国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

アートツーリズムのエスノグラフィー:地方国際芸術祭の深化と拡充の理論化に向けて(2019-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 山田香織

研究プロジェクト一覧

目的・内容

サイトスペシフィックなアートを多数展示する地方国際芸術祭は2010年以降増加している。さらに今日、これに関連する実践は、ツーリズムという要素との連関の下、時空間的に広がりをみせている。一方これに関する研究は、開催の背景にある地域振興・地域創生、アート×地域振興という斬新な組み合わせ、新しいアート形態等が要因となり、多方面で展開されている。ただし 、そのまなざしは、芸術祭そのもの、それに直接関与する人や場所に焦点化する傾向にある。つまり、アートツーリズム研究の観点からは十分かつ具体的な議論がなされてこなった現状がある。
こうした現状と研究動向をふまえ本研究では、地方芸術祭の実施が契機となり、当該地域で広がりをみせるアートと芸術祭に関連するツーリズムの事象を、民族誌的研究手法を用い総体的に捉えることで、アートツーリズムの具体的議論を拓くことを目指 す。

活動内容

◆ 2019年4月より転入

助成事業期間中の実施計画

研究2年目の令和元年は本研究の主調査対象である瀬戸内国際芸術祭開催年である。そこで、同芸術祭とそれに関連する観光現象の参与観察、同地でアートツーリズムに関わる多様なアクターへの聞き取り調査をおこない、情報収集を進める。同芸術祭開催地のひとつであるA市においては、アートツーリズムに関する検証の一助とするべく、アート以外の観光現象についても調査を実施する。このほか、アートツーリズムの類似事例調査をおこなう。先行研究の把握にはこれまで以上に積極的に取り組む。
本研究最終年の令和2年は、補足調査を進めながら研究成果を理論化し、学会等で公表する。データ収集の進度によるが、成果発表は研究2年目においても可能な限りおこなう予定である。

2018年度活動報告

地方国際芸術祭は2010年以降日本各地で開催されており、数ある芸術祭開催地のなかには、芸術祭が契機となって、観光現象に広がりや深みがみられる地域も出現している。こうした状況に鑑みれば、地方国際芸術祭を観光を創発する機会と捉えることができる。しかしながら、地方国際芸術祭(=アートツーリズムの一例)を観光学の視点から捉えた議論は必ずしも多くはない。こうした実情に鑑みて本研究は、地方国際芸術祭の成功事例の一つとされている瀬戸内国際芸術祭を例にとり、これとそれを取り巻く観光現象を民族誌的手法を用いて調査研究することで、アートツーリズムの具体的議論を拓くことを目指している。
研究1年目の今年度は、調査計画に則って先行研究の渉猟と現地調査によるデータ収集をおこなった。その結果次の成果を得ることができた。【先行研究渉猟】社会学・文化人類学・地理学を中心とした観光学の基礎理論、観光まちづくり論に関する把握を進めた。あわせて関連学会(観光学・文化人類学・地域振興)や研究会において最新の研究動向を把握した。
【データ収集】ほぼ計画どおり①主たる調査地(A市ならびに瀬戸内国際芸術祭)、②比較参照点としてのアートプロジェクト(BEPPU PROJECT、越後妻有大地の芸術祭)の調査をおこなった。①においては、A市における瀬戸内国際芸術祭やそれに関連するアートプロジェクト、さらにはこれ以外の多様な観光現象の同時多発的発生の実情を捉えることができた。同地では複数のアクターへの聞き取りを実施し、各観光現象とそれらの連関について情報収集をした。これら調査を通じて、アートプロジェクトはもとより、これ以外の観光現象にも目配りをした継続調査が、本研究におけるアートツーリズムの議論の深化に有効であると確信した。②では、参与観察をしたアートツアーの内容から本研究テーマを考える上で有効な補助線を得ることができた。