国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

少子化社会におけるライフデザインの実践と議論に関する文化比較の医療歴史人類学研究(2005-2007)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 鈴木七美

研究プロジェクト一覧

目的・内容

各地で進行している少子高齢化傾向に関しては様々なレベルで議論がなされ対応が検討されている。子どもや高齢者を対象とする支援や施設の拡充はもちろんだが、子育て世代や仕事をする世代の人々の暮らしまでを視野に収めた生活空間の構成について検討することが不可欠である。本研究は、医療技術の発展と生活様式の多様化という、多くの先進諸国で経験されるライフスタイルの変化に関し、いかなる共生のヴァリエーションがあり得るかを、各地の議論や実践を詳細に検討することを通して考察する。対象地域社会として「超少子化」国たる南欧・日本と対比的に「ゆるやかな少子化」社会に移行を遂げつつある北海沿岸地域に着目し、さらに、教育やライフサイクルについて特徴ある実践を試みている北米のコミュニティなどをとりあげ、ライフデザインの可能性について、国内外の研究者と協力し情報を蓄積して比較文化研究を進める。
本年度はとくに、平成18年度に行った予備調査で得られた知見をもとに、高齢者とともに生きる環境と次世代を育成する子育て環境が連動して考察され実践が模索されている地域に関して、日本、北米、デンマークなどを中心に比較検討し、成果を研究報告会および報告書によって公表してゆく。

活動内容

◆ 2007年4月より京都文教大学から民博へ転入

2007年度活動報告

本研究は、医療技術の発展と生活様式の多様化という多くの先進諸国で経験されるライフスタイルの変化に関し、いかなる共生のヴァリエーションがあり得るかを、各地の議論や実践を詳細に検討してきた。本年度は、3年間の研究のとりまとめとして、以下を行った。
1.研究成果公開(学会報告、研究成果報告書作成)
(1)「多文化都市トロントにおけるエスニック高齢者施設の展開」(日本文化人類学会第41回研究大会)
(2)北米で独自のライフスタイルを保持しているコミュニティについて国際研究大会で報告した。("Diversity, Transition and Communication Among the Amish People" The Amish in America: New Identities & Diversities; An International Conference)
(3)高齢化が進行する日本の町の産業振興について報告した。("Living Together in Conformity and Cycles" Japan Studies Association of Canada (JSAC) 20th International Conference)
(4)シンポジウム「出産のジェンダーポリティクス」でアメリカの動向を報告した。(「アメリカにおける出産の歴史的変容とヘルス・リフォーム運動」ジェンダー史学会第4回年次大会)
2.研究会開催(ライフデザイン研究会 国立民族学博物館で6回開催)
(1)(2)、ともに、「ライフデザインと福祉(well-being)の人類学‐多機能空間の創出と持続的活用の研究‐」国立民族学博物館平成20年度機関研究による国際フォーラム「ライフデザインと福祉(Well-being)の人類学‐開かれたケア・交流空間の創出」(一般公開)に繋げてゆく予定である。

2006年度活動報告

本年度は、少子高齢化時代にいかなる生き方のヴァリエーションがローカルに模索されているのか、ライフデザインに関しどのような分析基盤を提供できるのか、文化人類学の応用可能性に関して考察を深めた。たとえば、「ノーマライゼーション」という語が実践においていかに解釈されているか、近年の親族研究における議論「食物を分かち合い共に暮らすという毎日を積み重ねることで紡がれるより広い人と人との関係性("relatedness")」[Carsten 2000]などを検討し、ローカルな場で豊かな生を求める人々が構築しうる関係性について考察した。
1.基礎的資料の収集
(1)少子化傾向が縮小しているデンマーク、多文化主義の実践を続けるカナダを中心に統計および基本文献を収集。
(2)親族・人間関係性に関する文献資料の収集(Carsten, J., (ed.), Culture of Relatedness. 2000.など)。
2.研究調査
バンクーバー市で日系の高齢者施設がいかにデザインされたのかを調査した。高齢者ケア施設が、高齢者用一般住居および日系博物館と共に建設され、「日本文化」に関心を抱く人々の交流の要となる現状について情報収集した。また「日本文化」に関する活動を通して交流する場としての"Tonari Gumi"について調査した。
(1)第2回研究経過報告会(平成18年11月23日於京都文教大学)テーマ:「少子高齢時代におけるライフデザインへの文化人類学的貢献に向けて」小林香代「『まちおこし』の実践に働く構造的拘束―否認される『政治性』、隠蔽される『政治性』」;田中真砂子「年齢階梯的社会が少子化(+嫁不足)の波に襲われるとき―三重県菅島の場合」;山田千香子「離島における出産」;洪賢秀「韓国社会における海外養子のイメージ」;鈴木七美「トロントの日系高齢者施設における試み」
(2)学会発表(平成18年10月13日)カナダ日本学会(於Thompson Rivers University) "An attempt to establish a new home for elderly Japanese Canadians and Nikkei groups in Toronto"
(3)少子高齢化時代のライフデザインに関わり、「医療・身体論」『文化人類学20の理論』を執筆。

2005年度活動報告

少子化は少子高齢化に関わる問題として論じられている。本研究では少子高齢化社会のライフデザインという観点から、「ケア」、ライフステージ観、余暇の確保や多様性のある暮らしについて、調査研究を進めた。
1.基礎的資料の収集
少子化傾向が縮小し注目されるデンマークを中心に基本文献を収集した。
2.研究調査
(1)高齢化と過疎化が進行してきた徳島県上勝町における活性化の試みについて2度研究調査を行った。地域の高齢者に適合的な事業展開、事業の担い手として外部から若年層を受け入れ共に暮らすための具体的実践に関し知見を深めた。
(2)多文化主義の実践で注目されるカナダのトロント市において、多様な世代が共に暮らす街がいかにデザインされ実践されつつあるかについて3カ所で研究調査を行った。高齢者ケア施設が、高齢者用一般住居、子育て世代用住居、文化施設に近接して建設され、高齢者用住居からのアウトリーチとして、文化活動の地域住民への開放、自宅で生活する高齢者への支援が実践されている現状について情報収集した。いずれの施設においても複数のエスニック・グループが暮らし、エスニック・アイデンティティを尊重しつつ互いに文化的刺激を与えている様子が観察された。
3.研究会開催
「少子高齢化社会におけるライフデザインに向けて―ライフステージ間関係への問い」というテーマで京都文教大学において研究会を開催し研究協力者とともに報告・ディスカッションを行った。(鈴木七美「少子高齢化社会の問題性とライフデザインのゆくえ―循環的共生の模索」;山田千香子(長崎県立大学教授)「ライフステージ変化への戦略-しまの高齢化とカナダ日系移民社会の事例から」;洪賢秀(科学技術文明研究所研究員)「生殖をめぐる韓国社会の対応と課題」;コメント 田中真砂子(お茶の水女子大学名誉教授)
4.学会発表(平成18年10月13日)
カナダ日本学会(於Thompson Rivers University) "An attempt to establish a new home for elderly Japanese Canadians and Nikkei groups in Toronto"
5.2-(1)の研究調査に関し研究論文を執筆した。