国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ポスト過疎時代における資源管理型狩猟に関する民俗知形成のモデル構築(2015-2017)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 蛯原一平

研究プロジェクト一覧

目的・内容

近年、農山村を中心に広く獣害が多発、深刻化しており、狩猟が引き継がれてきた地域では、集団内で経験的に蓄積されてきた民俗知に基づき、獣害を抑制し、かつ野生動物の利活用を図る資源管理型狩猟を構築することが喫緊の課題となっている。しかし、ポスト過疎時代を迎えつつある農山村では、それらを担いうる経験豊かな狩猟者が高齢化し、減少している。そのことにより狩猟技術・知識レベルの低下も懸念される。本研究では、国内での狩猟活動の分析を通し狩猟に関する民俗知の形成(継承と伝達・共有)過程の実態について明らかにし、今日の野生動物資源管理において民俗知が有する可能性と問題点について検討する。さらに狩猟担い手育成に関する台湾での先行事例を踏まえ資源管理型狩猟の構築に向けた民俗知形成モデルの提起を行う。  

活動内容

◆ 2017年4月より転入

2017年度活動報告

本研究では、野生鳥獣との共的関係のなかで歴史的に培われてきた伝統的狩猟をローカルに根ざした「資源管理型狩猟」と位置づけ、それを担う狩猟者たちの民俗知(在来知)がいかに形成され、継承されうるかを狩猟活動への同行・記録に基づく事例調査から検討する。加えて台湾パイワン族でなされている狩猟担い手育成に関しても情報を収集し、かつ研究協力者との相互議論を通し、民俗知の形成(継承)に関わる課題についても考察する。
本年度は、4~5月に山形県小国町で行われた伝統的春グマ猟(ツキノワグマの春季捕獲)に同行・調査し、資料収集を継続実施するとともに、これまでの調査結果の整理分析を進め、とりわけ狩猟において不可欠である猟場選択に関する知識構築に関して考察を行った。そして、山の地形・地理に関する知識が個人のなかでどのように蓄積され、集団で共有されるかについて論文執筆を進めた。さらに、その基本的知識となる猟場の地名についても随時聞きとりを行い、情報の収集・蓄積を図ると同時に、それらの整理及び発信の方法についても検討した。
また、これら研究の進展に伴い、より独創的な成果を導くためには民俗知形成のプロセスを当初想定していたように自然環境との関連を中心として論じるのではなく、狩猟者らの価値観まで掘り下げ社会文化的視点からも捉えることの重要性が示唆された。そこで、マタギ(東日本の伝統的狩猟者)に関する民俗学的調査報告や地域民俗誌等の文献資料収集及び狩猟者への聞きとりを実施した。そして、戦後における当地域での狩猟の変化を実証的に捕捉することで現在継承されている狩猟の知識・技術基盤の一端を把握することに努めた。あわせて、本年度に刊行予定であった一般向けのブックレットにおいてもこの内容を充実させることに変更し、新たな構成案での編集作業を進めた。