国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

フランスにおけるジプシーの「旅の共同体」に関する文化人類学的研究(2017-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 左地亮子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

フランスのジプシーは、移動という生活様式に基づき、定住民社会の隙間に散々して暮らしてきたが、現在、進行する定住化とそれに伴う居住政策の下で、一つの名と特定の場をもつ「共同体」として一元化、周縁化されつつある。本研究は、この人々を「ジプシー共同体」として集約し隔離する諸力との交渉の中で、ジプシーが新たに紡ぐ「旅の共同体」に着目する。具体的には、ジプシーの共同体を巡る2つの局面として、A定住地での居住政策と「共同体化」の推移を追いながら、B聖地巡礼・移動集会の宗教活動、季節的農作業の経済活動を契機に現れるジプシーの「旅の共同体」を検証する。そして、押し付けられた共同体を離れ、束の間の旅をするジプシーが、異質な他者との出会いを通して市民社会の内部に創出する非同一的な共同性を明らかにする。

活動内容

◆ 2018年3月より転出
◆ 2017年4月より転入

2017年度活動報告

フランスのジプシーは、移動という生活様式に基づき、定住民社会の隙間に散々して暮らしてきたが、現在、進行する定住化とそれに伴う居住政策の下で、一つの名と特定の場をもつ「共同体」として一元化、周縁化されつつある。本研究では、この人々を一元化し隔離する諸力との交渉の中で、ジプシーが新たに編みだす「旅の共同体」に着目する。定住する地域と押し付けられた共同体を離れ、束の間の旅をするジプシーが、実践やアイデンティティの同一性により境界画定された別様の対抗空間をたちあげるのではなく、異質な他者との偶発的な出会いと共在を享受しながら非同一的な共同体を生きる局面を探る。ゲットー化された定住地を離れ、ツーリストのごとく旅するノマドの民族誌的事例から現代における市民的共同性について新たな知見を提示することが最終的な目的である。
具体的には、ジプシーの共同体をめぐる2つの局面として、A)定住地での居住政策と「共同体化」の推移を追いながら、B)聖地巡礼・移動集会の宗教活動、季節的農作業の経済活動を契機に現れるジプシーの「旅の共同体」を検証している。本年度は、現地調査に関しては、A)に関わる調査を8月、フランスのポーにて実施し、進行中の居住政策の推移とゲットー化状況に関する情報収集を行った。またB)に関わる調査は同時期にフランスのルルド、ならびにスペイン・バルセロナにて実施し、巡礼と市民祭に関する情報収集を行った。
以上の調査研究に加え、本年度は理論研究も進め、A)の調査に関しては、その後得られたデータを分析したうえで、シンポジウム発表を行った。
さらに本年度は、過去の迫害の記憶の継承と告発という視点から、フランスのジプシーがコメモラシオン運動を通してたちあげる市民的共同性を探る分析も進めた。これに関しても、いくつかの学会・研究会・講演会にて発表を行い、関連研究者と意見を交わした。