに、ご家族や元所員の方々の協力を得て聴き取り調査を行った。これにより、当時は多くの男性所員が詰襟を、女性所員が袴を着用していたことや、初代所長・木村栄がスポーツや芸術活動を通して所員とその家族および市民の交流を図っていたことなど、公的記録には記載されていない緯度観測所の日常が明らかになってきた。
これらの成果を図書館総合展、国際日本学コンソーシアム、日本測地学会特別展、奥州宇宙遊学館特別展・講演会、『国立天文台ニュース』で発表したところ、研究者や市民から好意的な評価を得た。