国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

<客家空間>の生産(2019)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|研究成果公開促進費(学術図書) 代表者 河合洋尚

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本書は、客家の居住地でして知られる梅県を舞台とする民族誌である。客家は、中国東南部の山岳地帯を本拠地とする漢族の一集団であり、そこから少なからずの人びとが世界各地に移住している。一般的に、梅県は世界各地に住む客家の「故郷」とみなされており、梅県の常住人口を客家、物質・民俗的事象を客家文化とする風潮が根強い。同様に、従来の客家研究も、梅県のあらゆる事象をアプリオリに客家と結びつけて認識してきた。それに対して本書は、梅県=客家地域とアプリオリに結びつける認識論的アプローチを批判し、むしろ1980年代の中国で市場経済化が推進されるにつれ、梅県がいかに客家の<空間>として生成されるようになったのか論じることを目的としている。本書が明らかにするのは、歴史文献のうえで梅県が客家と結びつけられるようになるのは19世紀末のことで、この図式が定着するのは1978年の改革開放政策が始まってからだということである。梅県の政府、メディア、学者、企業、そして宗族(親族集団)は、各自の目的に応じて客家文化をめぐる概念や言説を利用するようになり、これら多様なアクターにより「客家の故郷」としての梅県の文化的景観がつくられていった。本書は、特に客家文化という認識的枠組みから零れ落ちる諸実践に着目し、宗族がそれを本物の客家文化として発見・主張することで、梅県が<客家の空間>として不断に生成され続けている動態的側面を描き出している。