国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

中国西南タイ民族における詩的オラリティの継承と創造的実践に関する研究(2017-2019)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 伊藤悟

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、声と文字の文化をめぐる伝承活動の事例研究から、人々がいかにして感覚的に共有してきた詩的オラリティを意識化し、伝承体系を革新しようとしているのかを解明し、社会生活における詩的オラリティの意義を再考するものである。中国西南の少数民族社会には、掛け合い歌や、歴史叙事詩の歌い伝え、テクストの朗誦をともなう教育や宗教実践など、詩的オラリティを活用したコミュニケーションが根付いていた。タイ族村落では、現代化により伝統的な文字や声の文化が廃れつつある。だが近年、村の知識人らは書物の解釈、朗誦や聴取の技法、新文字への翻訳などの伝承活動を始めた。本研究は、文字文書やその継承をめぐる研究において見落とされてきた、テクストを書き、詠み、聴く人々の実践の即興性、そこで経験される文化的感性、そして社会生活の相関に着目して調査研究し、生活の美学としての詩的オラリティの特徴を明らかにする。

活動内容

◆ 2018年4月より転入

2019年度実施計画

これまで意識化されてこなかった、修得・継承の対象でありながら書物の正しい朗誦と読解の障害にもなりえる詩的オラリティの問題点と、詩的イメージ伝達のためのテクストの校正や修正の議論について、今後どのように人々が規定して実践していくのか、参与観察を継続する。
また、翻字化された書物が今後どのように社会に普及するか、またその影響を現状やタイ北部の事例から考察し、詩的オラリティと社会との関係性について考察する。
タイ王国北部の比較事例に関しても、中国側の活動の展開と共通点や相違点がどのように生まれるか継続して基礎的資料、データの収集を行う。

2018年度活動報告

中国西南の少数民族地域には、掛け合い歌や、歴史叙事詩の語り、詩文形式の宗教テクストの創作や朗誦など、詩的オラリティを活用したコミュニケーションが根付いていた。近年、タイ族社会では、文字や声の文化が危機的状況にあり、継承と発展に取り組む様々な活動がみられるようになった。
本研究は、声と文字の文化の伝承活動の事例から、人々がいかにして感覚的に共有してきた詩的オラリティを意識化し、伝承体系を革新しようとしているのかを解明し、社会生活における詩的オラリティの意義を再考するものである。
今年度は、中国雲南省および比較対象としてタイ王国北部にて現地調査を実施した。その主な目的は、①テクストを固定された書かれたものとしてみなさず、声や文字の実践の現場でその都度生まれて来る行為の一形態ととらえ、伝承活動や宗教実践などについて参与観察を行なう。これにより着目したことは、参加者の読解能力の低下と詩的オラリティの関係性の障害的側面に関する人々の議論だった。②前年度の調査研究を受け、50年以上前にタイ王国北部で行われていた声と文字の文化をめぐる伝承活動について、比較考察のため調査を行った。
今年度はこれまでの調査研究の成果の一部を論文「徳宏タイ族社会における詩的オラリティの伝承活動」として発表した。