国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

日本国内の民族学博物館資料を用いた知の共有と継承に関する文化人類学的研究(国際共同研究強化)(2016-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|国際共同研究加速基金(国際共同研究強化) 代表者 伊藤敦規

研究プロジェクト一覧

目的・内容

1990年代以降、日欧米の主要な民族学博物館は、展示する・される・観る側の三者が情報や意見を交換して議論する機能を重要視する傾向にある。また文化人類学も、ポストコロニアル批判や交通輸送手段と情報通信技術の発達を背景として、研究する側とされる側との間で意見や解釈の双方向性を担保するフォーラム化が推進している。
現在の研究(若手A)は「日本国内の民族学博物館資料」を用いた研究である。主催した国際ワークショップなどで、上述したフォーラム化傾向の流れもあり、海外諸機関から国際共同研究の申し出を受けた。
申請者は、本課題の機会を用いて、ソースコミュニティ(資料を制作し使用してきた人びとやその子孫、以下SC)との協働熟覧の方法論モデルを世界に向けて展開を試みる。すなわち、若手Aの研究課題によって蓄積した事例に基づきながらSCのプレゼンスを高め、民族学博物館におけるフォーラム化を日本から加速させる。

活動内容

2019年度活動報告

2019年4月から6月まで約2ヶ月間、米国アリゾナ州に滞在し、北アリゾナ博物館の研究者やソースコミュニティの先住民ホピの人々と資料調査を継続して行った。また、これまでに実施した資料熟覧調査を収録した映像と文字起こししたテキストデータを照合し、カルチャル・センシティビティへの配慮が必要な部分などを洗い出し、削除する作業を行った。また、米国にて、本研究課題に関連する展示会を開催した(会期:2019年4月~12月、ニューメキシコ州立大学附属博物館との共催)。
帰国後は、これまでの成果をまとめ、査読付き編著2冊、査読付き英語ジャーナルへの特集論文の刊行、資料熟覧調査のドキュメンタリー映像作品(多数)の監修など、さまざまな媒体を介した成果公開に努めた。成果への一つの評価として、デジタルアーカイブ学会の研究大会にて発表(前年度)した論文が、「座長が推すベスト発表」に選出され、学会誌で紹介された。

2018年度活動報告

10月8日から12月9日までの約2ヶ月間、米国アリゾナ州に滞在し北アリゾナ博物館(MNA)の研究者と資料調査を継続して行った。また、これまでに実施した資料熟覧調査を収録した映像と文字起こししたテキストデータを照合し、カルチャル・センシティビティへの配慮が必要な部分などを削除する作業を行った。
本研究課題の連携研究者で、デンバー自然科学博物館のChip Colwell氏が北アリゾナ博物館を訪問した際に、本研究の進捗を報告し課題を共有した。
海外渡航以外の期間はこれまでの成果のまとめと公開に努めた。例えば2度の国際シンポジウムでの発表、国内学会での発表、編著の刊行などを行った。また、ポスター発表や共同発表という形式で米国での成果発表も行った。

2017年度活動報告

4月に米国ワシントンDCのスミソニアン協会国立アメリカンインディアン博物館(NMAI)と付属施設の文化資源センター(メリーランド州)を訪問し、収蔵資料150点の写真撮影と採寸を行った。この調査はシアトルのバーク博物館のコレクションマネージャーであるキャシー・ドーハティー氏(2015年末まで北アリゾナ博物館(MNA))と共に実施した。また、海外共同研究者であるゲヨ・ジョイス(NMAI、コレクションマネージャー監督)やシンシア・チャベス=ラマー (NMAI、資料管理部長)にプロジェクトの進捗報告と方法論の確認を行った。
5月に、4月の調査で得たデータをソースコミュニティであるホピ(保留地)に持参し、ホピの銀細工師と若手作家と共に、TVモニターに資料画像を映し出しながら熟覧調査を行った(間接熟覧・デジタル熟覧)。熟覧中に発せられた資料一点一点の解説は、ビデオカメラ、スチールカメラ、ICレコーダーで記録した。また、ソースコミュニティの熟覧者は配布した資料情報を記した紙に感想やデザイン画を書き・描き込んでいたので、それもスキャナーでデジタル化した。
6月以降、北アリゾナ博物館(MNA)の施設などに熟覧参加者をもう一度招聘し、協働編集作業を行った。この作業は、先の間接熟覧調査時に撮影した動画を再生しながら彼らの解説を文字起こししたテキストデータの内容と照合する作業のことであり、カルチャル・センシティビティへの配慮が必要な箇所の洗い出しも行った。
2017年8月から9月の6日間には、国際ワークショップ「博物館とディセンダントコミュニティおよびソースコミュニティとの協働」を開催した。2017年10月にも国際ワークショップ「博物館資料とソースコミュニティとの『再会』の地元教育現場への展開」をMNAで開催した。
12月、NMAIを再訪し、熟覧調査に参加したホピの銀細工師と共に進捗の報告を行った。

2016年度活動報告

米国コロラド州のデンバー自然科学博物館のチップ・コルウェル博士(学芸員)とともに収蔵資料の写真撮影や成果発表を行った。さらに、同市内にあるデンバー美術館、コロラド州歴史協会にもホピ製宝飾品資料が収蔵されていることが判明したため、デンバー自然科学博物館経由で担当者に連絡し、資料調査が承諾されたので、資料写真の撮影とプロジェクトの概要を共有する発表会を行った。それら3機関で撮影した約100点分の資料写真を、ソースコミュニティであるホピにデータとして持参し、TVモニターに大きく映し出しながら、熟覧作業を行い、そのコメントをビデオカメラ、スチールカメラ、ICレコーダーで記録した。また、配布した資料台帳に書き込まれた・描き込まれたメモも、スキャナーでデジタル化保存した。現在はその熟覧コメントの会話の文字起こし作業を続けている。
国立アメリカンインディアン博物館の担当者に連絡を取り、正式なフォーマットから資料調査の申請を行い、承諾された。2017(平成29)年4月の渡航に向けて、資料情報の整理を進めている。
北アリゾナ博物館では施設を利用させてもらい、コロラド州の3館のデジタル熟覧や今後のデジタル熟覧に必要となる機材を保管してもらっている。人類学の主任学芸員であるケレイ・ハイズ=ギルピン博士(学芸員)にはプロジェクトの進捗を報告し、今後の展開について密に連絡を取り合っている。