国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

チベット・ビルマ語族の繋聯言語の記述とその古態析出に関する国際共同調査研究(2016-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 長野泰彦

研究プロジェクト一覧

目的・内容

チベット・ビルマ(TB)語族には複数の下位言語群の特徴を兼ね備え、系統関係の橋渡し役を演じる言語(以下、繋聯言語)がある。現代の繋聯言語は類型的に多様だが、同時に古い特徴「古態」を保っていて、同語族の歴史を探究する上で不可欠である。本計画ではチベット・ヒマラヤ語群、羌・ギャロン語群、チンポー語群に属する急速に危機言語化しつつある繋聯言語を現地調査によって精確に記述し、言語動態と基層関係を考慮しつつ、各々の古態を日中瑞の研究者が共同で析出・分析して各言語群の古層とTB祖語形式を厳密に再構し、TB諸語の新たな系統関係を提示する。また、析出された古態と統計科学的手法を用いて、未解読・古文献言語の解明を目指すとともに、「言語基層」の観点が持つ歴史言語学方法論としての有効性を検証する。

活動内容

2019年度活動報告

チベット・ビルマ系語族には複数の下位言語群の特徴を兼ね備え、系統関係の橋渡し役を演じる言語(以下、繋聯言語)がある。現代の繋聯言語は類型的に多様であるが、同時に古態を保つものが多く、当該語族の歴史を探る上で有用である。本計画ではチベット・ヒマラヤ語群、チンポー語群、羌・ギャロン語群の中で急速に危機言語化しつつある繋聯言語を現地調査により正確に記述し、言語動態と基層関係を考慮しつつ、各々の古態を国際的連携の下に共同で分析して各言語群の古層とチベット・ビルマ共通祖語の形式と統辞法並びに上記の各語群の共通祖語形式を厳密に再構し、チベット・ビルマ系諸語の新たな系統関係を提示することを目的としている。また、析出された古態と統計数理学的手法を用いて、歴史言語学と数理言語学の方法を統合して未解読言語シャンシュン語解読と語義や統語法の推定を目指している。 この目的を達するため、記述研究の領域では、長野をギャロン語東部方言の調査のため中国とネパールへ、高橋をキナウル語調査のためインドへ、鈴木をチベット語北部の未記述言語の調査のためノルウェーと中国へ、それぞれ派遣した。また、これらの研究成果を広く公表し、批判を得るため、林を中国とオーストラリアで行われた国際学会に派遣した。 また、古シャンシュン語解読と語義や統語法の推定のため、武内と金は統計数理学的手法を活用し、4種の敦煌文献における相対頻度の分散行列の主成分分析とクラスター分析を行った。

2018年度活動報告

チベット・ビルマ系語族には複数の下位言語群の特徴を兼ね備え、系統関係の橋渡し役を演じる言語(以下、繋聯言語)がある。現代の繋聯言語は類型的に多様だが、同時に古態を保っていて、当該語族の歴史を探る上で不可欠である。本計画ではチベット・ヒマラヤ語群、チンポー語群、羌・ギャロン語群の中で急速に危機言語化しつつある繋聯言語を現地調査により正確に記述し、言語動態と基層関係を考慮しつつ、各々の古態を国際的連携の下に共同で分析してチベット・ビルマ共通祖語の語彙形式と統辞法ならびに上記の各語群の共通祖語形式を厳密に再構し、チベット・ビルマ系諸語の新たな系統関係を提示することを目的としている。また、析出された古態と統計数理学的手法を用いて、未解読言語シャンシュン語の解読と語義や統語法の推定を目指している。同時にこれを通じて、歴史言語学と数理言語学の方法を補完的に統合することの妥当性をも探ろうとしている。
この目的を達するため、記述調査研究の領域では、長野をギャロン語東部方言の調査のため中国へ、高橋をキナウル語調査のためインドへ、鈴木をチベット語北部の未記述言語の調査のためノルウェーへ、それぞれ派遣した。また、これらの研究成果を広く公表し、批判を仰ぐため、林を米国と南アフリカ共和国で行われた国際学会に派遣した。
さらに、古シャンシュン語解読と語義や統語法の推定のため、武内と金は統計数理学的手法を活用し、4種の敦煌文献における相対頻度の分散行列の主成分分析

2017年度活動報告

チベット・ビルマ系語族には複数の下位言語群の特徴を兼ね備え、系統関係の橋渡し役を演じる言語(以下、繋聯言語)がある。これらは一般にTB諸語の古い特徴を保っていて、当該語族の歴史を探る上で不可欠である。本計画では急速に危機言語化しつつある繋聯言語を現地調査により正確に記述し、各言語群の古層とチベット・ビルマ共通祖語形式を厳密に再構し、チベット・ビルマ系諸語の新たな系統関係を提示することを目的としている。また、これらの記述的研究と平行して、未解読言語であるシャンシュン語の解読と語義や統語法の推定を行う。このため、統計科学の分野で開発された方法を援用する。
これらの目的を達成するため、記述研究の領域では、●長野をギャロン語北部方言調査のため中国へ、●高橋をキナウル語西部方言調査のためインドへ、●林をアク(阿克)語調査のため中国へ、●池田を西部羌系諸語調査のため中国と台湾へ、それぞれ派遣した。また、●鈴木はチベット自治区北部カム地方の系統未詳言語の記述研究をノルウェーで行った。さらに、●羌語南部方言とギャロン語東部方言については、中国内の研究協力者を派遣して調査した。
また、●未解読である古シャンシュン語の解析を武内と金が担当し、統計数理学的手法を用いることにより、5種の文献における相対頻度の分散共分散行列の主成分分析とクラスター分析を行った.その結果5種の文献と新シャンシュン語及びナム語のクラスター樹形図を導き出すことに成功し、各文献の特徴と相対的な親縁度を把握できた。

2016年度活動報告

1)研究の目的に鑑み、調査票による現地での記述調査(基礎語彙1300と300例文収集、音声データの記録)を下記の通り実施した。
●長野を中国四川省に派遣。ギャロン語東部方言2種を記述し、近年の類型論研究で明らかとなった事象に関して新たな知見を得た。上記の調査との関連において、中国内の若手ネイティヴ研究者育成に資するため、4名の助教クラスにギャロン語と羌語の記述データを作成させた。●林を中国雲南省に派遣。ロロ語群に属し、従前記述資料の乏しかったアク語を記述した。また、チノ語の記述も行い、自然発話の書き起こしも併せて行った。●鈴木を中国西藏自治区と四川省に派遣。2種の未記述言語(ツァワ・ボ語、ラガン・チョユ語・チョユ語普巴戎方言)を記述した。また、それらとチベット語カム方言との関連をオスロにおいて断続的に行った。●高橋をインド ヒマチャルプラデシュ州に派遣。キナウル語パンギ方言を記述した。●武内、林、鈴木を関連する学会に派遣し、成果公開を行った。●研究協力者、池田巧を中国北京市に派遣し、ムニャ語の記述調査を行った。
2)語彙面での古態に関し、前項の調査で得られたデータをMatisoff(2003) "Handbook of Proto-Tibeto-Burman"に示されたチベット・ビルマ共通祖語形式と突合し、対応関係を全員が検討した。
3)武内と金は古シャンシュン語文献解読に向けてのコンピュータによる解析作業に着手した。これとの関連において、長野と研究協力者2名(立川武蔵&脇嶋孝彦)が新シャンシュン語語彙をポン教文献から抽出する作業を中国内及びカトマンズのポン教学僧の協力を得て開始した。