国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

人類学における芸術研究の刷新:イメージ人類学の創成に向けた国際共同研究基盤の強化(2020-2024)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)) 代表者 吉田憲司

研究プロジェクト一覧

目的・内容

カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学の人類学博物館(MOA)と我が国の国立民族学博物館の間で実施する本国際共同研究の目的は、イメージの動態とそれが生み出す人間の経験のありかたを解析することで、イメージの多様性と普遍性を共に明らかにする「イメージ人類学」を創成することにある。それは、人類学における芸術研究を刷新するものであると同時に、人類学と芸術学を架橋するものでもある。
ここでいう「イメージ」とは、視覚的造形芸術だけでなく、音声やパフォ-マンス、さらには内的なイメージ(心像)をも含む。研究の対象をこのように拡大することで、逆にイメージの生成の中核にある芸術現象の特質を照射することが可能となる。それを通じて、人類学とアート(芸術)の研究を架橋することに留まらず、認知科学や動物行動学、霊長類学、音楽学、言語学、文学など、さまざまな関連分野との分野横断的共同研究に道を開くことも企図している。

活動内容

補助事業期間中の研究実施計画

本国際共同研究では、ブリティッシュ・コロンビア大学人類学博物館(MOA)が海外共同研究拠点となる。海外共同研究者は、同館館長のアンソニー・シェルトン、ニコラ・ルベル、ヌノ・ポルト、フユビ・ナカムラの各氏である。いずれも、同館の本務であるカナダ北西海岸の先住民芸術の研究とともに、世界の他地域の芸術伝統についての関心と業績を有する研究者で、このうちのヌノ・ポルトとフユビ・ナカムラの2名は若手の研究者であり、日本側研究分担者の柳沢史明、緒方しらべと同様、将来の研究ネットワークの構築と強化に配慮した構成となっている。 本研究計画の独自性のひとつは、MOAのアメリカ大陸、とくに北西海岸における研究の蓄積と、民博におけるアフリカに関する研究の蓄積を統合する点にある。アメリカ大陸とアフリカ大陸という二つの地域の芸術伝統を照らし合わせ、さらにMOAと民博という博物館人類学に関する二つの中核的研究機関の学術資源を集約することは、相互の対象化・相対化を可能にするだけでなく、人類学における芸術研究を総括するものにほかならない。
本国際共同研究では、まず国際共同研究機関となるカナダのMOAに赴き、イメージの生成・動態に関する問題意識を共有したうえで、2段構えの構成をとる。第1段では、日本側の研究代表者・吉田憲司および亀井哲也、柳沢、緒方の3名の研究分担者が、MOAの研究者とともにアフリカのそれぞれのフィールドへ赴き、現地の研究者とその共同研究をおこなう。調査対象地域については、吉田がザンビア、モザンビーク、亀井が南アフリカ、柳沢がセネガル、緒方がナイジェリアを担当する。第2段では、研究代表者・研究分担者がカナダのMOAに赴き、アフリカでの研究の成果を注入する形で、イメージの動態をめぐる共同研究を実施する。具体的には、MOAの研究者グループと日本側の研究者が共同で、MOAとその周辺のカナダ北西海岸先住民コミュニティにおいて共同調査・共同研究を実施する。その際、それぞれの世界の他地域での研究から得た知見も全体で共有することにより、カナダ北西海岸先住民族の間でのイメージの生成・作用についての知見を相対化し、人類全体に視野を広げて、イメージの生成・作用の多様性と普遍性の考察を進める。本研究計画はこの二つの作業の往還運動によって構成される。最終年度には日本側、カナダ側のメンバー全員がMOAに参集して共同研究の総括をおこない、「イメージ人類学」のマニフェストを作成する。