国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

嘉戎語文法研究(2018)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|研究成果公開促進費(学術図書) 代表者 長野泰彦

研究プロジェクト一覧

目的・内容

嘉戎(ギャロン)語は、チベット・ビルマ諸語の複数の下位言語グループに亘る文法的特徴を兼ね備えた言語(以下、繋聯言語)で、チベット・ビルマ諸語の歴史を探究する上で不可欠の研究対象である。小著は、嘉戎語莫拉(ボラ)方言の音論と形態統辞論を詳細に記述し、この言語の全体像を描出することを目的としている。 序論では地域の概況と地理を述べた後、嘉戎と呼ばれる文化域の歴史を3世紀以降について漢籍とチベット語文献によって明らかにした。音論では音節構造、子音、母音を簡潔に説明。続く形態統辞論的記述は本書の中枢をなす部分で、品詞ごとに語の用法を例とともに示した。中でも動詞句はチベット・ビルマ語族の中でも最も複雑な構造になっており、様々の接辞が生産的に働いて状態と動きを的確に表現している。5種の前接辞と2種の後接辞がその表現に必須の要素として機能しており、具体的には、ムード、テンス、アスペクト、エビデンシャル、人称、態(ヴォイス)を指定する。これらの接辞を、言語類型論研究の新しい成果を取り入れて解析できたと自負している。その上で、前節で扱わなかった単文と複文における注意すべき現象や節のあり方を記述した。 1200余りの基礎語彙と、附論として文法構造を把握するのに便宜な「200例文」と、より日常的・慣用的表現を集めた「日常表現260」を採録し、CD-ROMにその音声を収録した。また、嘉戎語形態索引では広く語彙を拾い、読者が用法を把握しやすいレファランスグラマーたるべき姿を心がけた。