国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

アンデス文明における権力生成と社会的記憶の構築(2016-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 関雄二

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、55年以上続く日本のアンデス文明研究の成果を踏襲しながらも、権力という分析視点と分野横断的な手法を考古学調査(南米ペルー共和国北部)に導入し、文明初期における複合社会の成立過程(ミクロ・レベル)を追求するばかりでなく、アンデス文明史の再構築というマクロ・レベルの課題に取り組むことにある。インカ帝国をさかのぼること数千年におよぶアンデス文明のなかでも、祭祀建造物が登場した形成期(前3000年~紀元前後)社会のデータを、社会的記憶の形成と統御という斬新な切り口で分析し、新たな権力論、文明論の構築を図る。

活動内容

2018年度実施計画

研究はミクロとマクロの2つのレベルで展開する。ミクロ・レベルではペルー北部高地に焦点を当て、(1)遺構分析を通した社会的記憶の構築と権力形成との関係の追究、および(2)儀礼分析を通した社会的記憶の構築と権力形成との関係の追究の2項目を実施し、発掘や一般調査および自然科学的手法を取り入れた遺物分析を通して実施する。またマクロ・レベルでは、(3)アンデス複合社会の成立と社会的記憶の関係の追究においてアンデス全域、文明全体を焦点にあて、権力の形成と変容について社会的記憶の構築に焦点をあてた比較分析を行う。具体的な内容は以下の通りである。
①連絡会議 これまで研究を継続して行ってきたメンバーであるため、メール会議にて、各人の役割分担、作業内容、渡航時期などを決定する。
②現地調査 7月~9月に実施。内容は以下の通りである。
1)パコパンパ遺跡における権力生成過程の抽出:ペルー北高地の祭祀遺跡パコパンパにおいて蓄積されたデータの解析、周辺の関連遺跡の発掘を行い、権力生成過程を解析する。研究代表者・分担者、研究協力者2名が参加する。なお渡航費用等は他のファンドと連携して捻出する(ミクロ・レベル)。
ペルー北部の形成期諸遺跡との比較による権力生成過程の研究:北部ペルー地域のクントゥル・ワシ遺跡など、これまでに日本調査団が発掘調査を実施した遺跡について、パコパンパのデータと比較し、文明初期の北部ペルーにおける権力生成の様態、相互関係を追究する。研究分担者1名が担当(マクロ・レベル)。
③シンポジウム・ワークショップ(マクロ・レベル)
1)平成30年7月にサラマンカ(スペイン)で開催される第56回国際アメリカニスト会議においてシンポジウムを組織し成果発表を行う。2)平成30年10月にワシントンのハーバード大学で開催される形成期国際シンポジウムにおいて発表する。この成果は英文で出版予定である。3)平成30年6月山形大学および平成30年12月東京大学で開催される日本アンデス調査団60周年記念シンポジウムにおいて成果発表を行う。4)平成31年3月に国内メンバーによる総括フォーラムを公開で開催する。年度の成果を総括するとともに次年度の計画を討議する。 ④平成31年3月に南米に出張し、研究情報を入手する。

2017年度活動報告

ペルー北高地に位置するパコパンパ遺跡において発掘および、出土遺物の分析を行った。発掘については住居遺構の検出をめざした。神殿活動を支えた集団の特定が目的である。具体的には、パコパンパ遺跡の東部に位置し、表面観察からは遺構が目視できない平坦部を選んだ。その結果、住居址というよりも、広場のような開放空間として利用されたことが判明した。当初の推測とは異なる結果ではあったが、逆に、祭祀活動が空間的に連続していることが明らかになった点は大きな収穫といえる。
また遺物分析については、遺跡周辺部の土器分析を行い、その結果、社会的なリーダーが出現した点が検証されている形成期後期(前800年~前500年)に祭祀活動の範囲が縮減していることを突き止めた。権力の生成が祭祀空間の拡大とは比例していないことになる。
出土動物骨については、炭素、窒素、ストロンチウムの同位体分析により、形成期後期に遺跡周辺でラクダ科動物を飼育し、饗宴において消費された点が明らかになった。さらに人骨資料については、儀礼的な暴力行為のパターンがある点をつきとめた。この成果は米国の電子ジャーナルに掲載され、アンデス文明史上、もっとも古くまた確実な事例として国内外の学界で注目された。社会的記憶が生成される機会として注目してきた儀礼という反復的行為の中に、暴力が組み込まれていた点が明らかになった点は重要である。なお人骨のDNA分析については、DNAの残存状態を図る予備的な分析を行い、良好な保存状態にあることがわかった。
これらの成果は、日本をはじめ米国、セルビア、ペルー、アルゼンチンにおける国際学会や集会において発表するとともに、内外の研究誌に投稿し、受理されている。

2016年度活動報告

ペルー北高地に位置するパコパンパ遺跡において発掘および、出土遺物の分析を行った。これまで着手してこなかった南側の基壇を発掘し、形成期中期後葉(前1000年~前800年)の遺構を検出した。また続く形成期後期前葉(前800年~前500年)でも建築の配置は踏襲されていたところから、儀礼空間における社会的記憶の生成方法の継承が指摘できた。
遺物分析については、2015年の調査で発見された貴人墓(通称ヘビ・ジャガー神官の墓)の被葬者について、自然人類学的分析などを実施した。その結果、被葬者のうち1体で、足の骨の遊離が認められ、切断痕は同定できなかったものの、もう1体の被葬者を守る目的を持つ犠牲者であった可能性が指摘され、墓の特殊性がうかがわれた。
さらに貴人墓に隣接した方形パティオにおいて発見された饗宴の痕についても、土器や骨器、獣骨、人骨などの分析が行われた。そこでは同じような儀礼が反復的に3回行われたことは判明していたが、共伴する土器が時間とともに変化することがわかり、しかも共食以外の儀礼的要素も析出された。層位的には饗宴は、貴人墓と関係していることが以前から指摘されており、その意味で、貴人墓の被葬者の追悼的性格が予想されたのだが、儀礼自体が微妙に変化していった点が明らかにされたことになる。これは反復性に基づく社会的記憶自体にも動的考察が必要であることを示すものである。
このように権力と社会的記憶の関係性を示す数多くのデータが得られ、研究の成果は、日本はもとより、米国やペルーにおける国際研究集会の場で発表されたばかりでなく、研究代表者が編者となり、研究分担者や研究協力者が数多く参加した『古代アンデス 神殿から読み取る権力の世界』(臨川書店)の出版に結実した。