国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

北海道内の主要アイヌ資料の再検討(2005-2007)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 佐々木史郎

研究プロジェクト一覧

目的・内容

1.北海道内アイヌ資料のうち、未調査資料の実態調査と主要な資料の再検討を実施し、既刊「海外アイヌ・コレクション総目録」に対応する「国内所蔵アイヌ資料リスト(北海道の部)」の作成準備をはかる。
2.明治末までに収集された海外のアイヌ資料についての背景研究を進めるため、北米の国会図書館、スミソニアン国立自然史博物館アーカイブ、主要大学図書館・博物館等に所蔵されている特別史料を博捜し、御雇米国人教師・技師をはじめとする北米関係者が残したアイヌ社会に関する記録を集積し、明治時代のアイヌ文化の再構成に資する。
3.明治期の人類学諸分野の研究者によるアイヌ研究の歴史を再考察する。

活動内容

◆ 2006年度より研究代表者変更のため南山大学より民博へ

2007年度活動報告

平成19年度には、前年度に引き続き、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園内の博物館に所蔵されているアイヌ文化関係の標本資料(明治初期に開拓使が収集したものが中心)の悉皆調査を中心に調査研究を行い、7月と12月の調査で、それを完了させることができた。その結果、同館所蔵の2500点に及ぶアイヌ文化関連の標本資料全点について調書が作成され、写真が撮影された。また、3年間に及ぶ当科研による調査により、同館以外でも函館市北方民族資料館で600点(総数約2500点の内)、松前城資料館で330点の資料について、熟覧、調書作成、写真撮影を行った。その結果、3年間の調査により、約3560点のアイヌ文化の標本資料を調査した。
本科研での調査研究活動は、標本資料の熟覧、調書作成、写真撮影にとどまらず、当該資料が各博物館、資料館に所蔵され経緯や背景の調査も行った。植物園の資料の収集には明治に北海道開拓指導のためにやってきた「御雇外国人」が関わっていたことから、彼らに関する史料をアメリカの図書館に求めてきたが、本年度も補足調査のために研究分担者2名をアメリカに派遣した。
本科研での調査の結果、北海道大学植物園と松前城資料館についてはほとんど資料についての背景情報が得られ、リストも作成できた。その結果、これらの博物館、資料館の資料は明治から大正にかけての時代に収集されており、それは時代背景が明らかな欧米の博物館に所蔵されているアイヌ資料の収集時期と一致することが判明した。したがって、本科研で調査された資料と、すでに数度にわたる科研による調査によって調書が作成された欧米の博物館に所蔵されているアイヌ資料とを直接比較することが可能になり、それにより、アイヌ文化研究を将来大きく飛躍させるための基礎的なデータが整備された。

2006年度活動報告

平成18年度には主に北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園内の博物館に所蔵されているアイヌ文化関係の標本資料(明治初期に開拓使が収集したものが中心)の悉皆調査を中心に調査研究を行った。まず平成18年6月下旬、11月上旬、12月中旬の3回、各1週間ずつにわたって展示場と収蔵庫の資料について熟覧、計測、写真撮影を行い、記録を取った。今年度の3回の調査によって約2000点の資料についての記録をとることができた。また、同博物館のアイヌ資料収集の歴史的な背景を知るために、アメリカに残されている明治時代の開拓使や札幌農学校の「御雇外国人」の記録の調査も平行して行っているが、平成19年2月~3月にマサチューセッツ大学アマースト校に研究分担者1名を派遣してB.S.ライマン関係の資料の調査を行い、彼がアイヌ資料を収集する過程を示す書簡や彼が収集したアイヌの写真2点を確認した。
さらに、平成17年度に実施した松前城資料館所蔵のアイヌ資料の写真撮影の補足(平成19年2月)、国立民族学博物館所蔵のアイヌ資料の予備的な調査(平成19年3月)も行った。
これらの調査とともに、研究会を2回実施して(平成18年7月1日、2日、平成18年11月5日)資料調査方針の確認、情報交換、そして研究の高度化が図られた。
平成18年度は以上の活動によって、北海道大学植物園の博物館所蔵資料の大半を記録に取る作業が終了し、同博物館ではあと500~600点が残されるのみとなった。また、同博物館のアイヌ資料が収集された明治初期の開拓使の資料収集と御雇外国人の活動との関係の問題についても資料の開拓が進んだ。北海道大学植物園の資料は我国の博物館に所蔵されるアイヌ資料の中でも古いものであり、19世紀中期~後期のアイヌ文化の実態を知るための貴重な資料であるとともに、明治期の北海道開拓の歴史とアイヌ民族との関係を知るための手がかりにもなりうる。本研究を通じて、これらの問題の解明がいっそう進展することが期待される。