国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

セルビアにおけるポップフォークと民俗音楽の比較分析による文化的連関の研究(2017-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 上畑史

研究プロジェクト一覧

目的・内容

研究目的は、セルビアにおける民俗音楽とポピュラー音楽「ポップフォーク」の比較分析による文化的連関を次の3点から実証的に解明することである。①両音楽の音楽的・人的連続性/非連続性、②文化政策、音楽学、音楽教育において、政治的・啓蒙的意義を付与された民俗音楽の在り様、③両音楽に用いられるアコーディオンの音楽的・文化的役割。
具体的には次の観点から取組む。①に関し(i)両音楽の音楽的異同(ii)音楽学校と文化芸術協会(KUD)出身のポップフォーク音楽家の活動実態、②に関し(i)KUDの民俗音楽の実践の実態と、その政治的・文化的機能(ii)民俗音楽の理念化のプロセス(iii)民俗音楽教育の実態と意義、③に関し(i)同地の音楽文化におけるアコーディオンの文化的展開(ii)演奏技法の比較による両音楽の関連(iii)KUDと音楽教育を通じたアコーディオンの文化的役割。以上を綜合し研究目的を達成する。

活動内容

2019年度実施計画

 平成31年度は「研究の目的」②の調査研究を補完し、③に関する調査研究を完遂する。

●前期から中期:セルビアに滞在し、資料収集と実地調査を行う(3ヶ月程度を予定)。
[資料収集]セルビアのアコーディオンの文化史的調査を行う。具体的には、セルビア資料館他においてアコーディオンが記録された写真等の関連資料、セルビア国営放送局の音源アーカイヴが保管している、同楽器によって演奏された楽曲、同放送局の機関誌Radio-Beograd(1929年創刊)他に掲載されたアコーディオン奏者やその音楽に関する記事を、網羅的に収集する。また、音楽学校で用いられる指導読本等の関連資料の収集を行う。
[実地調査]ポップフォークの原型が成立した60年代前後を知るアコーディオン奏者への聞き取りを行う。また、社会主義時代の文化理念の実践の場となったアマチュアの音楽団体KUDに関する調査を行う。特には、60年代以降、民俗音楽に活動を特化していくKUDの当時を知る関係者への聞き取りを行う。

●中期から後期:収集した資料・情報の、以下の点に基づく国内での分析と、本研究の総括
KUDの音楽実践を通じて民俗音楽に託された政治的・文化的役割を解明する。/音楽教育における民俗音楽の指導の実態、卒業生のその後の活動を解明する。/アコーディオンが担ってきたジャンルやレパートリーの分析から、アコーディオンの普及の経緯・様相を解明する。/同楽器がKUDの音楽実践及び音楽学校での民俗音楽の教育に用いられてきた実態と、セルビアにおけるアコーディオンの政治的・文化的役割を明らかにする。/民俗楽器の演奏技法と、アコーディオンによって演奏される民俗音楽、アコーディオンによって演奏されるポップフォークそれぞれの演奏技法の異同を整理し、アコーディオンを介した民俗音楽とポップフォークの音楽的な関連を解明する。

以上の結果と初年度・次年度の研究成果を全て綜合し、本研究を完遂させ、『東洋音楽研究』他で発表する。

2018年度活動報告

 研究課題「セルビアにおけるポップフォークと民俗音楽の比較分析による文化的連関の研究」は、セルビアの民俗調ポピュラー音楽「ポップフォーク」(ターボフォークとも)と、同国の民俗音楽との比較分析によって、これらの文化的連関を解明することを目的としている。
 平成30年度は、セルビアでの資料・情報収集に重点を置くとともに、セルビア人移民コミュニティがあるオーストリアでも実地調査を行った。また分析・検証過程において適宜フィードバックを得られるよう成果報告の機会を積極的に設けた。具体的には以下の通り。
【セルビア及びオーストリアでの調査】
(1)一次・二次資料を、ベオグラード芸術大学音楽学部、ベオグラード民族学博物館、セルビア科学芸術アカデミー他で収集した。(2)オーストリア・ヴィーンで活動するセルビア人音楽家(Aleksandar Jankovic、Boban Birovesko)への聞き取りを行い、セルビア人移民コミュニティにおける音楽実態を調査した。(3)ベオグラード芸術大学音楽学部で3/9-10に開催されたRegionalni susreti studenata Etnomuzikologije i Etnokoreologijeに参加し、旧ユーゴ各国の音楽研究者らと意見交換を行った。
【研究成果の報告】
(1)ポップフォークに取り込まれる民俗音楽や民俗文化の内容に関し、「セルビアの民俗調ポピュラー音楽『ターボフォーク』」という題目で発表(ゲスト講義)を行った。(2)セルビア国内と国外の移民コミュニティ双方のポップフォーク受容と、相互的な影響を分析し、また(3)民俗音楽がいかにポップフォークに取り込まれるようになったのかを検証するため、ポップフォーク以前に民俗音楽が適用された他の音楽ジャンルについて、その音楽・文化形態と言説を分析した。これら(2)(3)については、2019年度に刊行される書籍と学会誌にて発表される予定である。

2017年度活動報告

本研究の目的は、セルビアの民俗音楽調のポピュラー音楽「ポップフォーク」とセルビア民俗音楽との比較分析による文化的連関を次の3点から実証的に解明することである。(1)両音楽の音楽的・人的連続性/非連続性 (2)文化政策、音楽学、音楽教育において、政治的・啓蒙的意義を付与された民俗音楽の在り様(3)両音楽に用いられるアコーディオンの音楽的・文化的役割。
平成29年度は特に(1)(2)に取り組み、セルビアでの調査滞在において情報・資料収集に重点を置くとともに、分析・検証過程でのフィードバックを頻繁に得られるよう、国内外での成果報告の機会を積極的に設けた。
具体的には、現地の国立図書館、国営ラジオ局資料室、ベオグラード芸術大学音楽学部他で資料収集を行い、同時に音楽家、元文化大臣、音楽会社への聞き取りを実施した。また、ポップフォークと民俗音楽との音楽的な異同を分析するため、現地仕様のシンセサイザーを持ち帰った。
研究成果としては、「セルビアのポピュラー音楽『ターボフォーク』の発展と音楽産業の展開」と題する論文を、研究紀要『フィロカリア』第35号において投稿した。同年度は、その他にも多くの成果報告の機会を設けることができた。とりわけ「セルビアのターボフォーク/ポップフォーク:多元主義の実践としての音楽、文化、その変容」という題目で報告を行った地域研究コンソーシアム次世代ワークショップ「バルカン地域研究の新展開―民族の移動・越境・接触の多角的研究を目指して―」及び、ベオグラード芸術大学音楽学部で行った特別講義“Razmatranje turbo-folka/pop-folka preko diskursa i muzicke i kulturne prakse”では、同地域あるいは同分野の研究に携わる研究者らから効果的なフィードバックを得ることができた。