国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

上海万博の経営人類学的研究(2009-2011)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 中牧弘允

研究プロジェクト一覧

目的・内容

上海万国博覧会(以下、上海万博)は2010年の5月1日から10月31日にかけて半年間開催される世界最大級の博覧会である。「より良い都市、より良い生活(Better City, Better Life)」をテーマに掲げ、副テーマとして「都市多元文化の融合」がうたわれている。本プロジェクトは上海万博を都市文化、都市生活の未来像を展示し体験する博覧会ととらえ、都市の経済、科学技術、コミュニティーをめぐる多元的文化の理想像を経営人類学的手法によって検証しようとする。東アジアが近未来の都市文化、都市生活の改善・革新に何が貢献できると考えられているか、とくに企業に焦点をあわせて展示やイベントを分析することが課題である。他方、欧米、ならびにBRICsからそれぞれフランス、アメリカ、ブラジルをえらび、同様の方法で接近を試みる。また近年の万博におけるNPO/NGOの参加形態をふまえ、上海万博におけるNPO/NGOの活動を都市文化、都市生活の主要なアクターとしての観点から分析する。さらに博覧会場におけるバリアフリーにとどまらず、都市生活におけるバリアフリーのテーマも近未来の都市経営、博物館経営にとっては重要な課題である。

活動内容

2011年度活動報告

上海万博終了後の変化を現地で追うとともに、研究の成果を研究会、学会や国際集会などで発表し、報告書の刊行につなげた。
現地調査:上海万博の跡地利用の実態を調査し、あわせてサウジアラビア館、上海万博記念館の展示を視察した。万博開催中に観光客が訪れた蘇州の調査をおこなった。パリの万博本部では万博関連の資料にあたった。ブラジルではブラジル館の館長へのインタビューとサンパウロ市のベストシティ実践区の展示の補足調査をおこなった。
研究発表:香港大学で開催されたIFBA(International Forum on Business and Anthropology)、エストニアのタリン大学でひらかれたEAJS(European Association for Japanese Studies)、立命館アジア太平洋大学で開催されたAJJ(Anthropology of Japan in Japan)等の機会に研究発表をおこなった。また、12月と2月の研究会ではメンバーの報告に加え、特別講師を招いて意見交換をおこなった。
研究報告書:上海万博について聖空間、国家、都市、企業、その他のテーマにわけて4部構成をとり、報告書(317頁)を3月に刊行した。

2010年度活動報告

2010年5月1日から10月31日まで半年間にわたって開催された上海万博の現地調査を実施した。調査対象とした主なパビリオンは、5つのテーマ館、日本館、アメリカ館、ブラジル館、フランス館、中国国家館、台湾館、香港館、マカオ館、韓国館、日本産業館、韓国企業連合館、上海企業連合館、コカコーラ館、生命陽光館、国連館、ベストシティ実践区の大阪館、サンパウロ館、ポルトアレグレ館などであった。
ナショナルデーにあわせ、日本、ブラジル、フランスを対象とし、関連イベント等の調査もおこなった。会場内のさまざまなモニュメントについても調べた。また会場内で質問表をつかった調査も実施した。上海市内ではNPOの活動に関する調査を実施した。
万博終了後、12月28日に上海師範大学でワークショップを開催した。日本側からは中牧をはじめ、市川、晨、大石、中国側からは張継焦、曹建南にくわえ上海師範大学の教員学生が参加し、1日かけて報告と討論をおこなった。また、上海社会科学院、上海国際問題研究院においても情報交換ならびに研究交流をおこなった。
国立民族学博物館で開催されたInternational Forum on Business and Anthropology(ビジネスと人類学の国際フォーラム)の「World Expo as Sacred Space(聖空間としての万博)」というセッションで中牧、市川、張継焦が報告をおこなった。

2009年度活動報告

平成22年度に開催される上海万博に向けて、その準備状況について調査した。国内においては経済産業省、日本産業館事務局、大阪市、上海万博局日本事務所などを訪問し、上海では上海万博局などでインタビューを実施した。また上海では万博のPR展示館を2ヵ所訪問し、情報の収集につとめた。
海外諸国の出展については、中牧がブラジル館、サンパウロ市、ポルトアレグレ市の展示構想について調査し、住原はアメリカ、市川はフランスの過去の万博について情報を収集した。台湾、香港、澳門等でも現地調査をおこなった。日置、王英燕、晨晃は上海とその周辺地域において企業調査をおこなった。
上海師範大学および同済大学においては中国の研究者たちに万博の取り組みについてヒアリングをおこない、中国館のテーマの絞込み、建築設計、上海の都市交通などの課題に大学研究者がいかにかかわってきたかを調査した。
研究会には吉見俊也東大教授をまねき、「戦後日本と万博構想―大阪万博から40年」と題する報告を聞く機会を設けた。また、万博開催時のメンバー間の取り組みについても協議した。
中国が北京オリンピックに続いて国際的なプレゼンスを高める絶好の機会として推進している上海万博は、上海に経済的な活況をもたらしていることが実感され、同時に上海市民には規律をもとめ、国際社会に適応する市民としての自覚がうながされていることなどが現地調査から明らかとなった。
上海万博が過去の万博の何を継承し、どこがちがうのか、多少の仮説的展望もみえてきた。たとえば、NPO/NGOは愛知万博で脚光を浴びたが、上海万博では国際組織や都市の実践例などに潜むかたちとなること、またバリアフリーの思想がはじめて万博に登場することの意味などは新たな課題として取り組む価値がある、といった点である。
経営人類学的には国家館や国際機関がパビリオンを構える浦東会場と、都市と企業の展示会場である浦西会場との関係を解きあかすことがひとつの課題となる。