国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ワインツーリズム推進策の国際比較的見地からの政策人類学的な分析(2018-2020)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 児玉徹

研究プロジェクト一覧

目的・内容

地域の特徴ある農産物や食文化に起因するフードツーリズム、中でもワインツーリズムの推進は、地域経済活性化を目的に世界各地で行われている。ワインツーリズムを始めとしたフードツーリズムの中核的要素のひとつがテロワールという概念である。テロワールとは「土地」「土壌」等を意味する言葉で、ある特定の農産物のオリジナリティを評価するための概念として頻繁に用いられる。本研究ではテロワールをフード産業に関わる多種多様な主体の動的な関係性の中で「政策的に」創造される文化的情報として位置付ける。そして政策人類学的(Anthropology of policy)な視点から、ワインのテロワールに関する文化情報の創造・発信・普及を支える多種多様な政策・制度・仕組みにおける産官学民の相関関係を明らかにすべく、文献調査とフィールドワーク調査を実施し、フードツーリズムや文化ツーリズム研究に関する重要な学問的視座を提示する。

活動内容

◆ 2018年7月1日転出

2018-2020年度活動計画

本研究調査の過程においては、政府機関やワイナリー経営者、ワイン関連企業・団体や観光関連企業・団体が推進するワインブランド推進策やワインツーリズム推進策、ワインの特性・オリジナリティとワイン産地のテロワールの結びつきに関する多様な文化情報の創造・発信を目的とした地域プラットフォーム組織の形成と運用、ワインの特性・オリジナリティとワイン産地のテロワールの結びつきをもとに当該ワインの地理的表示や原産地呼称を「知的財産」として保護する制度(地理的表示保護制度等)の仕組みとその運用(当該制度の運用をめぐる新世界と旧世界の国際的な対立も含む)、特徴ある高品質ワインを生み出すワイナリーの集積促進政策の運用とその効果、ワイン商品やワインツーリズムを推進する関係主体間での国内外でのネットワーク構築とその運用、テロワール情報の発信・普及に影響を与えるワインフェスティバル等の地域イベントの開催とその効果、ワインの品評会・コンテスト制度、ワインのテロワール関連情報の創造・発信・普及に重要な役割を担う人材の職能を証明するための国内外の資格制度(例:ソムリエ制度等)、ワイン業界のオピニオンリーダーによるメディア発信とその影響力、ワインを含む農産物テロワール関連情報に関する科学者からの情報発信、といった点に強い関心を払いながら、国際比較的見地より研究調査を実施する。

本研究では、国内外の主要ワイン生産地の中から複数の研究調査対象地を選定してフィールドワーク調査を実施する。国内では、山梨県・長野県等の主要ワイン生産地、海外では、ワイン生産の「旧世界」に属する国における主要ワイン生産地と、ワイン生産の「新世界」に属する国における主要ワイン生産地の双方を研究調査対象として選定することを予定している。また、上述の調査項目に関連した国内外のイベントや会合への出席を通して、フィールドワーク調査を実施する。これらフィールドワーク調査を実施するに際しては、事前に十分な関連文献調査を実施する。そして実際のフィールドワーク調査を通して、産官学民の関係者が上記調査項目に関連して発する多種多様な情報を、インタビュー調査や文献収集・調査等を通して効果的かつ効率的に収集する。インタビューは事前に相手方からの明確な同意を得てから実施する。また、インタビュー調査等において入手する個人情報については、相手方との合意事項や個人情報保護法等の法令、関連学会の倫理規程に準拠しながら慎重に取り扱う。

研究成果については、国内外の関連学会等での研究発表やそれら学会等が発行する学術雑誌等での発表、関連書籍やその他多様なメディア媒体での論文・論考の発表、大学等教育研究機関での教育活動等を通して、広く社会に向けて公表・還元していく予定である。