国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

ギャロン系諸言語の緊急国際共同調査研究(2009-2012)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 長野泰彦

研究プロジェクト一覧

目的・内容

ギャロン語は、チベット・ビルマ諸語の複数の下位言語グループに亘る文法的特徴を兼ね備えた言語 (以下、繋聯言語)で、チベット・ビルマ諸語の歴史を探究する上で不可欠の研究対象である。本計画では、ギャロン語及びギャロン系言語群の語彙と形態統辞論的な文法的特徴(以下、形態統辞法)を網羅的に記述し、より精確なギャロン祖語を再構するとともに、そのデータベースを作成・公開することによって、チベット・ビルマ系諸言語の系統関係と下位分類を精密化することを目的とする。また、これを通じて、歴史言語学の主要な方法である「比較方法」に「接触・基層」の視点を取り入れることがどこまで有効であるかを検証する。
このため、本研究を次のような全体構想の下に実施する。
1.21/22/23年度は基本的にフィールドでの記述研究を集中的に行い、記述と音声資料を蓄積する。調査票は組織的に作成された語彙調査票と形態統辞法調査票により行う。
2.22/23年度からデータベース整備とArcGISを用いてWEBの地図上にデータを落とし込む準備を始め、24年度にはその完成形を提示・公開すると同時に、STEDTとのリンクを行う。
3.ギャロン系諸語が基層をなしている可能性が高い、未解読古文献言語、シャンシュン語を解読し、文法を再構成するため、フィールドワークの結果と敦煌出土チベット文献(古シャンシュン語:9世紀)及び再構されたシャンシュン語語彙(14世紀)の突合・比較を行う。
4.上記の研究から明らかになる接触や基層関係が歴史言語学方法論にどのような貢献をなし得るかを海外協力者と共同で検討する。

活動内容

2012年度活動報告

ギャロン語は、チベット・ビルマ諸語の複数の下位言語グループに亘る文法的特徴を兼ね備えた言語(繋聯言語)で、チベット・ビルマ諸語の歴史を探究する上で不可欠の研究対象である。本計画は、ギャロン語及びギャロン系言語群の語彙と形態統辞法を網羅的に記述し、より精緻なギャロン祖語を再構するとともに、そのデータベースを構築・公開することによって、チベット・ビルマ系諸言語の系統関係下位分類を精密化することを目的としてスタートした。
81のギャロン語方言を共通の400・1200語語彙調査票により記述し、同時に文の基本構造が分かる200の例文を蒐集した。
24年度はこれらのデータベース整備を主に行い、調査結果をWEBの地図上で検索できるシステムを開発し、国立民族学博物館のDBとして公開する準備を行った。プログラム開発は24年度中に完成し、2013年7月に一般公開できる予定である。
このDBとの関連において、各方言の音声・音韻Inventory及び語彙索引を、語彙と200例文の音声データとともに国立民族学博物館の調査報告として25年度内に刊行する。
ギャロン系諸語が基層をなしている可能性が高い、未解読古文献言語、シャンシュン語の構造解明のため、新シャンシュン語DB作成をも行い、比較研究を行った。これと関連して、北京の故宮博物院が所蔵する『川番譯語』を解析し、そのチベット字が表す言語がギャロン語であることを実証した。現地調査は限定的な補遺調査に留めた。

2011年度活動報告

1.記述調査研究: 記述ローテーションに従い、ギャロン語北部方言をJacquesとPrinsが、東部方言を長野と扎西が、南部方言を白井と鈴木が、西部方言を嚴木初、蒋、綺羅が、西部に分布するギャロン系言語を白井と池田が、それぞれ記述調査研究を行い、1200の基礎語彙と200の基本的例文を計30のギャロン系諸語について収集した。
2.ギャロン系諸語が基層をなしている可能性が高い、未解読古文献言語、シャンシュン語の解明のため、その文献資料の電算機解析と新シャンシュン語のデータベース作成を行った。
3.北京の故宮博物院に所蔵される『川番譯語』のチベット字が表す言語がギャロン語であることが明らかになりつつあるので、これの解析のため、長野・池田・立川・Kolhatkar を中国、ネパールに派遣し、文献学的研究を行った。また、故宮博物院研究員4名を大阪に招聘し、これに関する国際研究集会を開催した。
4.上記の研究を基盤とする歴史言語学方法論の理論的研究を、菊澤が海外のワークショップ等で検討した。

2010年度活動報告

ギャロン語は、チベット・ビルマ諸語の複数の下位言語グループに亘る文法的特徴を兼ね備えた言語(以下、繋聯言語)で、チベット・ビルマ諸語の歴史を探究する上で不可欠の研究対象である。本計画では、ギャロン語及びギャロン系言語群の語彙と形態統辞論的な文法的特徴(以下、形態統辞法)を網羅的に記述し、より精確なギャロン祖語を再構するとともに、そのデータベースを作成・公開することによって、チベット・ビルマ系諸言語の系統関係と下位分類を精密化することを目的とする。
上記の目的を達成するため、22年度は、ギャロン語方言調査のため、長野・扎西・Jacques・Prins・才譲、蒋、Chos Nor・池田・白井・鈴木を中国に派遣した。
ギャロン系諸語が基層をなしている可能性が高い、未解読古文献言語、シャンシュン語の解明のため、その文献資料の電算機解析と新シャンシュン語のデータベース作成を行い、比較研究に着手するため、武内等を英国に派遣した。
また、北京の故宮博物院に所蔵される『川番譯語』のチベット字が表す言語がギャロン語であることが明らかになりつつあるので、これの解析のため、長野・池田・立川・津曲・Kolhatkar を中国、ネパールに派遣した。
22年度連携研究者は池田巧(京都大学)、菊澤律子(国立民族学博物館)と白井聡子(名古屋工業大学)、協力者は鈴木博之(国立民族学博物館外来研究員)、M. Prins(西南民族大学)、G. Jacques(パリ第5大学)、才譲周毛(香港浸會大学)、立川武蔵(愛知学院大学)、津曲真一(四天王寺大学)、蒋颖(中央民族大学)、扎西達娃(四川大学)、Chos Nor(西南民族大学)、M. Kolhatkar(Deccan College)である。

2009年度活動報告

ギャロン語は、チベット・ビルマ諸語の複数の下位言語グループに亘る文法的特徴を兼ね備えた言語 (以下、繋聯言語)で、チベット・ビルマ諸語の歴史を探究する上で不可欠の研究対象である。本計画では、ギャロン語及びギャロン系言語群の語彙と形態統辞論的な文法的特徴(以下、形態統辞法)を網羅的に記述し、より精確なギャロン祖語を再構するとともに、そのデータベースを作成・公開することによって、チベット・ビルマ系諸言語の系統関係と下位分類を精密化することを目的とする。また、これを通じて、歴史言語学の主要な方法である「比較方法」に「接触・基層」の視点を取り入れることがどこまで有効であるかを検証する。日本、中国、オランダ、フランス、米国、豪州の研究者による国際的共同調査研究により、効率的に所期の目的を達成しようとするものである。
上記の目的を達成するため、21年度はギャロン系諸語の網羅的記述に重点を置き、長野・池田・鈴木・津曲・立川・白井及びプリンスをはじめとする中国在住の協力者5名を中国・四川省阿_蔵族羌族自治州・甘孜蔵族自治州とネパール・カトマンドゥ市に派遣した。この結果、ギャロン語西部方言と北部方言を中心とする13方言及びギャロン系の言語2種につき、1200の基礎語彙と200の統語論研究のための例文を、共通の調査票に基づいて収集できた。また、系統関係の観点からシャンシュン語の解読に向け、武内を英国図書館に、歴史言語学方法論の検討のため、菊澤をオランダのニーメーゲン大学に派遣した。